第6話 スカートめくりの思い出

 演劇の練習の一環として、陽菜さんのスカートを1回めくったボク。これで納得するかと思いきや「いろんな風にめくられる感覚を知りたいので、もっとやって下さい」と言われた。


乗りかかった船なので、リクエストに応える事にする。どこまでめくるかはもちろん、力加減や時間も意識した。


途中から“ボクは何をやってるんだろう?”と思い始めたのは内緒だ…。



 陽菜さんから「もう大丈夫です」という言葉を聴き、ボク達4人は再びテーブルの椅子に座る。どうやら気が済んだようだ。


「朝日さんのおかげで感覚を掴めました。本当にありがとうございました」


「そう、良かったね…」

役に立ったなら細かい事は良いや。


「陽菜。さっき言ってたエロい演劇って、外部の人も見られるの?」


陽葵さんは何でそんな事を訊くんだろう?


「うん。他の人と同じように条件を満たせばね」


「ふ~ん。朝日君、その演劇見に行かない?」


「私も気になるわ」


陽子さんも興味があるようだ。去年の文化祭に関わらなかったボクだけど、土曜日に開催した事は知ってる。だから行こうと思えば行けるな。


「お姉ちゃんとお母さんに見られるのか…。どうしようかな…?」


陽菜さんからすれば複雑だろうね。


「アンタはそのエロい演劇の当事者なんだから、条件はわかるはずじゃん? 朝日君が見たくて見たくてたまらない感じだからさ~」


確かに少し興味はあるけど、そこまでじゃないよ…。


「朝日さんのためでも恥ずかしいなぁ…。考えたいので、もうちょっと待ってもらって良いですか?」


「もちろん」


ボクはどういう結末になっても構わないものの、陽葵さんが余計な事を言いそうで不安だ。早めにクギを刺したほうが良いかも…?



 「母さん。さっき『昔を思い出す』って言ってたじゃん? あれどういう意味?」


ボクが陽菜さんのスカートをめくった時だ。展開は大体想予想できるな。


「あら、聞こえてたの? 独り言のつもりだったのに…」


「わたしも聞こえてたよ。お母さん教えて」


「良いわよ。…実は私も小さい頃、男の子にスカートめくりされた事があるの」


予想通りだ。これでこの話は終わりかな?


「へぇ~、アタシはないな~。嫌らしい男の子がいたんだね」


「私のスカートを何度もめくったその男の子の正体は…、なのよ」


「そうなの!!?」


陽葵さん・陽菜さん姉妹がとても驚いている。これは予想外の展開だぞ。


「私とお父さんの出会いは、話した事あるわよね?」


「うん。お互い近くに住んでて、小・中は同じ。高校は別々になったけど、高卒で入社した就職先で再会したんだよね?」


「そうだったっけ?」


「陽菜はちゃんと覚えてるみたいね。偉いわ」


陽子さんは高卒なのか。だとしたら、お父さんはどうなんだろう? 訊いてみるか。


「あの…、陽子さんとお父さんは何歳差なんですか?」


この質問ではわかりにくいが、“高卒ですか? 大卒ですか?”はストレート過ぎる。


「同い年よ」


という事は、お父さんも高卒のようだ。


「私達夫婦は、大学についてよく知らないの。だから陽葵が朝日くんと仲良くなってくれて嬉しいわ。困った事があったら相談できるから」


それはボクも同じだ。陽子さんの期待を裏切らないようにしたいな。



 「母さん。結局父さんがスカートめくりに飽きるまで、めくられ続けたって事?」


その話掘り下げるの?


