第35話 息子がいたら…

 1回目同様、リサイクルセンターに持って行く物を陽子さんの車に積み込む。当然あのパソコンもだ。あれはお父さんにとって、間違いなく黒歴史になるからね…。


結局、何をやってもフリーズを解決できなかったので、バッテリー切れになるまで待った。初期化はしてないけど、何とかなる事を祈ろう。


リサイクルセンターに着いてからは、物を該当する回収BOXに入れる。2回目だとすんなりできるな。そして帰り道…。


「朝日くんのおかげで全部片付いたわ。ありがとう」

陽子さんが助手席にいるボクに対して微笑む。


「いえ、お役に立てて良かったです」


「お礼をしたいから、外でランチ食べない? 時間はちょっと早いけど…」


まだ11時にすらなっていない。でも準備や移動の時間を含めれば問題なさそうだ。日曜日のランチは混むから、早いほうが良いよね。


「母さん。それって朝日君と2人きり?」

後部座席にいる陽葵さんが尋ねる。


「そんな訳ないでしょ。陽菜を入れた4人よ」


「あの子はじゃん。手伝ってないのに外食するの?」


「勉強してただけ?」


何だ? 陽子さんの声のトーンが変わった。


「陽菜は私が何も言わなくても、自主的に勉強する良い子よ? それに対して、あんたはどう? 1回でも自分から勉強した事ある?」


「ないね」


「言われてからやるならまだ許すわ。問題は、言われてもやらない事よ。あんたはいつもそうなんだから…」


「母さん。朝日君の前で説教は止めて欲しいな~」


「…それもそうね。ごめんね、不愉快な思いさせて」


「いえ…」

陽葵さんは、今も昔もあまり変わってなさそうだ。


「朝日君。大学の講義で陽葵が寝てたら、容赦なく起こすのよ。良いわね?」


「はい…」

一緒に大学を卒業するために、時には心を鬼にするべきかも。



 自宅に戻ったボク達3人。リビングに陽菜さんの姿がなかったので、陽子さんが彼女の部屋をノックしてから、ランチについて扉越しに話した。


すると陽菜さんは、すぐ部屋の外に出てくれた。


「お母さん。わたしは何もしてないのに、みんなと外食して良いの?」


「もちろんよ。陽菜は勉強するだけじゃなくて、ちゃんと結果も出してるからね。頑張ってる子にはご褒美をあげないと」


「ありがとうお母さん」


「さて、混む前に向かいましょうか」


今度は陽菜さんを含めた4人で車に乗る事になる。


「朝日くん、また助手席でお願いね」

車に着いてから陽子さんが言う。


「ちょっと待ってよ。この車は5人乗りだよ? もう荷物はないし、朝日君は後部座席で良いじゃん」


陽葵さんが異議を唱える。ボクが真ん中で、姉妹が左右に座る流れだな。


「確かにそうだけど、3人だとスペースに余裕がないじゃない。男の子は足を広げて座るんだから、広いほうが良いわよね?」


「はい…」


「陽葵か陽菜が助手席に座ったら、バランスが悪くなるでしょ?」


「どっちかは絶対ハブられるね」


「朝日くんは2人を同じように接しないとダメなの。それは私が言わなくてもわかるんじゃない?」


一方を贔屓したら『ハーレムルート』にならないな…。


「だから助手席って訳? アタシ達が隣にならないように」


「そういう事よ。これから4人でペアを作る時は、朝日くんは私と一緒になってもらうわ」


「……」


陽葵さんは納得してなさそうだ。陽子さんの言い分はわかるけど、なんか強引な気がする。


「陽菜。母さんの言い分、どう思う?」


「う~ん。お母さんだって朝日さんと一緒になりたい時はあると思うし、わたしは気にしないかな」


「アンタがそう言うなら、アタシもそれで良いよ」


「決まりね。早速乗ってちょうだい」



 行き先を相談した結果、ランチは近場のファミレスで食べる事にした。リサイクルセンターから見える範囲にあったから、本当に近い。


到着してから4人で来店すると、ホールスタッフがボク達の元に来る。


「いらっしゃいませ。4名のご家族でよろしいでしょうか?」


ボク家族扱いされてる? 外見は似てないと思うけど…。


「はい」

陽子さんはそう答える。


「席にご案内いたします」


案内されたのはボックス席だ。車同様、2:2に分かれて座れば問題ない。ボクは陽子さんと隣同士で座る。姉妹は当然向かいの席だ。


「朝日くんを息子のように思ってるのを、店員さんに気付かれたかしら?」


注文を受け付けたスタッフが離れた後、陽子さんがボク達だけに聞こえる声で言う。


「息子のように…ですか?」


「ええ。陽菜を妊娠してる時に考えた事あるのよ。『2人目は男の子か女の子、どっちが産まれるかな?』って」


「母さん。もし男の子が産まれてたら、どういう名前にするか決めてたりする?」


「そうねぇ~。陽太ようたとか陽介ようすけとか、そのあたりかしら」


『陽』を入れるのは、彼女のこだわりみたいだ。読み方も意識してる?


「名前はお父さんに『お前が産んだんだから、好きに名付けて良い』って言われてたの。あんたの名前の陽葵だけど、本当は『よう』と読める名前にしたかったわ」


陽子さんが名付けられるなら、問題なくできるのでは?


「でも良い名前が浮かばなくてね。だから漢字だけは一緒にしたかったの」


「今の話、初めて聞いたよ。お姉ちゃん知ってた?」


「知らない」


「男の子は難なく浮かぶからありがたいわ。こういうのも個人差があるのかしら?」



 さっき、陽子さんはボクを息子のように見ていると言った。そして息子の名前に『よう』を入れるのは間違いないだろう。


何となくだけど、彼女は息子に対して強い思い入れがあるのでは? それが車の隣同士に繋がったのかも…。考え過ぎかな?


「あっ、アタシ達が注文したメニューが来るよ」


陽葵さんの声を聞き、思考を中断させる。お腹すいたし、早く食べたいな~。

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