第9話:部屋割り
チャーハンと餃子、美味いけどパーティって感じじゃないなと思いながら食べていると、ミンさんがポツリと口を開く。
「……これが、親睦会……?」
「いやまぁ……仕方ないですよ。会長はこう見えても友達が少ない男なんです。会長の企画能力ではこんな感じになります」
「藤堂くんはなんでそんなに辛辣なの? いや、時間がないからだし、あと藤堂くんと川瀬くんが騒ぐのが苦手そうだから気を使ったんだよ。カラオケとかボーリングとかでもよかったんだよ」
まぁ……それは嫌だけども。
「まぁ、親睦会と言っても、そこまで仲良くなる必要があるわけでもない。要は協力出来るか否か、相手と喧嘩せずにいられる方法はあるのか、総じて「相手がどんな人物なのか」それを知れればいい」
「いつも……ヘラヘラしているわりにクールな物言いですね」
「まぁ、僕は藤堂くんほど熱血漢じゃないしね」
「なんで俺が熱血漢と思われてるんですか、ねえ、高木先輩」
俺が否定してくれることを期待して高木先輩に話を振ると、先輩は頬をかきながら言う。
「あー……まぁ、結構熱い人だとは思うかな」
「……お、俺が? いや、自分で言うのもアレですけど、どちらかと言うと薄情ものだと思うんですけど」
高木先輩は気まずそうに頬をかく。
「薄情ではないかなぁ。あんまり表情豊かではないけど、人情家ですね」
そんなことは……そんなことはないだろ……!
まぁ、俺はそんな二面性があるやつではないが、みんな表面的に見えるキャラクター性と中身は違うように思える。
会長はカッコつけだが泥臭いやり方や伝統を好むし、高木先輩は付き従うように見えてなんだかんだと会長を振り回している、ミンさんは人見知りだけど極度の寂しがりやで、ヒナ先輩は明るく見えるけどどこか陰がある。
……彼ら彼女らのことはまだ全然分かっていないと思うけれど、それでもなんとなく地雷になる言葉は分かる。
「料理の手順は割と性格が出ると思うんだ。丁寧に作るか手早く作るか、人と協力するために遠慮するか引っ張るか。良し悪しの話じゃなくて、どんな人かの傾向が分かるよね」
ヒナ先輩は「まぁ」と頷く。
「割といいパーティだと思うよ。実力もそうだけど、僕が突出してもついてきてくれる人と合わせてくれる人と引き止める人が揃っている。このパーティなら、三十層の突破も視野に入れられる」
ミンさんが「三十……」と、少し不安そうに言う。
「もちろん、そこまで行くかどうかは余裕があるかによるけどね。でも、藤堂くんのスキルがあれば割とストレスなく進めると思うんだ」
「まぁ、今ならシャワーと家電製品も使えるので、五人か六人だと多少生活音が気になるのとネット環境がないことぐらいが気になる程度ですかね」
個人的には全員仲がいいのでストレスはないが、ヒナ先輩は高木先輩とも会長とも相性が悪いので四六時中一緒にいるとあまり心が休まらないかもしれない。
昨日発見したスキルの合鍵で帰宅する方法も考えたが、朝に少しスキルの検証をした結果、ダンジョンでワープゲートとして使うことはそれなりに難しいことが分かった。
というのも、妙な話ではあるが……ダンジョンから俺のスキルを使って脱出することは出来なかったのだ。
ダンジョンの中からミンさんの部屋に移動しようとしたところ、扉の内側が黒い壁のようなものに遮られてしまった。
理由は正確には分からないが、俺としては「ダンジョンは異界だから、異界と現実を繋ぐゲートを通らなければ行き来できない」のではないかと考えた。
まぁ、確証は何もない単なる勘である。
理屈は分からないが、中間セーブみたいなやり方は出来ない……と考えていれば良さそうだ。
「ストレス対策……というと仰々しいですけど、長い探索になるなら気晴らしの道具はあった方が良さそうですね。これから買いにいきますか?」
「まぁそうだね。そこまで高いものでもないなら用意してもいいかな。どれぐらいなら電気を使える?」
高木先輩が提案し、会長もそれに乗る。
「ドラゴンの件でめちゃくちゃ魔力が増えたので、サーバールームでも作らない限りは問題ないかと。さっきいける部屋が新しく増えた感覚があるので、
「ならシアタールームでも作るのもありだね。……ちょっとワクワクしてきたね。みんなは希望とかある?」
