第7話:威嚇
お菓子を食べながら少し待っていると、両手にレジ袋を持った会長がやってくる。
「やあやあ、藤堂くん、そして川瀬ミン! よくきてくれたね。嬉しいよ」
「……」
会長は机の上にレジ袋を置き、俺たちのいるソファの前にやってくる。
「何度誘ってもそっけなかったから少し落ち込んでいたんだよ。ああ、川瀬くんと呼んでもいいかな」
御影堂会長に話しかけられたミンさんは俺の背中に隠れて、逃げるように首にかけていたヘッドホンで音楽を聴き始める。
そんなに苦手なんだ……。会長も悪い人ではないんだけどな。
「ああ、また逃げられてしまった」
「まぁ……今回は普通に歓迎してるだけなんで、客観的には無視しているミンさんの態度の方が悪いとは思うんですけど。それはそれとしてミンさんの方の味方なんで理不尽なことを言いますね」
「理不尽な発言を事前に予告する人、初めて見たよ」
「あんまり怖がらせないでやってください。優しいけど気弱な人なんで」
会長は少し驚いた表情を浮かべてからにこりと俺に笑う。
「……いや、理不尽というほどではないさ。すまないね、急に距離を詰めて驚かせたようで。改めて自己紹介をしよう。生徒会長の……いや、藤堂くんの友達の御影堂クイナだ。よろしく」
「……川瀬ミン、です」
会長は満足したように頷いて俺たちの反対側の席に座る。
「藤堂くん。君という人は存外に人たらしだね」
「いや……クラスでなんか知らんうちにかなり嫌われてますね。たぶん生徒会のせいだと思いますけど」
「まぁ、生徒会の権限で封鎖したからね。多少は恨みも買うさ。けどね、君と直接の関わった人はなんだかんだ好きになっているだろう?」
「……親切な人に恵まれただけかと。それより、親睦会の準備しますか? 昼時ですし、さっさと料理を作った方がいいかと」
「そうだね。とりあえずお米を炊こうか」
今更だけどピザでも買ってきた方がよかったんじゃないだろうかと思いながら、一足先にスキルの中に入り、ヒナ先輩とミンさんの部屋に繋がる扉に布をかけておく。
調理器具を会長と共に中に入れて、会長が米を洗っている横で他の調理器具を設置していく。
「会長って米とか研ぐんですね」
「そりゃ研ぐよ……。いや、高木くんと違って普通の家だからね、うちは」
あ、そうなんだ。てっきり家族みんな金髪をファサァ! やってるタイプの家庭かと思っていた。
「そういえば、そろそろゴールデンウィークだけど藤堂くんは家に帰るのかい?」
「えっ、あー、近いですし、一応婆さんところに顔は出そうと思ってますけど、泊まることはないかと」
「そっか。高木くんは帰るけど、僕は寮にいるし、ゴールデンウィークに何かするかい?」
「本当に遊ぶの好きですね……。装備整えるのと、自主トレをするんで。最近、レベルアップの影響か感覚がおかしいんですよね」
「ああ、まぁドラゴン倒したもんね」
「そうですね。あれからずっと酔ったみたいな感じで」
会長は『うへぇ』と同情したみたいな表情を浮かべる。
やっぱりこの感覚気持ち悪いよな。と考えていると俺の陰に隠れていたミンさんにくいくいと引かれる。
「……ドラゴン倒したの?」
「まぁ、一応ですけど」
「それで、ダンジョン封鎖してたの?」
「そうですね。遠因ではありますが」
「おお……すごい」
信じるんだ。
普通なら俺みたいなのがそんな怪物を倒したなんて言っても信じられないだろうに。
やっぱり、この人はなんか素直で可愛いな。
「よし、米の準備は出来たし、生徒会室でふたりが来るのを待とうか」
「……私、ヒナさんにあげるお菓子探してくるね」
会長と二人で生徒会室に戻る。
今日は高木先輩もすぐにくるだろうし、会長のコーヒーは高木先輩に任せた方が高木先輩も喜ぶだろう。
「ところで、さ」
会長は俺のスキルの扉の方を見てから、俺に問いかける。
「川瀬ミンくんとも随分と仲がいいみたいだけど、本命はどっちなんだい?」
「色ボケ会長がよ……」
「なんだい色男の補佐くん」
「なんか最近色んな人に聞かれてずっと言ってますけど。世話になってる先輩に対して勘違いして恋心を抱くとか、後輩として最悪でしょう。俺は礼儀知らずのアホですけど、それぐらいの良識はありますよ」
俺がそう言うと、会長は『マジかよコイツ……』みたいな目で俺を見る。
「マジかよコイツ……」
実際に口にもした。
「まぁ……仮に、仮にふたりから好かれていたとしたら?」
「なんすか、その仮定。……まぁ、だとしたら……」
会長に乗せられて少し考えてみようかと思ったが……。
ヒナ先輩と結ばれたら自動的にミンさんもついてくるので、どちらにせよミンさんがやってくることになるのでは……?
