第23話:保護者からの同衾の許可
寝具……俺はせいぜい毛布と布団ぐらいの物のつもりだったが、会長はガッツリといい値段のするベッドに加えてマットレスやら羽毛布団やらも購入し、それどころかソファや机や絨毯や棚などまで買ってスキルの中に運び込む。
「現在の藤堂くんのスキルは404〜406号の三部屋で、一つにつき二室あるから六室……とは言っても、出入り口に使う場所に物は起きたくないから残り五室。出入り口の部屋に近い部屋に武器とかを置くのに一室。会議室に一室……となると、男女で寝室を分けることを考えると保存食などを置けるのは一室だけかな。たくさん置ければそれだけ安全になるんだけど」
大真面目にそんな空間の無駄遣いとしか思えないことを言う会長を見て俺はため息を吐く。
「三人しかいないのに会議室なんてわざわざいらないでしょう。寝室にもダンボールぐらいおけますし」
と、俺が言うと、高木先輩もそれに同意する。
「そうですよ。それにそもそも泊まり込みの探索中なんて雑魚寝が基本なんですから寝室を分ける意味もありません」
「いや先輩、寝室は分けたほうが……」
「……そうやって二人きりになった瞬間に仲を深める作戦……?」
なんで俺が高木先輩の恋敵みたいな扱いを受けているんだ……?
「……あー、逆にね、逆に、俺が一人で会長と高木先輩で一緒の寝室というのはどうですか?」
「えっ、えっ? なんで? 普通男女別じゃない?」
……いや、まぁそれはそうなんだけど……男女別だと俺が高木先輩に恨まれそうだし、三人同室でこの二人がなんかアレな空気を醸しだしたらめちゃくちゃ気まずいし……。
「それはとてもいいアイデアですね。藤堂くん。私はそれに賛成します」
なんか英語の直訳みたいな感じで同意された。
「まぁこちらが過半数ということで。それよりも、買い出しを続けましょう」
さっさとスキルの中に買ったものを詰め込んでいき、次は日用品や保存食を……となった辺りで、スマホが鳴って知らない番号が表示される。
「あ、失礼。ちょっと何か電話が」
その電話を取ってみると、昨日の一夜で聞き慣れた声がスマホから聞こえてくる。
『……もしもし』
「あ、どうも、川瀬先輩。ヒナ先輩から電話番号聞いたんですか?」
『……ごめんね』
「ああ、いえ、どうしたんですか? 急ぎの用でもあったんですか?」
『えっと、お話、楽しかったから』
ああ、そういうことか。
なんやかんや、泊まってしまったことに引け目があったが川瀬先輩がそんなに気にせず楽しんでいたなら気にしなくてもいいか。
『それでね、今日はどうかな、って』
「あー、いや、生徒会に入ってそのことでちょっと寮に帰れないんですよ。なんで……まぁ、来週……ぐらいにたぶん。すみません」
『ぁ……そうなんだ。……頑張ってね、生徒会』
「ありがとうございます。……すみません」
『ううん。えっと、来週、また夜、たくさん話そうね』
……また泊まって話すのか。
いや、俺はもちろん別に嫌ではないんだけど、年頃の男女がしていい距離感とは違うのでは……。
でも、なんか川瀬先輩って友達も少なそうだし拒否するとめちゃくちゃ傷つけてしまいそう……。今日の誘いは断ってしまったし……。
「……はい。またお邪魔しますね。あ、そう言えば、失くしてた銃見つかりました。ダンジョンで探索者の人が拾ってくれていて」
『! そうなんだ。よかった』
「今度こそ大切にします。とりあえず、整備は生徒会長が銃を使うので知ってると思うんで、会長に聞きます」
『むぅ……私が教えたかった。……あ、ヒナさんが話したがってるから、代わるね」
特に気にした様子もなく川瀬先輩はそう言う。
…………えっ、そこにヒナ先輩いるの? 今の話……俺が川瀬先輩の部屋に泊まったこととか聞かれて……。
『……』
「……」
い、いる。
何も、まだ何も話していないからスマホ越しにいることが分かるはずもないのに、何故かムッとしているヒナ先輩の顔が浮かぶ。
