第33話:オークの英雄
鷺谷もやってきてフルメンバーとなり、ダンジョンの探索を開始する。
道中で何度か配置を変えつつ、最終的にコウモリを先頭にその隣に補助として俺が入り、少し後ろに対応力の高い黒路、中央に要である高木先輩、そして出来ることの多い会長はその後ろ、最後尾は戦闘能力と機動力の高い鷺谷が支える。
少し近接系スキルが足りないが、おそらく今回の探索では黒路の毒が活躍するだろうからなんとかなるだろう。
件の穴までやってきたところでコウモリが足を止める。
「……道具を使って掘った跡があるな。たぶん向こう側からだ。オークが掘ったというのもあながち嘘でもないか」
「疑ってたのか?」
「勘違いしてると思っていた。そんな行動は確認されたことがないしな。ユニーク個体……か」
コウモリは何度か頷いてから穴の中に入り、それから鷺谷を前に立たせて先行させる。
穴の向こう側からやってくるオークを鷺谷が一蹴しながら進むと、それなりの長い距離の末に、開けた場所に出る。
「……森。いや、川の流れの音があるな。山みたいなダンジョンだな」
ダンジョンの地形は荒唐無稽なものだが……地下のはずなのに空に太陽が見えるのはどういうことなのだろうか。
「地上への道は分かりやすいな。山だし、登れば一発だろう」
「そんな単純なもんなのか?」
「オークがのさばる程度のダンジョンなら、そんな複雑な作りにはならないはず。モンスターのレベルとダンジョンのややこしさはそれなりに比例するんだよ」
と、語りながらもコウモリは厄介そうに眉を顰める。
「どうしたんだ?」
「太陽もどきが傾いてる。たぶん、ずっと照りっぱなしなんじゃなくて時間に合わせて動いたり消えたらするタイプだ。夜は探索時間が限られるし、固定タイプよりも方角が分かりにくくなってやりにくい」
こういうところはベテランだなと感心していると、コウモリは俺に尋ねる。
「そのユニークのオーク、何が目的で穴を掘ったと思う」
「……さあ。モンスターだし、人を襲いに?」
「かもしれないが、こんなに長い道を掘るのはおかしいだろ。この方角に他のダンジョンがあるとも限らないし、ダンジョンの位置を確かめる術なんてなかったはずだ」
「人が掘ったとか?」
「可能性はある。悪意ある誰かが学校の近くに未知のダンジョンを発見したとかでな。けど、スキルじゃなく道具で掘っていそうなんだよな。嫌がらせにそこまで手間をかけるか?」
確かに誰がやっていたとしても謎の行動だ。
俺たちが頭を悩ませていると、高木先輩がポツンと口にする。
「……避難、とか? あ、いや、なんでもないです。適当に言っただけで」
「……いや、ありえなくはない。オークも場合によっては逃げるし、学校のダンジョンの存在を知らなくても避難するための横穴を掘って広げていたらたまたまぶつかったとかもあり得る。……まぁユニークの特異な行動ありきだが」
……仲間のために動く妙なオーク……か。そんな英雄みたいなモンスターが本当にいるのだろうか。
と、考えてから【血吠え】のことを思い出す。
モンスターに意思を感じたことはない。
獣というよりか、どこか機械的で。……『生き物』を感じたのはあのオークだけだ。
「藤堂、ぼさっとするな。さっさと行くぞ」
「……ああ。探索の目標は?」
「ユニーク個体の排除。ついでに本来の入り口の発見ってところだな。ユニーク個体はお前しか見てないんだからしっかりやれよ」
「追い出そうとしたくせに……。っと、オーク……は、相手にもならないか」
黒路のスキルだろう。
近づいてきたオークの動きがひとりでに止まり、パタリと倒れて光の粒となる。
「おー、ババアのスキルは活躍しそうだな。オークが多そうだし……」
とコウモリが言っていると、地響きが聞こえてきたと思ったら、木々の向こうから幹をへし折りながら何かがこちらに突進してくる。
巨大なツノと分厚い黒い身体。
大きさこそ化け物じみてるが、これは……。
「デカいカブトムシだ……」
高木先輩の声。
確かに他に形容のしようがないぐらいデカいカブトムシである。……こんなモンスターいるんだ。
という思いと共に前に出て銃を撃つが、金属音と共に呆気なく弾かれる。
「ウッソだろ!?」
ミンさんから「銃は通用しなくなる」と聞いていたが、こんな一切ダメージが入らなくなるレベルだとは思っていなかった。
スキルの扉を斜めに出して突進を逸らしながら、カブトムシの関節に槍を突き出して脚の一本を斬り落とす。
「関節なら通じる!」
俺の言葉と共に鷺谷が真正面からぶつかっていく。……く、人の話をあまり聞かないタイプ……!
