第5話 スカートめくりの行方

 「陽菜さん。ボクにスカートをめくって欲しいって、どういう事?」


聞き間違いかと思ったけど、陽葵さんと陽子さんも呆然としてるから間違いじゃなさそうだ。


「朝日さんは卒業生だから覚えてると思いますが、3年生だけ1年・2年生より早く文化祭をやりますよね」


「うん」


そうする理由は言うまでもなく“受験”のためだ。時期が迫ると切羽詰まるので、息抜きになる行事は早めにやる事になっている。


特例は他にもあり、3年生は文化祭の参加や準備が任意なのだ。つまり、有志だけがそれらを行う事になる。


ボクはどっちにも関与しなかったから、当時のクラスが何をやったかすら知らない。


「わたしのクラスの参加者は演劇をする事になったんですが、クラスメートにとてもスケベな佐下さした君って男子がいまして…」


「ほうほう」

興味津々な様子の陽葵さん。


「彼が『受験勉強が大変だから、やりたい事を遠慮なくやれる演劇にしてストレス解消したい!』と言い出したのが、事の発端なんです。さっきのスカートの件は、佐下君が言い出したセクハラの1つになります」


「その子が気分転換したい気持ちはわかるわ。でも演劇にそんな要素入れたら、普通の女子は絶対反対するわよ?」


陽子さんは反対しないように聞こえるのは気のせい?


「お母さんの言うように、佐下君に容赦ない言葉がたくさんぶつけられたわ。だけど彼はめげずにこう言ったの。『じゃあ女子も好きなようにやれば良いじゃん!』って」


強いな…。ボクならすぐ心が折れるだろう。


「それを聴いた一部の面食いの女子が、イケメン男子の元に集まって色々話しだしたの。内容は聞いてないけど、大体想像できるわ」


想像できるの? 全然ピンとこない…。


「男も女も、考える事は大して変わらないって」


ボクの様子が気になったのか、隣の席の陽葵さんがフォローしてくれた。


「やっぱりお姉ちゃんはわかるみたいね。そのイケメン男子に好かれるために、ボディタッチをしたりさせたりしてたわ…」


その光景を佐下君は羨ましそうに見てたに違いない。


「参加者が一丸となって1つの演劇をやるんじゃなくて、各自好きな演劇をやる。それがわたしのクラスの総意になったの」


「なるほどね~。セクハラだらけの演劇か~。面白そうじゃん」


面白いのか? それはともかく、まだスカートの件が解決していない。


「わたしは佐下君に頼まれて、セクハラされる役をやる事になったんです。男子にセクハラされるんだから、男の人の朝日さんが適任ですよね?」


だから真っ先にボクに相談してきたのか。


「アタシはそっちのはないから、陽菜のスカートをめくったりオッパイを揉む気はないな~」


「私もよ。娘にそんな事するのは、さすがに気が引けるわ…」


「いくら何でも胸は揉ませないよ? めくられる時だって穿くから」


確か“見せパン”の事だな。


「え~、見せパンじゃダメだよ。本気度が足りないって!」

他人事なので、陽葵さんが無茶ぶりする。


「…じゃあ、お姉ちゃんがその役やる?」


「ヤダ。今は朝日君以外の人にめくられたくない!」


反応に困る事言わないでくれ…。


「陽菜さん。その役、辞めたほうが良いよ」

どう考えても彼女の負担が大きいし、得をしない。


「わたしもそう思ったんですが、何度もお願いしてきた佐下君が気になるので…」


優しい子なんだな。普通は相手にすらしないだろう。


「それに、今まで1回も“スカートめくり”された事ないんですよ。だから…」

そう言う陽菜さんの顔は少し赤い。


「陽菜は“むっつり”なの」

陽葵さんがボクに耳打ちする。


「お姉ちゃん。朝日さんに余計な事言ってないよね?」


「言ってないから」


真面目でしっかりしてるけどむっつり…。王道だな。


「陽菜。この事を先生は知ってるの?」

陽子さんが心配そうな様子を見せる。


「もちろん知ってる。『今までそういう事をする生徒はいたけど、ここまで大々的なのは初めて』って言ってた。担任は女の人だから、困ったらすぐ相談できるよ」


今までも文化祭でエロイベントがあったのか…。初めて知ったぞ。


「だったら安心ね。当日は大盛況になるんじゃないかしら?」


絶対なるはずなのに、今まで知らなかったのが気になる。噂が広まってもおかしくないよな?


