第4話:パーティ編成
「とりあえず、これで四人。あと二人か。……僕たち三人は全員サポート寄りの万能型だから残りのメンバーは迷うね。斥候と後衛火力がありがちな構成だけど」
会長の言葉にヒナ先輩が手を挙げる。
「私のスキルは感覚器官も強化されるから、斥候も出来なくはないよ。本職には敵わないけど」
「僕も小動物を使えば出来なくはないし。そもそも藤堂くんのスキルに逃げ込むという選択肢がある以上、そこまで斥候が重要でもないんだよね」
「となると、後衛は確定で……あとの一人は優秀そうな人か都合が合う人って感じかな」
後衛……か。
ヒナ先輩と御影堂会長の意見は一致しているようだ。
「まぁ、ミンちゃんかな」
「川瀬ミンだね。彼女は是非パーティにほしい」
このふたりが揃って評価するほどか……。
俺の中のミンさんのイメージは銃が好きなオタクの女の子という感じだが……。
「そんなに強いんですか? ミンさんのスキルって」
「いや、スキルはそんなにかな。ミンちゃんが強い」
ミンさんが……強い……?
……警戒心が薄くて俺の前ですぅすぅと寝るような小動物みたいな女の子……だよな。
「いや……ミンさんが強いのは嘘でしょ。強力なスキルを持ってるなら分かりますけど。あの人、この前ラーメンで舌を火傷してましたよ」
「川瀬ミンの射撃能力はスキルと同等の域だ。実質スキルを二つ持っているようなものだと思ってくれればいい」
「ラーメンに敗北する子なのに……?」
……あの、おとぼけマスコットみたいなところのあるミンさんが……?
もしかして同姓同名の別人か……もしくは双子の姉妹でもいるのではないか?
「じゃあ、最後のひとりはおいおい考えるとして、とりあえず、どうする?」
「何がですか?」
俺の言葉に、御影堂会長はやれやれと首を横に振る。ちょっとウザい仕草である。
「探索者が探索を成功させたとき、やることは決まってるだろう?」
「いや……なんだろ、反省会?」
俺がそう言うと、会長は鼻で笑う。
「まだ探索者というものを分かってないみたいだね、藤堂くん。探索者が反省会なんてするわけないじゃないか!」
会長は立ち上がり、手を広げながら俺に言う。
「宴だよ、祝勝会で、宴会だ! 決まっているだろうに! 飲んで騒いで歌うのさ!」
大袈裟に楽しそうにする会長をよそに、俺はヒナ先輩に目を向ける。
「……そうなんですか? ヒナ先輩」
「んー、まあ、ストレス発散のためにぱーっと遊ぶ人は多いよ。特に長期間の探索になるとね」
「だろう? 探索者たるもの、騒いでこそだ! さあ相棒! 僕たちの仲を山本ヒナに見せつけてやろうではないか!」
「……ヒナ先輩が参加するなら俺も参加しますね」
「えっ、いや、私部外者だし」
「いや……あの探索者の三人は不参加でしょうし、高木先輩と会長と俺だけなのは微妙に気まずさがある」
「なんでだよ! 僕たちは仲良し三人組じゃないか!」
俺たちは仲良し三人組ではない。
「まぁ、親睦会込みで新しいパーティで何かする方がいいかと」
「分かってないねー。藤堂くんは、親睦会は親睦会、打ち上げは打ち上げ。二回した方がお得じゃんか」
「なんで会長みたいなキザ男キャラが宴会好きなんだよ……」
「そりゃそうだよ。探索者は騒ぐものだしね」
会長のその探索者の美学的なのはなんなんだ……。
「それに、探索者は慣例で一番手柄を上げた人がみんなに奢るって風習があるからね。人数が増えると藤堂くんが困ることになるかもとね」
「俺に奢られるつもりなのか……後輩にたかるのか……?」
「僕も心苦しいけど、それが探索者なのさ」
ヒナ先輩に目を向けると、先輩は呆れたように会長を見る。
「それは大人の探索者の慣例だから私たちには関係ないよ。そもそもルールってわけでもないしさ。まったくもう」
「いいじゃないか、その代わり親睦会は僕が出すからさ」
「その慣習に対する謎のこだわりはなんなんだ……。打ち上げはもういいだろ、結構時間経ったわけだし、親睦会も割り勘で」
俺がそう言うと、ヒナ先輩はこそりと俺に耳打ちする。
