第38話 真面目なシーンのエロはなんて言う?

 自室に戻ってから、店長さんに言われた事を振り返る。陽葵さん・陽菜さんと一緒に過ごすには、異動や転勤がない自営業が最適みたいだ。


でも簡単じゃないはず。もしそうなら、父さんが自営業してても良いはずなんだから…。


この件、陽菜さんはどう思うんだろう? 少しでも早く知りたいから、“マコール”に行って直接尋ねよう。


姉妹のシフトが終わるタイミングは同じだし、時間の調整は簡単だ。



 思い通りの時間に“マコール”のスタッフルームに到着した。…店長さんは変わらずデスクワークか。2人は更衣室かな?


「あっくん、また来てどうしたの? 忘れ物?」


「いえ。さっき店長さんから聞いた話を、陽菜さんに話したいと思いまして」


「まりまりとぴよちゃんは、ついさっき更衣室に入ったよ」


「わかりました」


ボクは更衣室の扉をノックした。するとすぐ扉が開き、下着姿の陽葵さんが出て来た。


「朝日君、帰りも来てくれるとは思わなかったよ。嬉しい♡」


「実は、さっきの店長さんの話を陽菜さんに伝えたくて」


「聞いた当日に話すなんて真面目だね。入ってよ」


「お邪魔します…」


ボク達3人はHした事があるから、互いの裸を見ている。けど着替え中の女子更衣室に入るのは、それとは違う恥ずかしさがあるな。


…陽菜さんも着替え中のようで、下着が丸見えだ。それでも戸惑う様子を見せない。


「朝日さん、店長からどんな話をされたんですか?」


「着替えながらで良いから聞いて欲しい」

ボクは店長さんの話を彼女に伝えた。


「なるほど、将来の事ですか…」


「陽菜さんはどう思う?」


「確かに朝日さんと離れたくありませんが、自営業は難しいと思います」


やはり陽菜さんは現実的だな。厳しいけど頼りになる。


「何で? アタシ達3人ならうまくやれるんじゃない?」


「お姉ちゃん、自営業とサラリーマンの人数差を知ってる? 圧倒的にサラリーマンの方が多いよ」


「そうなの?」


「うん。政治経済の授業で勉強したから」


「もし自営業で何とかなるなら、自営業の人はもっと多いはずだよね?」


「わたしも朝日さんと同意見ですね。一般的に、自営業はサラリーマンより縛られる事は少ないはずです。にもかかわらず人数が少ないのは…」


「大変って事か~」


「そういう事。もちろん何とかなる可能性は0じゃないと思うけど…」


……姉妹が着替えを終えたようだ。


「朝日さんお待たせしました。帰りましょう」


「そうだね」


ボク達3人は、一緒に更衣室を出た。



 「あっくん。私、余計な事しちゃったかな?」


スタッフルームに戻ると、何故か店長さんが申し訳なさそうな顔をしている。


「急にどうしたんですか?」


「だって、思ったより深刻そうに考えてるから…。まりまりみたいに“右から左に聞き流す”とばかり…」


「店長、それアタシに失礼」


「将来だけじゃなくて、今も大切にして欲しいんだよ。大学生は時間がたっぷりある時期だからさ」


店長さんは良かれと思って言ったはずだ。そんな彼女を責める訳がない。


「店長、気に病む必要はないですよ。将来の事は、遅かれ早かれ考えないといけないんです。考える機会を与えてくれて、むしろわたしは感謝してます」


「ボクもです」


「アタシは早く考え過ぎだと思う。大学生になってまだ2週間しか経ってないんだから、そんな先を考えても無駄だって」


陽葵さんの気持ちもわかるけど…。


「3人の気持ちは分かったよ。あっくん、まりまりとぴよちゃんのご機嫌をうまく取ってね」


「はい…」


姉妹で方向性が違うもんな。うまくまとまる事を祈ろう。



 「あっくん。私の話って、まりまりとぴよちゃんが着替えてる時にしたんだよね?」


「そうですよ」

じゃなかったら、更衣室に入る必要がない。


「2人の着替えを見ながらそんな話ができるなんてね~。見慣れてるのかな?」

ニヤニヤする店長さん。


「そんな事ないです。陽菜さんの気持ちを知る事で頭が一杯だったんですよ」


「そう言われると、アタシ達なんか負けた感じがしない?」


「全然しないけど…」


「もしアタシ達が超エロかったら、朝日君はそんな話をする前に手を出すよね♡」


仮に我慢できなくても、大切な話をしてからにするよ…。


「真面目な話をしてる時のエロか~。『シリアスエロ』か『シュールエロ』になるのかな?」


店長さんは突然何を言い出すんだ?


「どっちもアタシの好みじゃないな~。やっぱ良い雰囲気のエロが1番!」


「はいはい。お姉ちゃん、そろそろ帰るよ」


「店長、お先に失礼しま~す」


「気を付けて帰るんだよ~」


ボクと陽菜さんは挨拶に加えて一礼をしてから、スタッフルームを後にする。



 「そういえば朝日君。今日あのおばさん来たよ」

駅に向かう道中、陽葵さんが声をかけてきた。


「吉井さんだって、日曜日に言ったよね? お姉ちゃん…」


「そんな事は良いじゃん。あの人、朝日君に用があるらしいよ。明日シフトあるって言ったから、多分来ると思う」


「そうなんだ」

先が思いやられるよ…。


「朝日さん、今日は家に寄りますか?」


「う~ん、止めておくよ。店長さんとの話が長引いたから」


それに、Hするのは週の後半のほうが良い気がする。火曜日はまだまだ前半だ。


「わかりました」


「朝日君、1人で抜いちゃダメだからね! 抜くのはアタシ達に任せて!」


「わたし達に出来る事はしますから」


「ありがとう2人共。その時はお願い」


なんて話してる内に“マコール”の最寄り駅に着くのだった。

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