第18話 不穏な気配?

 陽菜さん・陽葵さん・陽子さんの下着をじっくり見て、ある点が気になった。今からそれを言おうと思う。


「ブラとショーツに付いてる小さいリボンには、どういう意味があるの?」


3人の下着全てに付いていたのだ。なくても問題ないような…。


「えっ? 意味?」

ポカンとする陽葵さん。


「そんなの気にした事ないな~。母さんどう?」


「そうね。あるのが当たり前すぎて、考えた事なかったわ…」


ボクの予想以上に、リボンは身近な存在みたいだ。


「朝日君。陽菜がお風呂から出たら訊いてみようか」


「そうだね」


陽菜さんは下着屋で働いてるし、何か知ってるかも?



 …渡り廊下から扉が開く音が聞こえた。多分陽菜さんが脱衣所から出たんだろう。


「陽菜~! ちょっと来て~!」

リビングから大声で呼ぶ陽葵さん。


「……お姉ちゃん。今は夜なんだから、静かにしないと」


お風呂上がりでパジャマ姿の陽菜さんから良い匂いがする。髪も濡れていて、普段とは違う印象だな。


「さっき朝日君が言ってたんだけど、ブラとショーツにある小さいリボンって何のために付いてるの?」


「えーと確か、“昔のショーツの作りの名残”・“前後を間違えないため”・“可愛さのため”だって、店長から聞いたかな」


さすが陽菜さん。ちゃんと答えてくれたぞ。


「名残ってどういう事?」


「昔はゴムじゃなくて、ヒモで結んでたらしいよ。それをちょうちょ結びにすれば、リボンに似てるよね?」


「なるほど~。ブラのリボンはお揃いのためか~」


「前後を間違えないためというのは、納得できないわね」


陽子さんが異議を唱える。


「だってそれなら、男の人の下着にも何か付いてないとおかしいじゃない」


「朝日君。君の下着には、リボンの代わりに蝶ネクタイとかが付いてるのかな?」


「付いてないよ!」

一体何を言い出すんだ?


「だからその線はないと私は思うのよ。前後間違えて困るのは、男の人も女の人も一緒よね?」


「店長も“眉唾物だけどね~”って言ったから、わたしも半信半疑なの…」


そうなのか。なら、店長さんのジョークの可能性もある?


「やっぱ、リボンは可愛さのためなんだよ!」


ボクもそんな気がしてきた。前後のためなのは、陽子さんが言ったように納得しにくい。使われてない名残をそのまま使う理由は、見た目に関係してると思う。


リボンを見て抱く印象は…、やはり『可愛い』になるよね。



 「話は済んだよね? じゃあお休み」

少し眠そうな陽菜さんはそう言って、リビングを出て行った。


「次のお風呂はどうする? 朝日君?」


陽子さんは既に入り終わってるから、ボクと陽葵さんのどちらかになる。


「…そうだ、朝日君にお風呂の事言わないと。付いて来て」


リビングを出て、陽葵さんと一緒に脱衣所に入るボク。


「服はあそこの脱衣かごに入れてね。バスタオルは父さんのを使ってもらおうかな」


「わかったよ」


これで終わりかと思いきや、彼女は脱衣カゴを上から覗き込んだ。


「下着を一番上に置いてないか…」


陽葵さんの何気ない独り言が、ボクを不安にさせる。彼女の後に入ったら、下着を一番上に置くかもしれない。それはなるべく避けたいところだ。


「陽葵さん。ボクが先に入って良いかな?」


「良いよ。あと言わないといけないのは、体を洗うスポンジだね」


浴室に入って行く陽葵さんに続く。…スポンジは壁にあるフックに、4つそれぞれかかっている。これもお父さんのを使う流れだな。


「シャンプーとかは好きに使って。他に言う事は…ないかな」


厳格なルールがなくて一安心だよ。


「それじゃ、ごゆっくり~」


脱衣所を出る陽葵さんを見届けてから、ボクは入浴する事にした。



 「お風呂出ました~」


リビングに入ると、陽葵さんと陽子さんが向かい合って話していた。


「朝日くん、ゆっくりできた?」


「はい、おかげ様で」


なんて答えたものの、全然落ち着けなかった。なにせ陽菜さんの後だもんな…。一番風呂なら、こんな思いははしなかっただろう。


「それじゃ母さん。時間がある時に頼むね」


「はいはい」


話の流れから察するに、何か頼んだみたいだ。何だろう?


「やっとお風呂の時間だ~♪」

陽葵さんは嬉しそうにリビングを出て行った。


「朝日くん。洗濯物について言っておきたい事はある?」


そういえば以前、ボクが泊まった時を想定した話を聞いたな。(7話参照)


「ないですよ。皆さんと同じようにお願いします」


「わかったわ。…お休み、朝日くん」


「はい、お休みなさい」



 ボクが寝る事になるお父さんの部屋は、本棚にたくさんの本が収納されている。気になって少し見たところ、タイトルからして小難しそうだ。


大人って凄いな。そんな事を横になって考えてる内に、すぐ眠くなる…。


……目を覚ますと、部屋は窓から入ってくる日差しで明るい。とはいえ昨日の疲れがまだ残っているから、朝食ギリギリまで寝たいところだ。


なんて事を目を閉じながら考えていると、部屋の扉が小さい音を立てながら開き始めた。


開閉の時に音が出るのは、昨日の段階でわかっていた。閉め切ってない扉が風で開いたのかな? めんどくさいからそのままで良いや。そう思っていたら…。


「……寝てるよね?」


何やら扉付近から小声が聞こえてきた。今のは陽葵さんが部屋の中を覗いたのか? ボクを起こしに来たなら、コソコソする必要はないのに…。


彼女の行動が気になったので、寝たフリを続ける事にした。

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