第3話:ラブ・ガーディアン
御影堂会長の端正な顔立ちは、本人の人格の問題さえなければさぞモテることだろう。
その数少ない取り柄が大きく歪められていた。
そんなにヒナ先輩と仲良くするのは嫌か、この男。
「ええ、えええー、ええー……。いや、そりゃ強いけどさ、それはなくない? ギルド別だしさ」
らしくない言い訳。
俺はそれを潰すように話をする。
「実際、即戦力の前衛なんてなかなかいないんですし、ヒナ先輩に限らずともどこかのギルドから借りてくるしかない。なら、実力もあるヒナ先輩に声をかけるのは妥当じゃないですか?」
「う、うーん。いや、でも、順位を抜かそうって相手だしさ」
「この前のダンジョンで抜かした算段ならありでしょう。ヒナ先輩の順位を落とすのが目的ってわけじゃないんですし」
「……断られるよ? というか、藤堂くんも勧誘断っといて勧誘し返すのはどうなの?」
「断られたら断られたでいいんじゃないですか? 減るもんでもないし」
「山本ヒナに頭を下げるのはプライドがゴリゴリ削れるんだよ……。断られると分かりきってるのに頼むのは嫌だよ」
「はあ……。とりあえず電話してきますね」
「……藤堂くんが一緒にいたいだけなんじゃないの?」
不満そうにこぼす会長を他所に、俺はスマホを取り出してヒナ先輩に電話をかける。
数コールのあと、電話越しにパタパタという足音や『山本ー、そんなに慌てて彼氏かー?』と囃す声が聞こえて、それからヒナ先輩の声が聞こえてくる。
『や、やほやほー』
いつもの言葉だけど、少し照れた様子なのは先程までの会話のせいだろうか。
電話越しで見えないはずなのだが、紅に染められたヒナ先輩の白い頬が見えてしまうようだ。
「すみません。歓迎会のときに」
『いやいいよ、全然。みんなでお菓子食べながらおしゃべりしてるだけだからさ。それでどうしたの? ……用事なくてもいいけど』
最後の言葉は少し声が揺れていて、言いながら照れているのが伝わってくる。
「次は用事なしにかけようと思います。けど、今回はちょっと生徒会のことで」
『生徒会?』
「いや、生徒会というのも変か。あー、なんというか、会長の個人的な話なんですけど」
『うええー、やだよー。トウリくんの頼みでもさ』
思ったよりもお互い嫌いあってるな……と思いながら、会長の嫌そうな顔を見る。
「会長、実は好きな女の子がいまして」
「藤堂くん!?」
『へ? ……何の話? …………ちょっと面白そうだから聞かせて』
「そのために好成績が取りたくて、その手伝いを頼めないかなぁと」
『なになに、すごく面白そう。わー、気になる気になる』
「歓迎会が終わってからでいいんで生徒会室来てくれません? 盛大にからかってもいいんで」
『うん、分かった! もうそろそろ終わるから待ってて。終わったらいくね』
電話を切りながら会長を見ると、会長は俺を見て『うががががが』と唸っていた。
「う、裏切りを。相棒から裏切りを受けた」
「目的が結婚なんですから遅かれ早かれバレるでしょ。ヒナ先輩は結構そういうの好きそうなタイプなので、説得には恋バナが最適です」
「うがー……」
「会長がいつもかいてる恥が増えるだけじゃないですか」
「君さぁ、僕に対してあたりキツくない?」
「会長に対して優しいの、高木先輩だけでは?」
「…………。分かった、藤堂くんがそのつもりならこっちにも考えがあるから」
机の上に頭を置きながら拗ねているイケメンを無視して、スキルの中に入れていた本を取り出して読んでいると、トントンと扉がノックされる。
「トウリくんいる?」
「ああ、いますよ。いま開けますね」
特に鍵は締めていないけど扉を開けに向かう。
ワクワクと目を輝かせたヒナ先輩は、俺の顔を見て少し照れた後にニヤニヤとした笑みを浮かべて会長の方を見る。
「……なんだよ」