「えっ、何を考えたらそんな微妙な表情になるの? 藤堂くん」
「いや……まぁ、ほら、色々あるんです。俺にも」
まぁ……ミンさんは俺とヒナ先輩にくっついてほしいのだろうが、現実的な話としてヒナ先輩には情けないところをたくさん見せたのでそうはならないだろう。
ミンさんから向けられている感情も好意ではあっても恋愛感情ではないだろうし。
「固定ではなく臨時とは言えど、同じパーティを組むんだからあんまり恋やらなんやらみたいなのはしない方がいいでしょう。会長にとっても」
「いや……藤堂くんのスタンスで放置してた方がバランス崩壊しそうな気がするけど……」
まぁ、仮にそんな男の夢のハーレムみたいな奇跡が起きたとしても、ミンさんの望みを考えると揉めるみたいなことはないだろう。
会長と話していると、お菓子を持ったミンさんがひょこっと顔を出す。
「何話してるの?」
「あー、その、ほら、みんなで仲良くしたいな、的な?」
「ん、そうだね。みんなで仲良く出来たらいい」
と、ミンさんが言っている途中で生徒会室の扉が開く。
「しゃーっ!」
「ふにゃー!」
……そんなことを言っていたのに、高木先輩とヒナ先輩が威嚇しあいながら入ってきた。
「どうどう。ヒナ先輩、どうどう」
「あ、トウリくん。こんにちは」
「何があったんですか?」
「いや……会ったら、威嚇されたから……?」
……そんなことある?
高木先輩の方を見ると、高木先輩は俺の視線を受けて気まずそうに言い訳をする。
「いや……だって、その……。えっと……」
会長の方に視線が向く。どうやら会長が気になるようなので一度廊下に出て、もう一度高木先輩と向き合う。
「……その、山本さんも川瀬さんもすごく可愛いから……。会長を取られると思って」
いや……だからと言って威嚇しちゃダメだろ。人として。
というか、両想いなのに面倒くさいな……。と、思いながら首を横に振る。
「あー、会長、背が高めですらっとしてる子の方が好みだそうですよ。ヒナ先輩とミンさんは背が低いので」
「そ、そうなんですか? ……私、女の子の中だと背が高い方です」
「ど真ん中でしょうね、好みの」
「そ、そうかなぁ」
「なんで、別に警戒する必要はないと思いますよ。ヒナ先輩とミンさんも別に会長が好きって感じじゃないですし」
「……か、会長のことが好きじゃない? そんな人類存在するんですか……?」
大概の人類はそうだよ。
「まぁ、このパーティで探索するのは会長のためのことなんで、高木先輩も協力してくれたらと」
「……うん。分かりました。……あんまり役に立てないかもしれませんが」
ふと、高木先輩の顔に陰りが見える。
どうしたのかと声をかけようとするが、先輩は先に生徒会室に入ってしまった。
……ただ謙遜しているだけだろうか。
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