第11話 血は争えない…かも?

 陽子さんが作ってくれたハンバーグができたので、これから夕食の時間になる。


…見た目はとてもおいしそうなハンバーグだ。切り込みを入れたところ、肉汁が流れてきた。すぐ食べないと!


「どうかしら? 朝日くん?」


「…おいしいです」

文句のつけようがない。


「お口に合って良かったわ」


「食事中でも、その言葉を聞くと考えちゃうよね~」


あっちの事? 陽葵さんは何を言ってるんだろう?


「それはあんただけよ」


「そんな事ないから! “体の相性”が良い時にも使えるじゃん」


ボクの勘違いかな? 下ネタに聞こえるんだけど…。


「お肉を食べたあんたがになってどうするの? 朝日くんがそうならないと意味ないでしょ?」


「ボク…ですか?」

今のはどういう事だ?


「ごめんね、何でもないわ」


「母さん酔ってる?」

ニヤニヤする陽葵さん。


「酔ってない! うっかり口が滑っただけよ」


夕食のメニューはみんな同じだけど、陽子さんだけ缶ビールがプラスされている。お酒を飲むと口が滑りやすくなるのかな?



 「そういえば朝日くん、今バイトしてる?」

多分ほろ酔いの陽子さんが訊いてきた。


「いえ、してないです」


「高校の時は?」


今度は陽葵さんだ。


「ないよ」


「じゃあ今まで、お小遣いをもらってたんだね?」


「うん。でも『大学生になったから、バイトで何とかしなさい!』と母さんに言われちゃって…」


ボクにどんなバイトができるんだろう? 接客は無理だし…。


「朝日くん。厳しい事言うかもしれないけど、大学生は大人の一歩手前なの。だから自分で稼げるようにならないとね。朝日くんのお母さんがそうする気持ちはわかるわ」


やっぱり、大人の世界は厳しいみたいだ。


「ねぇ、陽葵さんは今バイトしてる?」

同年代の彼女からいろんな話を聴いて参考にしたい。


「今はしてない。女子校にいた時はしてたよ」


「何でそこ辞めたの?」


「元々長く続ける気なかったし、店長や先輩と合わなかったから、卒業を機に辞めたって訳。このままだと金欠になるから探すつもりでいるよ」


陽葵さんならすぐ新しいバイトを見つけられるだろう。


「陽菜、1年の時に始めたバイトは今も続けてる?」


「もちろんだよ、お姉ちゃん」


年下の陽菜さんですら、バイトして自分で稼いでるのか。凄いな…。


「陽菜さんは3年生だから、今はシフトをそう入れられないよね?」

受験生なんだから、勉強で精一杯のはずだ。


「1年・2年の時よりは少なくしてますが、それなりに入れてますよ」


「この子、テストで10番台とるぐらい頭良いから。陽菜が母さんに見せてた順位表をチラ見したから間違いないよ」


見せてもらった訳じゃないのか…。


「こう見えては余計」


「今も志望大学は、アタシがいる大学で変わりないの?」


「変わらないよ。通学時間は短いほうが良いから」


ボクですら入れる大学に、10番台の陽菜さんが入学する? 宝の持ち腐れとしか思えないな…。


「つまり、陽菜にとって受験は楽勝なんだよ。何かやらかさない限り」


陽葵さんの言葉がフラグにならない事を祈る。それは置いといて、陽菜さんがシフトをそれなりに入れられる理由は納得だ。


「来年は、アタシ達が陽菜を手取り足取り教える事になるね」


ボク達が教えなくても、頭が良い陽菜さんならすぐ理解すると思うけど…。



 「朝日君。アタシ達はすぐバイト見つけないと、あっという間に金欠だよ!」


陽葵さんはそう言うものの、お小遣いをある程度貯金してたので、あっという間ではない。とはいえ、収入源がないのは確かにキツイ…。


「どういうバイトやりたい?」


「接客がないバイトかな…」

これより優先したい事はない。


「例えば?」


「う~ん、“新聞配達”とか…」

朝早いのは、頑張って慣れるしかない。


「アレか~。自転車を漕ぎまくれば痩せられそう!」


陽葵さんの言葉に、陽子さんと陽菜さんが頷く。女性だからか、目の付け所が違う…。


「運動しながら仕事ができるのは良いわね。体重が増えたのが悩みの種なの…」


「わたしも。通学と体育だけだと、運動不足を実感するよ…」


2人とも、そんなに太ってるようには…。


「新聞配達…、人目がほとんどない…」


陽葵さんがブツブツ言っている。急にどうしたんだ?


「穴場スポット…、痛い!」


考え込んでいた彼女が突然声を上げる、机の下で何かあった?


「朝日くんに情けない顔見せないでって言ったわよね?」


どうやら陽子さんがおしおき? したようだ。


「朝日くん。君に合うバイトが見つかる事を神頼みしておくわ」


「ありがとうございます…」

なるべく早く良い報告ができるようにしないと。



 夕食が終わった後、朝日君は帰って行った。アタシは母さんにまた手伝うように言われたので、仕方なくキッチンに向かう。


「あんた、さっき嫌らしい事考えてたでしょ?」


母さんは食器洗いをしてるからサポートしよう。


「仕方ないじゃん。野外プレイした母さんの娘なんだからさ~」

野外プレイは、父さんと母さんの多分初Hになる。(6話参照)


「その言い方止めて! あれは本当に後悔してるんだから!」


これを言う時は、母さんの顔が赤くなる。後悔してるのは本当かも?


「母さん。朝日君のバイト祈願するついでに、になる祈願もお願い!」

アタシにとって、どっちも大切だからね。


「そう言うと思ったわ…。1つも2つも変わらないから良いけど」


肉食祈願はアタシもやるつもりだ。だって当事者になるんだもん♡


「大人しい朝日くんが新聞配達をやりたい気持ちはわかるけど、殻を破って欲しい気もするから難しいわね」


「そうだね…」


新聞配達は基本的に1人でやる仕事だ。できればバイト中も朝日君と一緒にいたいから、本当は別のバイトにしてくれたほうが嬉しい。


だけど、痩せたい気持ちがあるのも事実。どうすれば良いの~?


「陽葵。朝日くんの事はどんどん話してちょうだい。あの子があんたの彼氏になってもならなくても、気になる子だから…」


「わかってるよ。…はい、これで終わり」

これで手伝いは完了だ。


「お疲れ様」


アタシは朝日君と自分のバイトについて考えながら、リビングを後にするのだった。

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