「大丈夫? お金出そうか?」
「大丈夫です。生徒会の探索でかなりまとまった額が入りましたから」
それに、まだ換金が済んでいないけれどもドラゴンとオークの分もあるのでちょっとした小金持ちだ。
俺はひとつ息を吐いてから会長を見る。
「会長は楽しいからそういうのをやりたいんでしょう。俺は先輩達がいた方が楽しいので、折れてください」
「えー、まぁ……そうだね。これを機に関係を改善してもいいかもしれないしね。宴会の場所だけど……」
会長が俺の方を見る。
「随分魔力増えたけど、スキルの成長で広い部屋とかないの?」
「あー、なんか全然って感じですね。あれから増えてないです。こういうもんなんですか?」
「普通は魔力の成長とスキルの成長はおおよそ比例するものだけど、希少な空間系だしね。よく分からないね」
「よく分からないか」
「よく分からないね」
俺もよく分からないや……。
俺のスキル自体はかなり昔から持っていたが、基本的に探索者としての資格を得られたこの春以前は法律の問題で使ってなかったからな。
うーん、入学してすぐに廊下と他の部屋ふたつが解放された、特に部屋ふたつは同時だったな。
で、それからかなりの回数を使ったし、魔力も増えたが特に部屋数は増えていないし、いける場所も同様だ。
……顔を上げて、二人の顔を見る。
「あ、親しい人の人数だけ部屋が増えてる?」
「へ? ……えっと、僕と高木くんで二部屋ってこと?」
「違います。……ヒナ先輩と仲良くなって廊下に行けるようになって、ミンさんと会長と仲良くなって同時に二部屋……って感じですね」
思いつけば、検証するまでもなくそうであるように確信できる。たぶん、これで間違いないという直感があった。
「高木くんは?」
「まぁ仲はいいですけど、会長の補佐って感じが強いので……」
「えー、じゃあ中学校以前の友人とか家族は?」
「……まぁ、それなりの仲の人しかいないので。なんとなくの感覚だけど、正しい感じがします」
「ふうん……となると、スキルの成長のためには仲良くする人を増やした方がいいってことかな」
「どうでしょうか。高木先輩もそうですし、クラスでもよく話す相手はいますし、中学生のころの後輩ともよく電話してますけど、ダメですし、それなりに難しい気がしますね」
会長は頷く。
「ふむ……相棒である僕のように、深く心が結びついていないとダメということか」
「ものすごく不服ですけどそういうことですね」
俺がそう言うと、隣に座っていたヒナ先輩は恥ずかしそうにもじもじと自分の指を弄る。
「そ、そっか。えへへ……」
「まぁなんで、単に知り合いを増やせばいいってものでもないかと」
「ふむ……。まぁそれはいいか。生徒会室で騒ぐと僕のことが嫌いな人たちに怒られるから、藤堂くんのスキルの中にしよう」
「まぁいいですけど、水道電気ガスも充分使える程度にはなりましたし。でも、あんまり盛り上がらなくないですか、部屋で集まるだけなんて」
俺がそう言うとヒナ先輩が悲しそうな顔をする。……そういや、ヒナ先輩もそんな感じの歓迎会をしてたんだったな。ごめんね。
「大丈夫、僕はシラフで無限に盛り上がれるタイプだからね。カラオケに行ってもひとりで無限にはしゃぎ回れるよ」
「へー、友達になりたくないタイプですね」
「せっかくだし料理も振る舞うよ。僕の華麗なるチャーハンをね」
「パーティでチャーハン……?」
「チャーハン以外作れないからね」
「キザな男がチャーハンオンリーで生きてきたのか……」
まぁ、親睦会自体は賛成だ。
「お菓子というか料理を食べる感じにするんですね。まぁ、俺も多少は出来ますけど」
「藤堂くん料理出来るんだ」
「はい。俺のチャーハンはプロ級の腕前なので」
「ダメだこの二人」
ヒナ先輩は仕方なさそうに肩を落としてそれから俺に笑いかける。
「仕方ないなぁ。買い物は付き合ってよね」
くすり、そう笑いながら言った。
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