第22話:作戦会議
「僕たちのスキルはそれぞれ『サモナー』『ヒーラー』『ポーター』のハイエンドってところだ。スキルの性質だけで言えば世界有数だろうね」
御影堂会長の言葉に高木先輩が同意する。
「そうですね。戦略の組み立てはスキルを中心に考えた方がいいでしょうね。藤堂くんのスキルはまだ見たことがないですが」
「ああ、お互いに紹介はした方がいいだろうね」
会長の視線が俺へと向かう。
俺は頷いてスキルを発動する。
俺の出した扉を見て、高木先輩は驚いた表情を浮かべる。
「……聞いていた通りですね。入ってみても?」
「ああ、どうぞ。多少汚れてるだろうけど」
俺が扉を開けると昨日俺が倒れて這いずり回った跡があり、それを見て高木先輩は眉を顰める。
「血の汚れが酷いですね」
「後で掃除しときます。基本的にただのマンションと思ってくれたら。間取りは1LDKですね」
「中はこんな感じなんだ。そこのダンボールは?」
「保存食や武器の換えやウェットティッシュとかの日用品です」
「へー、住もうと思えば住めるというか、うちの寮の部屋よりも広いね」
血を気にした様子もなく中に入る会長に続いて中に入ると「ガチャリ」と鍵の開く音が聞こえる。
「あれ」
「どうしたんですか? 藤堂くん」
「ああ、いや……。前にスキルが成長した時と同じ音が聞こえて」
廊下に出て周りを見る。
一見すると何も変わっていないように思えたが……近くの扉のノブを握るとそこが開いた。
なんとなくもうひとつ隣の扉も同じようにするとそちらも開く。自分のスキルだからか、なんとなく出来ることと出来ないことが分かるな……。
「おー、他の部屋もあるんだ。間取りは同じかな」
「今成長したんでまだ確認してないですけど、たぶん同じかと」
それにしても……スキルの成長、妙なタイミングだな。
それなりの強敵である通常のオークを何体も倒した後ではなく、【血吠え】に負けてから……。
まぁ帰り道にボロボロになりながらゴブリンとかを倒したからその分だろうか。
だとしても二部屋同時に成長というのは少し妙に感じる。
……他に何か条件でもあるのだろうか。
「ふむ……内装は特になし。と、このスキル、どのタイミングで魔力を消費するんだい?」
「会長との戦いのときみたいに中が壊れたり、水道とか電気を使うとですね」
「維持とか扉を出したりとかのときは?」
「特には。少なくとも自分では感じられない程度ですね」
「…………。異常に効率がいいね。空間系スキル自体珍しいからそんなものなのかもしれないけど」
「御影堂会長のスキルはどんな感じなんですか?」
ヒナ先輩曰く「単独なら自分よりも強い」らしいそのスキルを尋ねると、会長は胸ポケットにあったメモ帳を取り出す。
開いた手帳から、この前と同じ文字の大蛇がにょろりと顔を出す。
「サモナーのスキルの強弱は汎用性と魔力効率に依る。その点において、僕のスキルは誰よりも優れている自負がある。一度インクを出して書けば保存しておけるから探索中に魔力を消費する必要はないし、出せる生物も知識頼りではあるけど多岐に渡る」
会長の手帳からは多くの小型の動物が顔を出し、会長の「お戻り」という言葉と共に手帳に帰っていく。
「普通の使い方だと一番強いのでも虎とかだけど、数が出せるし使い捨てに出来る。斥候と使い捨ての近接要因を大量に使えるのが僕の強みだ」
「最大兵力は?」
「大型が十体、中型が三十体、小型が五十体というところかな。本にするにしても重いから普段はそんなに連れていけないけど、君のスキルとは相性がいいね」
会長は頷きながら「やはり運命の相棒……」と言うが、たぶん俺のスキルは大抵のやつと相性がいい。
「会長はスキルも強力ですが、それ以上にあらゆる技能が卓越しています」
「卓越というほどでもないよ。専門のスキル持ちには敵わないしね。基本、パーティ戦ではスキルに加えて後方での指示と銃撃によるサポートそれに後衛の護衛という感じかな。前衛が崩れそうなら前にも出るけど」
「……役割多いですね」
「ふふ、会長はすごいのです。すごくすごいのです」
まるで自分のことのように鼻高くして話す高木先輩を見ると、会長が困ったような表情で続けて高木先輩の説明をする。
「高木くん。高木ツツのスキルは分かりやすく『治療』の力だ。本当にそれだけなんだが、存外それが素晴らしい。君もなんだかんだスキルを知っていると思うが、スキルというのは変な制限がついていたり使用に手間や条件があったりする。だが、治療系スキルで変な条件があるといざというときに困るだろう」
「ああ、まぁ、安定性がほしいですね。回復には」
「そんな……私なんて会長に比べたら凡俗もいいところです」
高木先輩はそうは言いながらも照れながら喜んでいる。
「スキルによる治療はもちろん。あまりやらせたくはないが、前衛が崩れたときは自らを治療しながら前衛に立つことも多い」
「さっきからずっと前衛崩れてません?」
それはともかくとして、本当に三人ともサポート特化のスキルだ。
新規ダンジョンに挑む条件のダンジョン攻略の方はまだしも、現役の探索者との模擬戦は少し厳しいものがあるのではないだろうか。
ダンジョンに共に潜れるのは六人……。
俺たちの面倒を見る現役の探索者もおそらく三人となるだろうし、サポート特化の俺たちと組むならバリバリの武闘派だろう。
……格上の武闘派相手にサポート三人組で挑むのはかなり厳しいというか。
意図的に無理難題を突きつけて、身の程知らずの学生を黙らせるつもりなのではないだろうか。
俺の考えを察したのか、御影堂会長は俺を見て悪ガキのような笑みを浮かべる。
俺の予想に対して「それぐらい想定済みだよ」とでも言いたげな笑い方。
「不安かい?」
「……まぁ、そうですね。世話になる現役の探索者の方のプライドをへし折ることになるのは少し申し訳ないので」
「はっはっは、よく言ったね。それでこそ僕の右腕だ!」
楽しそうに笑う御影堂会長は、高木先輩が自分の方をただひたすらジッと見つめていることに気がついて冷や汗を流す。
「も、もちろん、高木くんも僕の右腕さ! ふたりとも右腕だよ!」
「異形の怪物だ……。これからどうするんですか?」
「ん、そうだね。……行こうか、ダンジョンに」
「今は封鎖中で、生徒会とは言えど自由には入れないのでは? 現役の探索者すら厳しい状態ですし」
「いやいや、あるでしょ。ダンジョンは、この学校に限らず」
ああ、なるほど。
すでに高木先輩とは話し終えていたのか、高木先輩は会長の言葉を引き継いで話す。
「これより私達はこの学校を離れて。近隣のダンジョン『仮層地下鉄道』へと向かいます。名目上は生徒会での合宿ということになります」
「まぁ、探索を始める前に君のスキルを十全に使えるようにしておこう。とりあえず、三人分の寝具と保存食や日用品、弾薬と……ああ、そうだトランプでも買おうかな」
……余裕だな。
「金はないですよ。あ、あと、土日のどちらかは外せない用事があります」
「ああそうなんだ。じゃあ日曜日は休憩かな。月曜日に備えたいし。お金は僕が出すから気にしなくていい」
金を気にしなくていいのは助かる……。
川瀬先輩も高い銃をたくさん持っていたし、やはり探索者というのはそれなり以上に儲かるのだろう。
「じゃあ行こうか。買い物から始めよう」
そう言って出ていく会長に続いて外に出る。……よし、やるか。
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