第24話:生徒会のダンジョン探索
『仮層地下鉄道』
そのダンジョンは学校にあるベーシックな洞窟型のダンジョンに比べて……気が抜けてしまいそうになるほど見覚えのある光景に似ていた。
名前の通り地下鉄のような構造をしていて、改札のようなものはあるし、道は歩きやすい。
エレベーターやエスカレーターもあり……適当に写真を撮れば、ダンジョンであると気づける人は多くないだろう。
だが、まぁ内部構造はめちゃくちゃだ。改札の内側に改札があったり、エスカレーターの先に何もなかったり、エレベーターから黒いゴブリンが出てきたり……と。
一番気になるのは度々聞こえてくる……というか振動により響いてくる電車の音だ。
「どうしたんだい? 怖気付くなんてらしくない」
俺を囃すように言う会長に、俺は前でゴブリンと戦っている高木先輩の方を見て言い返す。
「そりゃ怖気づくでしょ。アレを見たら」
ゴツイメイスでゴブリンの頭部を吹っ飛ばし、続いてやってきたハイエナに似た黒いモンスターを脚で止めて、メイスの振り下ろしで粉砕している高木先輩がそこにいた。
「……ま、まぁ、彼女はほら、怒らせないとそんなに怖くないからさ」
「それは怒らせたらめちゃくちゃ怖いと白状しているようなものでは……」
と、俺が言うと、天井からトカゲのようなモンスターが高木先輩を狙う。
瞬時に俺はそのモンスターを撃とうとし、会長の手で止められる。
代わりのように撃った会長の銃弾はトカゲのモンスターに当たるも、倒すまでは至らない。
やはり俺も……という考えは、次の会長の一手により止められる。
「おいで、エリーゼ」
その言葉と共にトカゲの肉の中に入り込んだ銃弾から、文字の大蛇が這い出してトカゲを締め上げる。
「五月蝿い弾を何発も撃つのはスマートじゃないだろう?」
「サイレンサー付きの弱装弾……ですか」
多少音は響くが、俺が川瀬先輩からもらった拳銃よりも遥かに静かだ。
その分威力は低いようだがスキルとの組み合わせ、弾頭にスキルにより出せる蛇を載せることで低威力を解決している。
会長の元に蛇が戻ったかと思うと、蛇は拳銃の筒の中に入っていく。
「会長! ありがとうございます!」
「いや高木くんには必要のない援護だったよ。けど、君のことになると少し心配性になってしまってね」
「か、会長……」
バーサーカーもかくもという様子だった高木先輩は、一転して恋する乙女の表情で会長を見つめる。
……会長さあ、そういう無意味にカッコつける癖はやめといた方がいいぞ。
次のモンスターが現れたので今度は前衛を俺に変えての戦闘である。
槍を手に持ち、拳銃をベルトに引っ掛けて前に出る。
狙うのは硬い頭部ではなく首筋や腹、あるいは動くための足。無力化を優先して立ち回る。
複数のモンスターが同時に近づいてきたら手早く銃で片方を処理してもう一体を槍で突き殺す。
「ほー、安定感が抜群だ。出る幕がない」
天井からやってきたトカゲの脚を落として、落ちてきたところを槍で突く。
「まぁ、俺の戦い方はこんな感じです。基本的に相手よりも遠くから正確に仕留めるというやり方で」
「じゃあ最後は僕の番かな」
しばらく進んだところで今度は会長が前衛を務める。
手に持った武器は銃のまま……どうするのかと思っていると、寄ってきたモンスターを銃で撃ち、仕留めきれなかったやつは蹴って殴って体勢を崩して弾丸により仕留める。
格闘技と銃撃を合わせたような独特な動き。
蹴り上げたモンスターが空中にいる間に銃で撃ち抜く。
くるくると銃を回してホルスターに戻す。
「これに加えてスキルを使うのが僕の前衛でのスタイルだ」
「か、かっこいい。会長かっこいい……」
「洗練された無駄のない無駄な動きが多い」
「ふふ、ふたりとも褒めないでくれたまえ」
俺の方はあまり褒めてない。
空中に蹴り飛ばして撃つというのは、まぁかっこいいけど別に実用的ではないだろう。
でも後で練習しようと考えながら周りを見回して会長の方に行く。
「一応、全員前衛いけますね。後衛は……高木先輩だけは銃を持ってないですけど」
「んー、前衛後衛を固定してもいいけど、全員ある程度動けるからもっと面白いこと出来そうだね」
「面白いこと?」
会長は頷く。
「ああ、いい考えがある」
◇◆◇◆◇◆◇
「2A!」
会長の声と共に俺と高木先輩が前に出て二人でモンスターを抑えて、会長の撃った弾丸から虎が出てきて側面からモンスターを強襲する。
