第7話 ラッキースケベ能力発動?

 陽葵さん達母娘と出会った翌日。今日も平日なので、大学の講義を受ける流れだ。


昨日とは違い、2限と3限になる。偶然にも陽葵さんと同じスケジュールだが、2限は受ける講義が違う。講義が終わり次第、学食前で合流する事になっている。



 “履修登録変更期間”なので、2限の講義はすぐ終わった。あの講義は出席日数を厳しく評価するタイプのようだ。いくらテストで頑張っても、出席日数が足りないと挽回できそうにない。


言い換えると、テストが悪くてもしっかり出席してれば単位は取りやすい。サボらないのにテストが不安なボクには向いている。この講義は受け続けよう。


そう結論付けてから、ボクは学食に向かう。



 学食の券売機前に着いたものの、陽葵さんの姿はない。彼女が来るまで、そばの壁にもたれながら携帯で時間を潰すか。


「ふぅ~」


「うわぁ!」

突然耳元に微風が流れ込んできたので、ビックリしてしまった。


「驚き過ぎだって~」


どうやら陽葵さんのイタズラのようだ。


「待たせちゃってゴメンね」


「気にしてないから」

本当は普通に声をかけて欲しかった…。


「それじゃ、食券を買おうか。朝日君」


「そうだね」



 学食のテーブルの椅子に座ったボクと陽葵さん。食べ始める前に、昨日奢ってもらったお金を返さないと。(2話参照)


「陽葵さん、昨日は喫茶店で奢ってくれてありがとう。お金返すね」


「次の日に返すなんてしっかりしてるね~。ありがと」

お礼を言った彼女は小銭を数え始める。


「あれ? 朝日君、奢った分より多いよ? 勘違いしちゃった?」


「そうじゃなくて、利子というか…」

+αが準備できなかったので、こうするのがベストだと判断した。


「そんなのいらないから」


言葉通り返された…。


「代わりに、これからもウチに来て母さんと陽菜に会って欲しいな」


「わかった」

陽葵さんがそう望むなら、ボクが口を挟む事じゃない。


「そういえば、2限はどうだった? アタシのは微妙でさ~」


「ボクのは良かったと思う。そのまま受け続けるつもりだよ」


「そうなの? じゃあアタシもそっちにしよ~と」


陽葵さんと一緒のほうが嬉しいから、この展開はありがたい。話が済んだので、ボク達は昼食をとる。



 「ふわぁ~」

昼食中、陽葵さんが小さいあくびをした。


「眠そうだね?」


「実はさ~、昨日の夕食の時に母さんと陽菜の3人で盛り上がった話題があったの。それでお風呂の時間とかが全部ズレちゃって…」


それで寝不足になったのか。


「どんな話題だったの?」


「もし朝日君がウチに泊まったら、洗濯物をどうするかって事」


「それ、盛り上がる話題?」

ボクにはまったく理解できない…。


「当然じゃん! 特に下着の扱いについては、みんなヒートアップしたな~」


「一応、話の流れを教えてくれる?」

変な風にまとまっていたら修正しないと!


「良いよ。陽菜は、朝日君の着替えを洗濯ネットに入れずに洗濯する事を提案したの。『男の人は洗濯ネットを使わないと思うから、ここでも使わないほうが良いんじゃない?』って言ってた」


「そうなんだ」

陽菜さんの言う通りだけど、こだわりはないから使っても問題はない。


「母さんは逆に、全ての着替えを洗濯ネットに入れるべきって言ったの。『朝日くんを仲間外れにしちゃダメだから』だって」


そう言うって事は、陽葵さん達女性陣は洗濯ネットを使ってるようだ。


「アタシは、朝日君の下着をブラ専用ネットに入れて洗うように言ったね」


陽葵さんの案だけ、明らかに方向性が違う。どうなってるの?


「朝日君は知らないと思うけど、ブラ専用の洗濯ネットがあるの。それを使わないと、形が崩れる場合があるんだ~」


「へぇ~」

豆知識が増えた。


「朝日君の下着は、アタシ達のブラのように丁寧に扱わないとダメだと思ったんだよ」


「そんなに気を遣わなくて良いから…」

こだわりはないし、高い下着なんて持ってないからね。


「何言ってるの? 男だろうが女だろうが、下着は大切にしないと! に状態が悪かったら萎えるでしょ?」


その肝心な時は、ボクには無縁なんだよ…。


「そこから母さんが『なら、私のブラ専用ネットに入れないとね』って言って、陽菜も『大きすぎるネットはダメ。朝日さんのサイズ的にわたしのネットが合う』とか言い出してさ~。普通は、言い出しっぺのアタシのネットに入れるもんじゃない?」


そもそも、ボクの下着をブラ専用ネットを入れる必要がない…。陽子さんと陽菜さんなら、それぐらいわかるはずなのに。ふざけてるのかな?