会長の言葉にミンさんが口を開く。
「……試射場?」
「そこまで広い部屋はないですね」
俺が突っ込むとミンさんは「むぅ」と悲しそうな顔をする。
「あ、娯楽というわけではないですけど、洗濯機と服を干す場所は欲しいかもしれません。その、前もちょっと臭ってないか気になって」
「ああ、まぁ、普通に全員で住めるぐらいの環境にはしたいですね。……先に部屋割り決めますか? 今解放されてるのが四部屋で、全部1LDK、今いる会議室とダンジョン準備室で一部屋。残り三部屋を五人、もしくは新規メンバーの六人で分ける感じになるかと」
部屋割りという言葉に、高木先輩とミンさんがぴくりと動く。
会長はその様子に気が付かない様子でのほほんとチャーハンを食べながら提案する。
「まぁ、なら男女別で、僕と藤堂くんで一部屋、川瀬くんと山本ヒナで一部屋、高木くんがひとりで一部屋って感じかな」
まぁ妥当ではあるか。
普通に考えて高校生の男女で同じ部屋で寝るとかおかしいもんな。
そう考えていると、ぴょこり、ミンさんが手を挙げる。
「……私とヒナさんと藤堂くんの三人で一部屋でいいと思う」
俺は良くないと思う。
まぁ会長の案が妥当なところではあるか。
……けど、高木先輩がなぁ。
「……前の探索も高木先輩と会長が同室でしたし、今回もそれでいいんじゃないですか?」
「いや……男女ではやっぱり問題だよ」
困ったように言う会長に、俺は真剣な目を向けてゆっくりと尋ねる。
「……前回、起きたんですか。問題が。……起こしたんですか? 問題を」
ヒナ先輩がぐいっと机に身を乗り出し、ミンさんが「ステイ、ステイ」とそれを止める。
「生徒会長……どうなの! 説明責任を果たすべきなんじゃないかな!」
ヒナ先輩の言葉に会長は目を逸らし、歯切れが悪そうに答える。
「いや……問題は、うん、起きてないよ。まったく。けど、それはそれとしてよくないと思うんだ」
「問題が起きてないなら、まぁいいんじゃないんですか? ほら、普通の探索のときも近くで寝ることになるわけですし」
「ベッドがあって休める環境だと違うというか、高木くんも嫌だろうに……。ねえ、高木くん」
高木先輩に会長の視線が向く。
「い、いやなんてことはありません」
「……と、というかさ、藤堂くんも似たような感じになったら困るだろう?」
……会長。俺はもうそんな感じなんですよ。
「藤堂くん、なんだい。その表情は何なんだい?」
「……えっと、藤堂くんは、そんなに困ってないですよ?」
ミンさんの言葉と俺の表情で、会長は何かを察したように「マジか……コイツ」というような表情を浮かべる。
「……藤堂くん。節度って言葉知ってる?」
「座右の銘ですね」
「節度が座右の銘の男って、あまりにも節度がなさそうだね……」
「いや、まぁ……色々思うところはありますけど、なんかミンさんってすごい甘えん坊で……妹みたいに感じてきてるんですよね、最近」
「先輩だよ」
会長は冷静に突っ込む。
「いや、先輩であることはちゃんと理解しています。でも、先輩であることと妹であることは相反しないのでは……?」
「するよ、相反。というか、川瀬くんに失礼だろうに。なあ、川瀬くん」
ミンさんは会長の言葉を聞き、少し考えてから俺を見る。
「……私も藤堂くんはお兄ちゃんだった気がする」
「正気に戻ろうよ」
「でも、私の心が言ってるの「あ、藤堂くんはお兄ちゃんだ」って。その体感があるよ」
「体感ではなくファクトに基づいて話そう。……じゃあ、兄妹は二人部屋で、高木くんと山本ヒナ、僕は一人部屋でどう?」
「いや、それは揉める面でも異性の面でもダメな分け方でしょうに」
「急に正気に戻らないで」
そんな話し合いが続き、最終的には多数決で会長と高木先輩、ヒナ先輩とミンさん、俺は一人部屋という形で決定した。
そのあともなんだかんだとわちゃわちゃと話しているうちに時間はすぎていき、結局買い物には後日に行くこととなったが……まぁ、だいぶ変な形ではあるが親睦会という意味なら成功したと言っていいだろう。
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