第8話 ラッキースケベについて考える

 陽葵さん・陽菜さんに続いて、彼女達の家にお邪魔するボク。陽菜さんは早々に自分の部屋に入って行った。早く着替えたいよね…。


「朝日君。真面目な話をしたいから、リビングに来て」


「わかった…」


その言葉の通り、陽葵さんは真剣な顔をしている。こんな彼女は見た事ないぞ…。



 リビングのテーブルの椅子に座り、ボクと陽葵さんは向かう合う。一体何を言うのか、まったく予想できない…。


「朝日君。何でアタシにはラッキースケベが起きないの?」


「…はっ?」


陽葵さんの真面目な顔から放たれる、ふざけた言葉。反応に困る…。


「君と一番長く一緒にいるのはアタシなんだよ? だったらアタシが一番多くなるはずじゃない?」


「そんな事言われても…」


「もしかして、長くいるからラッキースケベが起きないのかな?」


「…昨日も言ったけど、ボクにそんな能力はないよ? 全て偶然なんだから」

そろそろ、このおふざけに付き合うのは止めたほうが良いかも?


「だってさ~、なんか納得できないじゃん。母さんと陽菜には起きたのに、何でアタシには起きないの? って思うのが普通でしょ?」


「お姉ちゃんは運が良いから起きないんだよ」


着替え終わった陽菜さんがリビングに来て、陽葵さんの隣に座る。


「運が良い? 逆だよ。悪いから起きないんだって! アタシは起きて欲しいの!」


「何で?」

不思議そうな顔をする陽菜さん。


ボクも同感だ。恥ずかしい思いを避けられるなら、誰だって避けたいはずだ。


「だって、朝日君にドキドキしてもらいたいから…」


陽葵さんのモジモジしてる姿を初めて見た。とても新鮮だ…。


「朝日さんにドキドキしてもらいたいなら、自分から見せれば良いんじゃない?」


「自分から見せたら痴女じゃん! “偶然”見せる事に意味があるの!」


「…よくわからないけど、お姉ちゃんにはこだわりがあるんだね」


「そういう陽菜にはないの? こだわり」


「一応…あるかな」


陽菜さんのこだわりは何だろう? 気になるな…。


「朝日君、何とかならない?」


「偶然を待つしかないよ。本当にボクは何もしてないんだから…」


「そっか…」


残念そうな顔をされても、こればっかりは仕方ない。


「陽菜。この辺に願いが叶う神社ってあったっけ?」


「お姉ちゃん、まさか…」


「そのまさかだよ。神様に頼んでラッキースケベを起こしてもらう!」


そんな意味不明なお願いされたら、神様困るだろうな…。


「…朝日さん。お姉ちゃんと2人きりで話したいので、席を外して良いですか?」


「もちろん良いよ」

姉妹で話すのを止める理由はない。


「ありがとうございます。なるべく早く戻りますから。お姉ちゃん、わたしの部屋に来て」


「わかった…」


2人がリビングを出るのを静かに見守るのだった。



 陽菜の部屋に入ったアタシは、先にベッドのふちに座ったあの子に続く。ベッドを見ると、朝日君とイチャイチャする妄想をしちゃうよ♡


「お姉ちゃん。ラッキースケベを起こしてもらうだけじゃダメな気がする」


「どういう事?」


「仮に、朝日さんの目の前でラッキースケベが起きたとするよ? 特に反応なかったらどうするの?」


「それは…」


朝日君はバスタオル姿の母さんを見ても、興奮して襲いかかろうとしなかった。さっきの陽菜のブラ透けにも何もしなかったし、可能性は十分考えられる。


「だからね、朝日さんをにするお願いをしたらどう?」


「朝日君を肉食系に…?」


「うん。そうすれば、ラッキースケベが起きなくてもお姉ちゃんに興味を持ってくれるんじゃない?」


それって、顔を合わせただけで襲われる可能性があるの? 大胆過ぎるよ~♡


「でもさ~。朝日君を肉食系にしたら、浮気される可能性が増えない?」


アタシよりオッパイが大きい女の元に行っちゃうかも? アタシと朝日君は付き合ってないけど気になっちゃう…。


「それはお姉ちゃん次第かな。わたしも少しぐらいなら協力しても良いよ」


陽菜が協力する? という事は、朝日君をそれなりに思ってる? この子も近い内に“ズキューン”や“ビビッと”みたいな衝撃を味わうかもしれない。


その影響を受けて、陽菜が朝日君に対して積極的になる可能性がある。もしこの子がライバルになったとしても、朝日君が陽菜に好意を寄せる事になったとしても、他の女よりは都合が良い。


だって朝日君がこの家に来てくれれば、はいつでもあるもん。これは他の女が相手では絶対に成し得ない。


最悪のケースは、常に考えておかないとね…。



 「そういえばさ~、さっきアンタが言ってた“こだわり”って何?」


朝日君を肉食系にする方向性が決まってから、陽菜に訊いてみる。


「……」


「アタシにも言えないぐらいヤバいの?」

陽菜はむっつりだからあり得ない事じゃない。


「そこまでヤバくないと思うけど、変わってるかも…」


「話してみてよ。案外普通かもしれないし」

姉・ライバルの立場両方で考えても、知って損する事はない。


「そうだね…。“キスをしない”のがこだわりかな…」


「キスをしない? 何で?」


「だって、自分と相手の口臭が気になるから。ニオイケアは大変だし、食事の内容にも左右されるじゃない? キスするぐらいなら、胸揉まれたほうが良いかな…」


陽菜は朝日君の前ではボロを出さないようにしてるから、彼の前ではこういう話は多分しない。昨日の夜の洗濯ネットの話も当てはまるね。


あの話、陽菜に「朝日さんには内緒にして!」って言われてたのを、話してる途中で思い出しちゃった。朝日君、結構驚いたんじゃないかな?


「そっか。口臭は自分ではわかりにくいから困るよね」


「うん。だからキスシーンを見ても、全然盛り上がれないの…」


その壁を乗り越えられるかが、恋人になる基準かも?


「陽菜。もうそろそろ朝日君のところに戻ろっか」


「そうだね。思ったより長くなったし…」


アタシと陽菜は一緒に立ち上がり、部屋を出るのだった。

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