ダンジョンを進み、複数体のそれなりの強さのモンスターが現れるが危うげなく倒す。
「前方強力な一個体確認、1A!」
高木先輩が下がり、俺がもう一歩前に出てサイクロプスと呼ばれる単眼の巨人のモンスターと接敵する。
スキルの扉を盾にしながら槍を構えるという形で盾役をこなし、攻撃は会長とそのスキルによる獣に任せる。
棍棒を扉で受けつつ、牽制として槍で嫌がらせをしているうちに会長の手によりサイクロプスが転かされる。
「0!」
俺は後ろに下がりつつ槍を片手に持って、片手でベルトから銃を取り出して倒れたサイクロプスに銃撃を加えて、会長のスキルの獣と銃撃による一斉攻撃で巨人のモンスターを討伐する。
「……うん、いいね。悪くない」
会長の提案はシンプルに「前衛後衛を固定せずに動こう」である。
数字は前衛の数、アルファベッドは誰が出るかを示している。
会長は特に視界が広く指示が的確……というか、俺が割と一人で何でもしてしまおうとする悪癖があることと高木先輩も会長に遠慮して指示を出しにくいという理由から、基本的に会長が後衛で指揮を取り、俺と高木先輩がそれに従って前衛と後衛を切り替えながら戦い、場合によっては全員で前に出て一斉攻撃や後ろに下がって銃撃したりなどで一気に仕留めるという形だ。
「なかなか形になってきたね。うーん、そろそろ指示がなくても自己判断でいい感じに動けるかな」
「どうでしょ。前にいるとあんまり全体が分からなかったりするんですよね。指示を受けてから動くのよりかは判断も早くなるとは思いますが。高木先輩はどう思います? あと、単に俺が連携下手です」
「私はそれよりも陣形の形を増やしたいです。今は前衛に誰が行くか程度の話ですが、散って戦うとか、攻撃重視や防御重視とか、撤退を視野に入れるとか」
会長は腕を組んでから周りを見回して俺を見る。
「それなりに戦ったしいい時間だ。今日は休憩しようか」
「ああ、じゃあスキル使いますね」
俺がスキルを発動して、三人で中に入ってから扉を閉じる。
俺は一人、装備を緩めてくつろぐが、ふたりはまだ少し緊張感を残した様子で武装を解除していく。
「もう八時半か。ちょっと興が乗りすぎたね」
「身体拭いて飯にしましょう。あ、魔力も増えたんで長湯じゃなければ一人までならシャワーもいけると思いますよ」
「そうだね。じゃあ高木くんが使うといい。終わったら403号室の会議室で食事をしながら作戦会議と行こう」
部屋から出て、ウェットティッシュで体の汗と汚れを拭いて新しいジャージに袖を通す。
会長が適当に高いものから買っただけあって着心地がいい。
会議室に入るとまだ二人がきていなかった。まぁ、高木先輩は女性だし、会長は見栄っ張りなので時間がかかるのだろう。
たくさん買った保存食から美味そうなものを選んで机の上に置き、ミネラルウォーターを開けて口に含む。
ぬるいのが残念だが、冷蔵庫の電力も魔力頼りだからなぁ。しばらくは難しいかもしれない。
電波の届かないなかスマホを手にとって、佐倉からきていたメッセージを再び読み返す。
毎日数回のやりとりだけなのですぐにやりとりを見終えて、机の上に置いて欠伸をする。
「……あー、謝らないとなぁ。無理してること」
心配をかけているやつは他にもたくさんいるけれど、なんとなく、彼女にだけは特に罪悪感を覚えてしまう。
ぼーっと水を飲みながら過ごしているうちに会長と濡れ髪の高木先輩がやってくる。
「ドライヤーないの忘れてました……。会長の前でこんな、みっともない……」
「バッテリーで動くやつを買っておけばよかったね。申し訳ない」
「いえ……でも、そんなに見ないでいただければ」
「それは残念。せっかくそこで咲く綺麗な花を見ることが出来ないなんてね」
この男、とりあえず言えるタイミングを見つけたら雑にキザなセリフを放言するよな。
「まぁ、それはともかくとして。新生生徒会の……まぁ全員ではないけど、初探索は大成功と言っていいだろう。まずは、お疲れ様、そして乾杯」
会長はミネラルウォーターのペットボトルを持ち上げ、俺と高木先輩はそれに自分のボトルを当てる。
「乾杯です」
あまりに独特なパーティメンバーで、二人とも変わり者だが……。
「乾杯」
そう言って腕をあげるのは悪くない気分だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます