第25話 朝早くからあの人がやってくる
今日は、大学生になって初めて迎える土曜日。火曜日に大学生活が始まってから、信じられない出来事の連続だ。
陽葵さん・陽菜さん・陽子さん達と知り合った上に、下着屋の“マコール”でバイトする事になったんだから…。
人生、何が起こるかわからないな。そんな事を思いながら、バイトに行くための準備を始める。
今日は開店作業を知るため、朝から店長さん以外の4人が出勤する事になっている。今までは夕方から勤務してたから新鮮だ。頑張って役に立たないと!
ボクは陽葵さん・陽菜さんと一緒に“マコール”に行くため、待ち合わせ場所のマンション前に向かう。…2人は既にいるか。
「朝日君おはよう」
「おはようございます、朝日さん」
「2人ともおはよう。ごめんね、待たせちゃったかな?」
当然遅刻してないものの、気になる事だ。
「いえ、来たところなので気にしないで下さい」
「このやり取り、デートみたいだよね」
ニヤニヤする陽葵さん。
「そんな事言われても、本当の事だし…」
「言ってみたかっただけ♪」
特に深い意味はないようだ。一安心だよ。
「そろそろ行こっか、朝日君・陽菜」
“マコール”はショッピングモール内にあるので、必然的に開店前のモール内を通る事になる。初めての経験なので、つい辺りを見回してしまう。
…ボク達と同じように、開店準備をしている人を見かける。でも人数は多くなく、営業時の賑わいはまったく感じられない。
「今は明るいから良いけど、夜だったら肝試しになりそうだよね~」
陽葵さんがつぶやく。
「ショッピングモールとお化けがどう関係するの?」
陽菜さんの言うように、心霊スポットは墓や病院など、死者が関係するはずだ。接点はないよね…。
「ここの跡地が関係するかもしれないじゃん」
「しないでしょ。計画の段階で反対されると思うよ」
確かにそうだな。そんな跡地の建物に近付こうとは思わないし、中止になる気がする。
「そう? いろんな人がいるんだから、逆に興味を持ってもらえるんじゃない?」
この話に結論は出るのか? 2人が話し合ってる内に“マコール”に着く。
…副店長の相沢さんは、制服姿で入り口付近の清掃をしている。
「相沢さん、おはようございます」
陽菜さんの挨拶を皮切りに、ボクと陽葵さんも済ませる。
「みんなおはよう。今日から朝日ちゃんと陽葵ちゃんも制服を着てもらうからね。デスクの上にあるから、着替え終わったらあたしの所に来て」
「わかりました」
「了解で~す」
ボク達は着替えるため、スタッフルームに入る。
スタッフルームに入ると、デスクの上に相沢さんと同じ制服が2着置いてある。サイズを確認しなくても、ぱっと見でどちらかがわかる。
「いよいよこの時が来たね…」
「この時って何? 陽葵さん?」
妙に深刻そうな顔をしてるから気になる。
「決まってるじゃん! どっちが先に着替えるのか、だよ!」
表情と内容が一致しなかったぞ…。でも男女が同じ更衣室を使う以上、この問題は避けられない。
「普通に考えたら、男の人の朝日さんが先じゃない? 着替えの時間が短そうだし」
「わからないよ~? 超のんびり着替えるタイプかもしれないじゃん」
「いや、普通に着替えるよ…」
そもそも、着替えの時間に個人差ある? あっても数秒じゃない?
「なら朝日さん、お先にどうぞ」
「昨日みたいなトラブルは大歓迎だよ♡」
更衣室に出たクモの事か。あの時は陽菜さんが着替え途中で飛び出してきたな。
(20話参照)
「なるべく急ぐから」
ボクは1人、更衣室に入る。
さて、昨日と同じ流れにならないように辺りをチェックだ。…虫はいなさそうだし、これで着替えられる。2人を待たせないようにしないと。
着替え終わったので、更衣室を出るボク。
「朝日君、昨日の陽菜みたいに飛び出してこなかったね。パンツ一丁姿を期待したのに…」
陽葵さんはガッカリした様子を見せる。こういう時、陽キャの人は合わせるのかな?
「バカな事言わないでよ、お姉ちゃん。今度はわたし達だね」
2人はボクと入れ替わるように、更衣室に入って行く。
相沢さんのところには、陽葵さんと一緒のほうが良いな。バラバラだと説明の手間が増えちゃうし…。このまま大人しく待つとしよう。
「朝日さん、お待たせしました」
陽葵さんと陽菜さんの2人は、ボクと大差ない時間で着替え終わる。
「のんびり着替えて朝日君をじらしたかったけど、バイト前だから自重したよ」
「これからもずっと自重して…」
言い換えると陽葵さんが1人でバイト後は、じらされるかもしれないのか…。
「朝日さん。もしお姉ちゃんが変な事をしたら、店長か相沢さんに報告して下さい。必ずどちらは店にいるはずなので」
「わかったよ」
「あのおばさんじゃないんだから、変な事なんてしないって!」
吉井さんの事だな。なんか悩みの種が増えた気がする…。
相沢さんの元に向かったボク達3人は『品出し』を指示された。倉庫にあるダンボールを商品前まで運び、下着を補充するみたいだ。
「朝日君。あの時の特訓を思い出して!」
陽葵さん達3人の下着をじっくり見た事だ。(17話参照)
「特訓って何?」
首をかしげる相沢さん。
「いえ、何でもないです。…お姉ちゃん」
「あはは、口が滑っちゃった」
「よくわからないけど、お願いするわ。困ったら陽菜ちゃんかあたしに訊いて」
相沢さんに指示されてから、ボク達3人は別行動をとる。品出しは体力勝負だし、陽葵さんよりは活躍しないとな。
ダンボールを開けると、中には当然下着がたくさん入っている。ボクは覚悟を決めるため1回深呼吸してから、下着を手に取って並べる。
…ちょっとしたズレが気になるな。ピッタリ合わないとスッキリしない。
「良い感じじゃない、朝日ちゃん」
「うわぁ!」
いつから後ろにいたんだ?
「ごめんごめん、そんなに驚くとは思わなかったわ」
「いえ、驚いたボクも悪いので…」
「きれいに並べてくれてありがとう。その調子で頼むわね」
「はい…」
役に立ってるみたいで良かった。
品出しの後は清掃をやった。部屋の掃除はもちろんやるものの、そんなのとは訳が違う。ホコリ1つ逃さない気持ちで取り組んだ。
「みんなお疲れ様。今日は朝日ちゃんと陽葵ちゃんに体験してもらうために4人で頑張ったけど、普段は2人でやるの」
「そうなの? 意外と大変だな~」
陽葵さんの言う通りだ。スピードと作業の質、両方が必要だから難しい。
「2人が慣れるまでは、この体制で進めるから安心してちょうだい」
それは朗報だ。とはいえ、早く慣れたほうが良いのは言うまでもない。
その後少し休憩してから、“マコール”の開店時間を迎える。相沢さんは事務作業があるみたいなので、ボク・陽葵さん・陽菜さんの3人で店に出る。
出て早々、あの人の姿を見かける事になるのだ…。
「ぼく~、今日も来たわよ~♪」
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