「それで、話はまとまったの?」

経緯は長くなりそうなので、結果だけ確認しよう。


「まぁね。『朝日君に選んでもらう』事になったから」


「そう…」

泊まるハードルはただでさえ高いのに、さらに高くなった…。



 昼食が済んだので、学食を出て3限の講義室に向かう。その道中…。


「朝日君。陽菜から伝言があるのを思い出したよ」


「伝言?」


「うん。今日、演劇の簡単な脚本を佐下君からもらうらしいよ。それを見てアドバイスして欲しいんだって」


「ボクにちゃんとしたアドバイスできるかな? 自信ないよ…」


「そんなの気にしなくて良いの。朝日君を家に呼ぶための理由に過ぎないんだから」


本人じゃないのに言い切ったぞ。それが本音なら嬉しいな…。



 3限の講義は、ボクのような陰キャは楽だけど、陽葵さんのようなタイプには辛い印象を受けた。


というのも、教授が私語に厳しく何度も注意するのだ。地獄耳なのか、ひそひそ声にも反応するようで…。


講義が終わってから彼女と話し合ったところ、何とか我慢するらしい。講義の間、陽葵さんの我慢が続く事を祈ろう。



 3限が終わり、陽菜さんの用件を済ますため彼女達の家に向かう。仮にその件がなくても、陽葵さんに誘われてたけどね…。


「昨日と違って、陽菜はもう帰ってるからね。母さんはパートでいないよ」


「そうなんだ」


などと話してる間に、マンションのそばに着く。


「あれ? あそこにいるのって陽菜じゃない? 何やってるんだろ?」


陽葵さんが指差すので確認すると…、確かに陽菜さんがいる。白の七分袖・黒の七分丈姿をしていて、何かを抱きながら辺りをキョロキョロしている。どうしたのかな?


「陽菜、何やってるの?」

近付いた時に陽葵さんが声をかける。


「あっ、お姉ちゃん・朝日さん…」


彼女は何故か小型犬を抱いている。昨日お邪魔した時に犬は見かけなかったぞ…。


「わたしが本屋に行こうと外に出たら、この子が急に近付いてきたの。無視しようとしても、全然離れてくれなくて…」


「ふ~ん。でもその犬、首輪付けてるね?」


「お姉ちゃんも気付いた? だから飼い主さんが探してると思って、動かずに待ってるの」


「陽菜さん。飼い主さんが近くにいるとは限らないんじゃない?」

小型犬に弱った様子は見られない。遠出した可能性がある。


「わかってます。なので、もうそろそろ警察に通報しようと思ってまして…」


陽菜さんがそう言い終えた瞬間…。


「きゃ!? 急にどうしたの!?」


彼女に抱かれてる小型犬が、Tシャツ越しに片胸の部分を舐め始めた。


「赤ちゃんがオッパイ吸ってる感じに見えるね~」


「ふざけないでよ、お姉ちゃん…」


小型犬は無我夢中で舐め続けている。急にどうしたんだ?


「な…なんか、変な感じ…になってきた…」


陽菜さんの反応が色っぽい気がする。


「この犬が舐める時に、ブラがんだよ」

ボクに耳打ちする陽葵さん。


「や…やめて…♡」


そう言う割には陽菜さんは何もしないし、表情も満更ではないように見える。


「舐められたくなかったら抱かなきゃ良いのに…。ほんとむっつりだね」

陽葵さんは再びボクに耳打ちする。


このままで良いのかな? そう悩んでる時…。


「プチ! 何やってるの!」


突然女性の声が聞こえ、抱かれている小型犬は陽菜さんの腕から飛び降りる。


何となく彼女の舐められた部分が気になったのでさりげなくチェックすると、その部分は透けていて、ピンクのブラがうっすら見えている。


…って、今はブラよりさっきの声の主を確認しよう。


すぐそばに、ミニスカートの女性が立っている。歳は20代後半かな? 小型犬は彼女に抱かれているな…。


「この子を引き止めて頂き、本当にありがとうございました」


「いえ…」


陽菜さんが機転を利かせたおかげだ。


「それでは…」


女性がボク達に背を向けて歩き始めた時、ある事に気付いた。黒い下着が…透けている? ミニスカートの色が薄いせいか、黒が際立ってる気がする。


できれば勘違いのほうがありがたい。だって…。



 「さっきの人、下着透けてたね」

完全に女性の姿が見えなくなった後、陽葵さんがそう言った。


「朝日さん、透けてたところをガン見し過ぎです」


「……」

返す言葉が思い付かない。こうなりたくなかったのに…。


「アンタ、自分の事は気付かないんだね? しっかりしてるのか抜けてるのか…」


「どういう事? お姉ちゃん?」


「それ」


陽菜さんの片胸部分を指差す陽葵さん。さっきの犬の唾液がたくさん付いてるのもあるけど…。


「ブラが透けてる…。この服、多いのに…」


「オンス?」

聞いたことがない言葉だ。


「生地の厚さの事だよ」

補足する陽葵さん。


「さっきの犬、めちゃ舐めてたからね~。仕方ないんじゃない?」


「…お姉ちゃん、朝日さんには本当にラッキースケベ能力がある気がする」


「陽菜もそう思う? アタシは疑惑から確信に変わったよ!」


「その話、外でするの止めない?」

周りの視線が気になって、ツッコむどころじゃない。


「そうだね。それじゃ、家に行こっか」


「わたしは早く着替えたいよ…」


ボク・陽葵さん・陽菜さんの3人は、マンション内に入る…。

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