「そんな訳ないじゃない。私だって仕返ししたわ」


どんな仕返しをしたんだろう? 気になるな…。


「ある日の下校時に、人目に付かないところにお父さんを呼び出してから、を触ったのよ。男の子はスカートを穿かないから、めくり返す事ができないのよね…」


「その後は?」


「お父さんは私の手を止めず、体を触ってきたわ。それからお互いエスカレートして…」


「もしかして、外でっちゃった?」


「まぁね。今思うと、とんでもない事をしちゃったわ…」


バスタオル姿を見られても動じなかった陽子さんの顔が赤い。凄い爆弾発言だから無理はない。


「それが終わった後は疎遠になったわね。気まずくなって顔を合わせづらくなったのよ」


「んで、就職した時に偶然再会したと…」


「そういう事」


話を聴く限り、陽子さんだけでなくお父さんも癖がありそうだ。“この親にしてこの子あり”という言葉がピッタリだろう…。



 「まさかお父さんが、お母さんのスカートを何度もめくったなんて…。単身赴任が終わっても、今まで通り話せるかな?」


陽菜さんが心配そうにつぶやく。


「お父さんは私達のために頑張って働いてるんだから、ワガママ言っちゃダメよ」


「そうだね…」


そもそも、エロさというか変態度でいえば、陽菜さんも大して変わらない気がする。自分からスカートめくりを頼んだなんて、お父さんが知ったらどんな反応をするか…。


「父さんはこの4月から単身赴任になったんだ~。だからいつでも来て良いし、泊まって良いからね。朝日君♪」


「さすがに泊まる事はしないよ。みんなに申し訳ないから…」

迷惑をかけるのは言うまでもない。


「あら、私は構わないわよ?」


「わたしも良いですよ。勝手に部屋に入ってこなければ、ですが」


「陽菜。それはフラグになるね。朝日君にはがあるんだから」


ないよ、そんな能力…。


「お姉ちゃんと朝日さんって、今日知り合ったんだよね? いつわかったの?」


「朝日君がここに来てすぐ。バスタオル姿の母さんと廊下で鉢合わせたんだよ。偶然にしては、できすぎてるでしょ?」


「うん。朝日さんが泊まる日は気を付けないと…」


陽葵さんが余計な事を言ったせいで、陽菜さんに警戒されてしまった。そんな能力ないのに…。


「ラッキースケベねぇ…」


陽子さんが考え込みながら、独り言を漏らす。


「母さん、何か気になる事があるの?」


「今まで偶然だと思ってたは、もしかして違ったのかしら? と思って…」


「教えてよ。アタシ達が判断するからさ」


その“達”って、ボク含まれてる? 含まれると面倒な事になるような…。


「お父さんといると、小さい頃とか再会した後に関係なく色々起きるの。にわか雨とかちょっとした風とか…」


それぐらいなら、いつでもどこでも起こるよね? 不自然な点はない。


「私が白とか薄い色のトップスを着てる時に限って、天気予報にない雨が降り出すのよ? 天気の急変はいつでも起こるけど、お父さんがそばにいる時は確率が高い気がするわ」


「じゃあ、ちょっとした風というのは…」


「陽葵の予想通りね。スカートの丈が短い時に限って、めくれそうな風が吹くの。しかも片手か両手が塞がってる時に」


気にし過ぎなのでは? こじ付けになってるような…。


「お母さん。下着はお父さんに見られたの?」


「当然じゃない。見られなきゃ、ラッキースケベにならないでしょ?」


やっぱり偶然じゃない? どうなんだろう…。


「でも陽菜を産んでからは、そういうのは一切なくなったわね。だから今まで偶然だと思ってたのよ」


「なるほどね~。今までの話、朝日君はどう思う?」


ボクの嫌な予感が的中した。振られても困るよ…。


「さぁ…、陽子さんが大変な思いをしたのはわかったけど…」


「アタシは、父さんのラッキースケベが雨と風を引き起こしたと思ってるよ」


「それ、本気で言ってる?」


「当たり前じゃん!」


とてもそうは思えない…。


「お姉ちゃん。わたしが産まれてからなくなった事については、どう説明するの?」


「それは簡単だよ。“ラッキースケベの代償”かな」


急に重い展開になったぞ。


「神様が言ったんじゃない? 『2人目が産まれるまで良い思いをさせてやろう』てね」


何で神様がお父さんを贔屓するんだ? 意味が分からない。


「父さんは子供が2人欲しかった。だから陽菜を産んでからピタッと止んだんだよ」


「確かにお父さんは『子供は2人欲しい』って言ってたわ…」


「父さんの望みを叶えたラッキースケベの神様は、今は違う人のところにいるんじゃないかな?」


そう言ってから、ボクを見る陽葵さん。


「これからどんなラッキースケベが起こるか楽しみだね、朝日君♪」


彼女の無茶ぶりに対抗できる言葉が思い付かず、ボクは黙って過ごすのだった。



 陽葵さんの悪ふざけトークが終わった後に時計を見たら、夕方はおろか夜に近い時間になっていた。


礼を言ってから帰ろうとしたところ、陽葵さんから連絡先の交換を強く望まれたので交換した。


意外な事に、陽子さんと陽菜さんにも交換を求められたので応じるボク。陽葵さんとは違って2人とはあまり接点はないけど、まぁ良いか。


今日はいろんな事が起こり過ぎだ…。ボクは振り返りながら帰路に就く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る