正面から抑え込めてはいるが、倒すことは出来ない様子だ。
黒路のスキルは役に立たないし、会長と高木先輩も微妙。
このパーティは重装甲の敵には相性が悪いということを改めて実感しながら、関節に弾丸を撃ち込んで槍で引きちぎって脚を捥ぐ。
「会長! 木を!」
「ああ、任せて」
カブトムシの地面に会長の銃弾が突き刺さり、その直後に地面から文字の木が伸びて、脚の欠けたカブトムシをひっくり返す。
そのひっくり返ったカブトムシの上にコウモリが飛び乗って、胸と頭の間の関節に短剣を突き入れる。
しばらくもがいた後に光の粒となって消える。
「ふぅ……怪我人は……いないな。急に強いモンスターが出てきたな」
「オークはこれから逃げてきたのかな? いや、違う気がするね。高木くんはどう思う?」「……口が肉食に見えないので、違うかなと」
「だね。まぁ、突然無から発生するモンスターの生態系なんてめちゃくちゃと相場で決まってるけど」
「オークが洞穴を掘って逃げようとしていたパターンなら……あの洞穴に入れず、尚且つ、オークにとって脅威になるぐらいよく食う捕食者ってことだろ? ……相当デカそうだな」
おおよそ、オークが牛の半分ぐらいの大きさとして、
可食部……食う気はしないが、可食部は70kgぐらいだろうか。
肉のみを食うとしても人間なら一食300gもあれば十分なので、雑に一日1kgとして人間なら70日分……。それを大量に食うモンスターがいるのだろうか。
「コウモリはどう考える?」
「……カブトムシって夜行性だよな?」
「そうだね。でも完全な夜行性ではなくて、天敵がいなかったり、利用する植物によっては昼に活動することもあるよ。もっとも、モンスターにどこまで知識が通じるかは分からないけど」
コウモリは考え込む。
「天敵がいないと昼にも活動する。というのは、逆もあるのか? 夜に捕食者がいれば、夜を避けるとか」
「んー、聞いたことはないけどあり得なくはないかな。やっぱり夜型が基本ではあるから、そう簡単にとはいかないだろうけど」
コウモリは会長の言葉を聞いて、再び考え込む。
「……マトモにそこらへんの樹液をすすれるようなデカさじゃなかったよな。ダンジョンにある特別デカい木から餌を得ているのだとすると、そういう木がないここら辺にいるのは不自然だよな」
「まぁ、モンスターだからそこのところは普通の生き物とは違うかもしれないけど。そもそも普通の昆虫があんな大きさなら自重で潰れるだろうし」
「……そりゃそうなんだけど。……もしかしてなんだが」
コウモリが何を言おうとしているのかが分かり、俺も思わず顔を引き攣らせる。
「さっきのデカいカブトムシも、何かから逃げて動いてるんじゃないか?」
「……あくまでも可能性の話として、それが事実だとして、今まで見た情報の中で該当しそうなモンスターって何がいる?」
俺が尋ねると、コウモリは表情を引き攣らせながら言う。
「……ドラゴン、とかかな」
コウモリのその言葉のあと、遠くに何かが降り立った地響きがした。
誰も何も言わず、それの存在を確信する。
ドラゴンがいる。
探索者の誰もが恐れる絶対者が、このダンジョンには。
幸いなのは……対応するべきなのは、そのドラゴンそのものではなく、それから逃げようとしているユニーク個体のオークだということだろう。
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