第6話:間に入る
翌日、朝起きて周りを見ると、置いた覚えのない銃と弾薬が増えていた。
たぶん、寝てるときにミンさんが置いたんだろうな……。
まぁ問題ないかと思いながら体を起こすと、ふわりとヒナ先輩の匂いがする。
当然、本人はおらず、クローゼットの中に見知らぬダンボール箱があったのでそれを覗くと女性ものの冬服が入れられていた。
「何故、ヒナ先輩までこんなことを……」
別に迷惑というほどではないけど、ヒナ先輩はこういうときは一言断りそうなものだけど……。
と考えてから服を着替えて外に出る。
少し騒がしい食堂で朝飯を食べて、早めにクラスにいって、自分の席で教科書をパラパラと読んでいく。
二週間の遅れはあるが、元々名前を書けば入れるような学校のためか、内容は平易で進みは遅い。
探索者用ではなく一般的な教科は中学生の頃の復習のようなものだし、もう追いつけるな。
高木先輩、この内容のもので補習受けていたのか。……いや、三年になったら難しい可能性もあるか。
学校のダンジョンが解放されたばかりだからか、生徒の出席率は三分の二程度。
いつもの馬鹿二人はおらず、気分よく授業を受けてから生徒会室に向かう。
「あ、おはよ。藤堂くん」
「ミンさん……もしかして、昼まで寝てました?」
「なんでわかったの?」
挨拶がおはようだったからかなぁ。
生徒会室の電灯を点けて、端にちょこんといたミンさんを手招きしてソファに座らせる。
背丈はヒナ先輩より少し高いぐらいだけど、こういう知らない場所で縮こまってしまうところを見るとより小さく見える。
「コーヒー飲めますか?」
「苦いの苦手。部屋にある冷蔵庫からジュース取って来ていい? あ、お菓子あげるから選んでいいよ」
「ああ、じゃあスキルの扉を開けますね」
扉を開いてスキルの中に入り、その中にある開きっぱなしの扉を潜ってミンさんの部屋に入る。
俺の部屋に荷物を移しているので前にきたときよりも少し片付いているだろう思っていたが、全然減ってない……というか、新しい銃が増えている。
「藤堂くん、お菓子どれがいい?」
チョコやらグミやらクッキーやらと、甘いものを手に取って見せるミンさん。
俺はふと視線をあげてしまい、あるものに気がついてしまう。
ミンさんの後ろに可愛らしい下着が干してある。
……どうする、俺はどうするべきなんだと考えながら、なるべく見ないように一番俺の手元に近かったお菓子を手に取る。
ミンさんは俺の様子に違和感を覚えたのか、不思議そうにこてりと首を傾げた。
「どうしたの?」
そう言いながら振り返り……動きが固まり、顔がみるみる赤く染まっていく。
「やっ、ご、ごめん。干してたの、忘れてた」
「……いや、すみません。……一緒に寝るのは良くて、下着はダメなんですね」
「……? 見られるの、恥ずかしい」
いや、まぁそれはそうなんだろうけど。
黙ったら気まずい空気になりそうだと思いながら、下着を隠しているミンさんと話す。
「ミンさん、卒業したら一緒に暮らしたいと言ってるから、そういうのはあまり気にしないのかと。一緒に生活してたらどうしても目に入るでしょうし」
俺がそう言うと、ミンさんは羞恥で上気した顔を俺に向ける。
「……そうなの?」
「まぁ、家の大きさにもよるとは思いますけど」
「……世の中の人は、頑張ってるんだね」
「たぶん気にしてないだけかと、普通、異性で同棲するなら恋人か夫婦か血縁かってところでしょうし」
ミンさんは少し考えてから、赤い顔でこくりと頷く。
「……じゃ、じゃあ、見る? 慣れるため」
「見ません。先戻ってますね」
生徒会室に戻り、ぼすりとソファに座る。
……ピンクだったな。前に見たのもピンクだったし、案外ピンク色が好きなのだろうか。
いや、それはさておき……ミンさんと半同棲みたいな形になってしまっているのはどうなのだろうか。
別に不快感はないし、気も合う相手だけど、可愛らしい異性でもある。
ミンさんの方は俺のことを異性と認識しているが、そういう対象というよりかは家族的な方向性であり、なにより俺とヒナ先輩をくっつけたがっている感じである。
なんとなくミンさんの事情も察せられるので、あまり邪険にしたくはないんだよな。
「難しい顔、どうしたの?」
「いや……ほら、ミンさんと半分同棲みたいな感じになってるじゃないですか、最近」
「うん」
「世間一般的にどうなんだろうと思いまして。あと……その、中学生のときに俺のことを好きと言ってくれた子がいて、微妙に申し訳ないなと」
ミンさんは俺の言葉に固まる。
「浮気。ヒナさんに対する裏切り……」
「いや、別にその子ともヒナ先輩とも付き合ってないですからね。あと……まぁ、俺にも色々あるので、どうするべきかと」
「色々?」
「……まぁ、ミンさんは可愛いので、緊張するみたいな話です」
ひとりになる時間などがないまま、距離が近く隙だらけのミンさんと一緒にいると男子高校生としてくるものもあるのだ。
ミンさんはそんな俺の事情は分からないのか不思議そうにこてりと首を傾げる。
「……どうしようかなぁ」
「その子に、ヒナさんとのことを説明して、諦めてもらう?」
いや、そのことではなく……。そもそも仲の良い先輩がいるから諦めるということはないのではないだろうか。
「そもそも、ミンさんはなんで俺とヒナ先輩をくっつけようとしてるんですか? 動機が謎なんですけど」
俺が尋ねると、ミン先輩は少し目を細めて憂を帯びた表情をしてから、柔らかく笑みを作って俺を見る。
「……川の字にさ、なって寝ることってあるよね」
「……? はい」
「そのときに、真ん中に私を入れてくれそうな組み合わせのカップル……。他にあるかな」
「ミンさんはどういうポジションの何を目指してるんですか」
間に友達をひとり挟むカップルなんて存在しねえよ……!
ミンさんは続ける。
「三人で出かけたとしてさ」
「はい」
「私を間に入れてくれそうなカップル……他にいないから」
「何の目的でミンさんはカップルの間に入り込もうとしてるんだ。……というか、そもそも、前提、別にヒナ先輩が俺のことをそう想ってないのだから意味ないでしょうに」
客観的に見て、世話の焼ける後輩程度の認識だろう。
……なんか自分で言っていて少し悲しくなってきたな。
「というか、それなら女の子同士でシェアハウスするとかの方が現実的なのでは?」
「いや、それだと彼氏作ったり結婚したりでいずれ出ていっちゃう。このまま結婚しそうなカップルの間に入り込むのがマスト……!」
「マスト……! じゃないですよ。ますますミンさんが何のポジションを狙っているのか分からなくなってきた」
……もしもヒナ先輩と付き合うことになったら、ミンさんもついてくるのか。
こう……それはどういう風に思えばいいのだろうか。
「大丈夫。私、サポートする。ヒナさんの好感度あげておく。夢のために。ふたりの恋を守り育てていく」
…………ラブ・ガーディアン2号だ。
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