「ニヤニヤ」
「藤堂くん、この女、口で『ニヤニヤ』って言ってくるんだけど! ウザい!」
「ニヤニヤ」
「まぁまぁ会長、こっちが頼む側なんですから。ヒナ先輩ってコーヒー飲めます?」
「ニヤニヤ。あ、淹れてくれるの? ありがとー」
コーヒーを淹れていると、会長は不機嫌そうにヒナ先輩に言う。
「そんなに人の恋愛ごとが好きなのか」
「違うよ。私は興味本意ではなくてね、本心から恋を応援して守っていきたいと思っているんだ。探索者になるかラブ・ガーディアンになるかで迷っていたほどにね」
「血迷いすぎだよ」
コーヒーカップを皿の上に乗せて、スプーンとミルクと砂糖を添えてヒナ先輩の前に置く。
「お茶菓子もどうぞ」
「僕と対応違いすぎない?」
「いや、今のヒナ先輩はお客さんですし」
「……」
会長の恨みを籠った目が俺を見る。
「あー、山本ヒナは人の恋の話が好きなんだよね。僕もひとつ知っていてさー! そこの藤堂くんが生徒会に入ったのは山本ヒナって女子生徒の助けになるためらしいよ!」
「ちょっ、会長……!」
「ははは! 死なば諸共だよ! 藤堂くん、生徒会でもずっとヒナ先輩ヒナ先輩とうるさいし、よっぽど好きなんだろうね」
「本人に言うのは流石にライン越えだろ……! いや、違いますからね、世話になってる人に恩返しをしたいというアレで」
「はっはっはー!」
俺と会長がわちゃわちゃと揉み合っていると、楽しそうにしていたヒナ先輩は固まって俺の方を見ていた。
「あぅ……あうぅ……」
と、顔を真っ赤にして俯いている。
大ダメージである。会長も俺も、ついでにヒナ先輩まで心に傷を負った。
「よ、よくないよ。生徒会長。そういうの、揶揄うのは」
「そうだそうだ」
「いや先に煽ってきたのはそっち……。というか、もしかしてふたりって思ったよりもいい感じなの?」
「ち、ちがうよ。私たちのことはいいから、それよりも生徒会長の話を聞かせてよ」
ヒナ先輩は気を取り直すように自分の頬をぺちぺちと叩いてから会長と俺を見る。
「……えっと、いや……自分で話すのも恥ずかしいんだけど。藤堂くん」
「ああ、はい。まぁ簡単に言いますと、会長は副会長の高木先輩のことが好きで」
「高速で個人名まで出すんだね。君」
「えっ、高木さん!? えー、そうだったんだ。へー、どんなとこ? どこが好きなの?」
ヒナ先輩は高木先輩とも同じクラスで知己だからか、より一層にテンションを上げる。
「後悔がすごい」
「教えてよー」
「……普通に、一緒にいて安心出来るからだよ」
「えー、うそー、恋なんてしちゃったら、一緒にいてドキドキだよ」
「藤堂くん、ほら、山本ヒナはこういうウザいやつなんだよ。どう思う」
「はしゃいでいて可愛いな、と」
「おかしいよ、君」
おかしくはないだろ。
ヒナ先輩に会長の上を目指す理由を伝えると、先輩はしきりに頷いて『なるほどなるほど』と相槌を打つ。
「つまり生徒会長は、高木さんとイチャイチャラブラブになるために頑張っている……と」
「それは語弊があるよ。別に、彼女が幸せなら僕である必要はないんだ。あくまでも彼女の幸せのためであり……」
「よし、この話を『ラブラブ大作戦』と呼ぼう」
「話きいて?」
「ラブ・ガーディアンとして協力させてもらうよ。生徒会長のことは苦手だけど、生の恋バナには代え難いからね」
「進路、探索者やめてラブ・ガーディアンに絞ったんだ。悪いことは言わないから考え直した方がいいよ。そもそもラブ・ガーディアンってなに」
「恋を守り育て、そして実った恋を摂取する存在だよ」
「農家さんじゃん」
こうして他のギルドとの兼ね合いがあるため限定的にしか協力を得られないものの、強力な前衛を手に入れた。
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