番外編①
「なあ、なんで学校に来てるんです。黒路さん」
「ん、そりゃあ暇じゃしのう。知らんのか? 無職は暇なんじゃよ?」
なら働けよ。という言葉を飲み込みつつ、寮の前のベンチから腰を持ち上げる。
そろそろ初夏の季節、俺は平気だけれど黒路には暑いかもしれないと思って寮の中に連れ込むが……周りの生徒たちからヒソヒソとした声が聞こえてきて居心地が悪い。
「ん、どうしたのじゃ?」
「いや……黒路さん、和服なんで目立っているなと」
「ん、かわいかろ?」
和服の袖をパタパタと動かす黒路。
まぁ可愛いのだけれど、可愛いせいで俺にロリコン疑惑がかかってしまいそうなのだ。
外に連れ出してもいいが、それなりに暑い中、ここまできたのに休ませずに外に連れ出すのもな……。
と、考えていると、ちょうどヒナ先輩が通りかかる。
「ヒナ先輩」
「あ、トウリくん、こんにちは。……えっと、その子は? …………だめだよ?」
「いや……この人は俺たちよりも遥かに歳上ですよ。幼く見えるのは……コスプレです」
「コスプレ!? クオリティすご……」
「コスプレではないのう。じゃが、歳上なのは間違いないぞ」
ヒナ先輩は珍しいものを見るようにじーっと黒路を見る。
「えっと、それで、トウリくんとはどういう関係なの……ですか?」
「ん、友人じゃよ。そちらは……恋人かのう。ふむ、盗ったりせんかは安心おし」
「へ!? い、いや、ち、違うよ! 全然!」
黒路はヒナ先輩の顔を見てニヤリと意地の悪そうな表情をしてからピッタリと俺にくっつき、薄い胸をすりすりと俺に押し付ける。
「なら儂がもらってしまおうかのぅ? 人肌も恋しい頃合いじゃ。……お互いの、トウリ」
「な、ななっ!? だ、ダメ!」
「なんでじゃ? ん、ぬしには関係なかろうて」
「そ、それは……み、ミンちゃんが嫌がるだろうし……」
「あの娘はそんなことにこだわりはせんのではないか?」
黒路はいたずらそうに俺にくっつき、わたわたわと慌てているヒナ先輩を見て笑う。
「わ……私が、その、嫌だから……。トウリくん、くっつくのやめてほしい……です」
「……なら仕方ないのう。のう、トウリ」
「……あんまりヒナ先輩を虐めないでください。あ、先輩、追い返すのもあれなんで寮の部屋に連れて行きたいんですけど俺の部屋の鍵を返してもらっていいですか?」
ヒナ先輩は俺の言葉を聞いて「じとー」と俺の顔を見つめる。
「二人きりになるの?」
「あー、いや、変なアレじゃないですよ」
「……なら、私も行っていい?」
「もちろんです」
俺が頷きながらそう言うとヒナ先輩はポケットから俺の部屋の鍵を取り出しながら歩き始める。
「ん、スキルの部屋には連れて行かないの? そっちでもいい気がするけど」
「あー、今ちょっと……アレなんですよね」
「あれって?」
「ミンさんと夜通し遊んでて散らかってるんですよね」
「あー、なるほどね。……えっ、よ、夜通し……?」
俺の言葉にヒナ先輩が「あうー」と混乱した様子で目をぱちくりさせて、それから俯く。
「み、ミンちゃんと仲良ししてて、い、いいね。でも、その、学生のうちはよくないというか……。……うう」
「いや、あの……普通に遊んでただけですよ。ダンジョン探索のときの暇つぶし用のゲームの試遊とか、銃を触ったりとかですよ」
「銃を!? トウリくんの!?」
「いや、俺のはメンテナンスで預けてるので」
「預けられるものなの!? えっ、と、取れるの? というかトウリくんのがないなら……あれ、もしかして、銃って銃のこと?」
そりゃ銃とは銃のことだよ……。
「う、うぅ……なんか理不尽に痴女みたいに思われてる気がする」
「いや……思ってませんよ」
「本当に?」
「……あ、鍵開けてもらっていいです?」
「……あの、トウリくん、本当に?」
「……」
「トウリくん?」
