第21話:龍化
ショッピングモールの前で佐倉と合流すると、佐倉は「ま、また増えてる……」と戦慄の声を上げる。
「わ、私は藤堂先輩のことが好きな佐倉アルカです」
また初手で牽制してる……。
ぺこり、と、頭を下げる佐倉に、カモメはドン引きした様子を見せる。
「うわ……趣味わる……」
それは俺も同意ではあるのだが、助けを求めにきて大泣きしたあとによくその反応を見せられるな、この小娘。
軽く額にデコピンをすると、また涙目になって俺を睨む。
「な、仲良しアピール……!?」
「違う。ずっと虐めてくる」
「うぐぐ……自慢されてる」
ええ……。
「それで……この子は?」
「あー、事情があって、少しだけ預かってる」
「預かる……って、その、もしかしてせ、先輩のスキルの中にですか?」
「まぁそうなるな。寮の部屋というわけにはいかないし、そもそも俺の寮の部屋ってもはや俺の意思では入れないしな」
「えっ、な、なんでですか?」
鍵を二本とも先輩達に抑えられているからです。
佐倉はぺたりと俺の隣にくる。
「……わ、私も泊まっていいですか?」
「えっ、あー、ご両親が心配しないか?」
「それは、その……。せ、説得します」
中学生の娘が男のところに泊まると言って頷く親は……まぁ、いないわけではないけど、少ないだろうと、カモメの方を見て思う。
「まぁ、ほら、カモメだけじゃなくミンさんもいるだろうし、そんなに心配しなくても」
「……むしろそっちの方が心配なんですよ」
「えっ、なんでだ。ミンさんは妹だぞ? ……あれ、妹だっけ? 妹ではなかったような気が……」
ミンさんがスッと俺の隣にきて「川瀬ミンは妹、川瀬ミンは妹、川瀬ミンは妹」と囁く。
「そうだ。ミンさんは妹だった。なんで妹じゃない気がしてたんだろうか。疲れてるのかな」
「せ、洗脳……。え、えっと…-…佐倉アルカは彼女、佐倉アルカは彼女、佐倉アルカは彼女」
「う……。佐倉は彼女……?」
確かに付き合っていたような気が……。
ミンさんがそれを受けて言葉を変える。
「山本ヒナはお嫁さん、山本ヒナはお嫁さん、山本ヒナはお嫁さん」
「そ、そういえばそうだった気がする……」
「この男、催眠に対して弱すぎる」
左右から囁き声で洗脳されていると、カモメがやってきて新たに耳元で囁かれる。
「藤堂トウリはドラゴン、藤堂トウリはドラゴン、藤堂トウリはドラゴン」
「何の目的の催眠なんだよ、それは」
そうしながらしばらく歩いていると、ポケットに入れていたスマホが鳴り、俺はそれをとる。
『おーっす、藤堂、暇かー? どうせ暇だろ? 遊ぼうぜ』
「ああ、佐伯か。いや、今ちょっと人と買い物に来ていて」
『俺たち以外に友達とかいたの? 誰と?』
「妹と彼女とお嫁さんとクソガキと」
電話越しに佐伯がとても悲しそうな声を出す。
『……そうか、藤堂。モテなさすぎて現実と妄想の区別がつかなくなったんだな。……分かるよ、俺もよく存在しない妹とデートするし』
「いや、俺には本当に妹がいるんだけど……」
クラスメイトの悲しい言葉を聞き、電話を切って、まずは最初に予定していたカモメの服を見に行く。
「さてトウリ、僕はどんな服にしたらいいかな」
「カモメの服なんだから自分で決めろよ」
「君に買ってもらうわけなんだから、君の意見を参考にしたいんだよ」
「……じゃあ、これとかは?」
近くにあった清楚な感じの服を指差すと、カモメはフッと鼻で笑う。
「オタクの男の人が好みそうな服だね」
「五秒に一度は生意気なことを言わないとダメな病気にでもかかってるのか……? じゃあ、こっちは? ミンさんが着てるようなやつ」
「あんまり脚を出すのはね。彼女ほど綺麗ではないし」
「面倒だな……。ヒナ先輩みたいな女の子らしいのは?」
「あんまりガーリッシュなかわいい服を着るの、勇気がいるよね」
文句ばっかりだな。
まぁ真面目に考えるとして、年齢もあって背丈は低く子供っぽい、というか子供である。
すぐ涙目にはなるが、どちらかというと落ち着いた感じの方が似合いそうだ。
シンプルな感じの服をいくつか挙げると、そのうちのひとつを気に入ったのかカモメは手に取る。
「なるほど、君は僕にこんな服を着せたいのか」
「もうほとんど自分で選んでるみたいなもんだったろ……。あー、佐倉も何か買うか?」
俺が佐倉に尋ねると佐倉はおずおずと言う。
「えっ、あ、そ、その……私のも選んでもらえますか?」
「いや、俺はセンスがないらしいからな……。あ、ちょっと金を卸してくるから。欲しいのがあれば一緒に買うから選んでおいて」
「……はい」
金を卸してからベンチでひとり休む。
ミンさんとヒナ先輩たちもついでに買うようで、楽しそうに選んでいるのが見える。
ミンさんはそんなに服には興味がないかと思っていたが、案外そうでもないらしい。
やっぱり女の子だなぁ。
しばらく待っていると、佐倉がトコトコと何も持たずにやってくる。
「あれ、買わないのか?」
「あ、はい。白鳥ちゃんがたくさん買ってるので……申し訳ないなって」
「ああ、まぁ、自宅に戻るのが少し先だからな。佐倉も遠慮しなくていいんだぞ」
「……先輩が選んでくれた服を着たいです」
「えっ、あー……。あんまり自信ないぞ?」
「いいです。自信なんてなくても」
そうか……。と頷いて、遠くの方に見えたドラゴンの柄のTシャツの元にいく。
「このドラゴンのやつとかどうだ? 事実上俺とのペアルックになるけど」
「ど……ドラゴン化催眠が尾を引いてる……!」
◇◆◇◆◇◆◇
それなりの時間ふたりで服を見てまわって選んだけれど、佐倉は「自分で買いますよ」と会計に持って行ってしまった。
「先輩とは、普通に、普通の、学生のカップルになりたいのです」
とのことだ。……まぁ、短い間に学生の割に小金持ちになって、未成年の領分を超えた金の出し方をしそうになっていたような気もする。
金の出入りが激しくて、そこのところの感覚が崩れてきていたのもあるかもしれない。
「……『今度また、あのフードコートに行きましょう』か。……そうだな、それぐらいの方がいいか」
背伸びするものでもないだろう。
高校生と中学生なんだし、それぐらいのデートの方が相応しい気がする。
また今度……か。約束したし、守らないとな。
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