「あ、あー、ヒナ……先輩?」
『こんにちは』
「こ、こんにちは」
『楽しくおしゃべりしたんだってね。よかったね。よかったよ。ミンちゃんはあんまり人付き合いが得意じゃないから、お友達が増えてさ』
「……あ、はい」
『けど、一応さ、異性なわけだから、ちょっと距離が近すぎるのはね?』
「う、うす」
それほどまで怒っていない……というか、本当に川瀬先輩のことを心配しているだけのように思える。
『ミンちゃんはああ見えて子供っぽいところがあるというか……。そういうのにすごく疎いから、トウリくんの方も気をつけてほしいというか』
「……それはまぁ昨日話した感じでなんとなく察してるんですけど。あの感じで頼まれると断れないというか。俺が変なことをしなければそんなに問題ないかと考えてしまいまして」
俺がそう言うと、ヒナ先輩は『むぅ』と考え込む。
どうしたのかと思いながら電話越しに待っていると、小さな声でひとりごとをこぼす。
『確かに、ミンちゃんの方からどうってことはないからトウリくんが変なことしないなら……。いや、でも、そういうの関係なしによくないような気も……。いやいや、でも、ミンちゃんのノーガードさを考えるとむしろトウリくんが近くにいた方が安全な可能性も…………』
しばらく沈黙、そのあと、ヒナ先輩が真剣な声で話す。
『……お泊まりするなら、一報入れること』
ほ、保護者から許可が降りた……。
俺からは拒否しにくい感じだったので、むしろヒナ先輩からダメと言ってほしかった。
『その代わり、ミンちゃんに変な虫がつかないようにトウリくんも警戒すること、いいね』
っ……俺自身が変な虫だろ……!
というツッコミを堪えて、電話越しだからあちらに見えないことも忘れて軽く頭を下げる。
「ああ、はい。すみません。気を付けときます」
『それと……生徒会の人にイジメられてない? 平気?』
イジメ……という言葉を聞き、一度高木先輩のことを思い出す。
「……ヒナ先輩が心配するようなことは何もないですよ。ありがとうございます」
せいぜい、御影堂会長を巡る三角関係に知らないうちに巻き込まれただけである。
『そっか。何かあったら相談してね。またミンちゃんに代わるね』
「あ、ヒナ先輩」
代わろうとしたヒナ先輩を引き止めると、ヒナ先輩は『んー?』と俺に尋ねる。
「ヒナ先輩も、何かあったら相談してください。力になるので」
俺のその言葉を聞いて、ヒナ先輩はスマホ越しに嬉しそうな声を出す。
『トウリくんは男の子だなぁ。うん、相談する』
『男の子だ』というのはどういう意味なのだろうか、それを問うより前に、通話相手が川瀬先輩に切り替わる。
『んー? ヒナさん、何の心配してるんだろ』
「あ、本当にそういうの分からない感じなんすね」
『あっ、また電話していい?』
「大丈夫ですけど、しばらく生徒会の合宿でダンジョンに籠るのでたぶん圏外です。すみません」
『そっか……せっかく仲良しになったのに、残念』
……あー、この感じなの、ヒナ先輩が保護者みたいになるのも分かる気がする。
なんというか、人見知りなのに気を許すのが早くて警戒心が薄くなる甘えん坊という……そりゃうん、大丈夫かと思ってしまう。
別れの挨拶だけしてスマホをポケットに戻すと、今の短い間に色々と買い込んで来たらしく、御影堂会長が段ボールを抱えてやってくる。
「買い占めるのは申し訳ないから、迷惑にならない範囲で色々買ってきたよ。また別の店にも行こう」
「ああ、はい。……なんかお菓子多くないですか?」
「ふふ、会長ってこう見えて甘いものが好きなんですよ。かわいいですよね」
かわいくはないだろ。
道すがらいくつかの店で買い物をしてから、件の迷宮に辿り着く。
「よし、じゃあ早速合わせていこうか。派手にかましていこう」
「ああ」
「はい」
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