三人で部屋の中に入る。
久しぶりに入ったけれど、当然ながら変化はない。
「がらんとした部屋じゃのう」
「まぁ、スキルの中の方が快適なんであんまり使ってないんですよね。というか、鍵も合鍵も取られちゃって」
「モテすぎるのも難儀じゃのう」
鍵がないのはモテるとかそういうアレではないと思う。
黒路はポスリとベッドの上に座り、俺の方を見る。
「なんじゃ、茶のひとつも出さんのか?」
「寮の私室に何を求めているんだ。……といくか、もてなそうにも急だしな。せめて電話でもしてくれたらスキルの方を片付けてたのに」
「散らかっていてもかまわんぞ? というか、たくさん部屋があったろうに。全部使ったとなると、随分とまあ盛り上がっておるの……。まぁ、若い探索者同士じゃとそうなるか……。あの娘も器量良しじゃしのう、お主もたまらないじゃろ」
ミンさんがたまらないのは事実だけど、盛大に勘違いされている……。
「いや……一部屋は荷物置き場、一部屋は会長と高木先輩が使うことが多いみたいな感じなので、なんだかんだと自由に使える部屋が少ないんですよね」
「ふむ……まぁ、元気なのは良いことじゃ」
「説明しても誤解が解けない」
「もしかして……その元気さを儂にもぶつけるつもりなのかの? こんな風に部屋にまで連れ込んで……」
黒路はわざとらしくハラリと和服をはだけさせて華奢な白い肩を露出させる。
するりと肩から抜けていく服を見て、ヒナ先輩は大慌てにてをパタパタと動かす。
「だ、ダメだよ! トウリくんはえっち野郎なんだから!」
慌てたヒナ先輩が、ふざけて服をはだけさせている黒路の手を掴んだ瞬間、黒路は表情を変えて慌てた様子を見せる。
「あっ、い、今、手で押さえておるのじゃ、手をのかしてしまうと……!」
わざとはだけさせた和服をずり落ちないように止めていた手が持ち上げられて、するすると黒路の起伏の少ないなだらかな体から服が落ちていく。
「────っ!? あ、あう……み、見るでないっ!?」
俺を揶揄うことはあっても見せるようなつもりは当然なかった黒路は、意図しない上裸のうえ、手もヒナ先輩に握られていて隠すことが出来ない。
ほそりとした幼い少女の胸や腹が隠されることなく俺の前に晒されて……慌てる二人をよそに、俺はゆっくりと自然体のまま椅子に座って脚を組む。
「……のう、トウリ」
「なんすか」
既に和服を羽織り直した黒路が俺をじーっと見て口を開く。
「からかうのも冗談のつもりじゃったんじゃよ。……もしかして、この幼い体にも欲情するのかの? おぬし」
「…………してませんけど」
「不自然に座って脚を組みおったし、ちょっと立てるかの」
「…………」
「…………」
「俺はね、健全な男子高校生なんですよ」
俺はゆっくりと、けれども確かに言葉を紡ぐ。
「というか……! 初めて見た異性の裸が黒路さんなの……なんかこう……嫌!」
「失礼じゃな、トウリお主、欲情しとるくせに」
「一生の思い出に刻まれ、何度も思い返すだろうイベントがそれなのは……嫌なんだ!」
「何度も思い返してほしくはないのじゃが……。そもそも、儂の何が嫌なんじゃ」
「婆さんで女児だし……」
「婆と女児を足して半分にしたらお姉さんなのだからむしろ良いじゃろ。お姉さんの肌を見れたと思うと良い」
「それは……違うだろ! というか足して割ったら結局婆さんだろ、黒路の年齢なら」
俺が黒路と言い合っていると、ヒナ先輩がジッと俺の組んだ足の根本の方を見ていることに気がつく。
「……先輩?」
「な、なに!? なにかな!? み、みみ、見ようとなんてしてないよ!?」
まだ何も聞いてないです。……もしかして、本当に痴女なのか……? 違うよな、うん。
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