「そうでもないよ? Hな催し物は文化祭のパンフレットに書けないらしいし、見たり会場に入るには条件がいるみたいなの。情報が漏れないように徹底してたみたいだから“裏メニュー”に近いかも?」


つまり、情報強者や陽キャはエロイベントについて知る事ができたんだな。どちらにも該当しないボクは蚊帳の外って訳か…。



 「これで大体の説明は終わりました。朝日さん、お願いできますか?」


今日初めて会った年下の子のスカートをめくる…。罪悪感が半端ないから返答に困る。


「陽菜。スカートめくりの他にやる可能性はあるの?」

陽葵さんが確認する。


「まだわからない。演劇の脚本は佐下君が書く事になってるの。スカートめくり以上になったら、恥ずかしくて止めると思う…」


当然の答えだな。


「朝日君。陽菜の気持ちに応えられるのは君しかいない!」


「私からもお願いするわ朝日くん。嫌らしくめくってちょうだい」


おいおい、陽葵さんと陽子さんは普通止める側だろ? それで良いのか?


「朝日さんがどんな風にめくっても、絶対文句は言いません。お約束します!」


このままだと埒が明かないな…。仕方ない。


「わかったよ。一応やってみる…」


「ありがとうございます! 今からアンダースコートを穿いてきますね!」

陽菜さんは嬉しそうにそう言って、リビングを出て行った。


「今めくれなくて残念だったね」

ニヤニヤする陽葵さん。


「そう遠くないに出来ると思うから、気を落としちゃダメよ。朝日くん」


などとからかってくる2人に困り果て、無言を貫くのだった。



 「お待たせしました。穿いてきました!」


陽菜さんがリビングに戻ってきた。それに合わせて椅子に座っていたボク・陽葵さん・陽子さんは立ち上がり、彼女の近くに移動する。


「陽菜。あんな事言っておいて、実は穿き忘れたとかないよね?」


「そんな訳ないでしょ、お姉ちゃん…」


これだけ自信満々に言うんだ。最悪? のケースはないようだ。


「めくり方は朝日さんにお任せします」


「こういうのって性格でるよね? 母さん?」


「ええ。朝日くんがどうめくるか気になるわ」


よくわからないけどハードルが上がってる? さっさと済ませたほうが良いな。


ボクは陽菜さんの後ろに立ち、指先で彼女のスカートのすそを恐る恐るつまむ。


「朝日君は“後ろ派”か~。って事は、お尻派でもあるのかな?」


「どうかしら? 陽菜に見られながらめくるのが恥ずかしいんじゃない?」


解説はいらないよ! そう心の中でツッコんだ後、つまんだスカートのすそを体感数センチ上げてから放す。


「もう終わり? 朝日君。それはめくった事にならないって!」


「でも、ボクがスカートを動かしたんだよ?」

風で揺らいだ訳じゃない。人の手が加わったんだから、めくった事になるはずだ。


「朝日さん、お姉ちゃんの言う通りです。全然めくられた感じがしませんでした」

体の向きを変えずに言う陽菜さん。


どんな風にめくっても文句言わないんじゃなかったの…?


「ほらね? もっと思いっ切りやらないと!」


「アンダースコートが全部見えるぐらいめくると良いわ、朝日くん」


それはめくり過ぎでは? パンモロになっちゃうぞ。


「佐下君がやるなら、“チラ”では済まないはずです。お母さんの言うように遠慮なくやって下さい!」


「陽菜さんがそう言うなら…」

ボクは下から大きくすくうように、スカートをめくる。


……さっきと違い、激しく動くスカート。その際にアンダースコートがハッキリ見えた。今更だけど、とんでもない事をしたな…。


「朝日君。やればできるじゃん!」


「昔を思い出すわ…」


陽子さんはめくられた経験があるみたいだな。って、それよりも陽菜さんだ。彼女の反応が気になる。


「めくられるって、こんな感じなんですね…」

陽菜さんはボクと向き合うために体勢を変えた。


この言葉以降、リビング内は沈黙に包まれる。これは悪いことが起こる前兆…?


「案外、悪くないかもしれません…♡」


顔が赤い状態でそんな事言うって事は、嘘じゃない?


「アタシが言ったように“むっつり”でしょ?」

再度耳打ちしてくる陽葵さん。


この母娘、一癖も二癖もありそうだ。そう思うボクであった。

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