第17話:槍と剣と銃
先輩から弾薬もいくらかもらいはしたが、好き放題に撃てるほどではないし、槍も併用して使っていくつもりなので拳銃は一度片付けて槍を構える。
槍の感触を確かめながら道を歩いていると、初日にヒナ先輩といたときにであった複数体のスライムの合体版が出てくる。
突き刺すと、核の一つを貫けたものの引き抜くときの感触が重い。
存外にただ大きいだけでもやりにくい……と思いながらも連続して突いて仕留めると、今度は陰から二体のゴブリンが出てくる。
スライムの粘液が付着した穂先を見て、即座に腰から銃を引き抜いて片手で発砲し、一体の胴体に命中し、動きを止めたところで襲いかかってきたもう一体のゴブリンを槍で捌く。
……思ったよりか粘液は邪魔にならなかったので槍だけで充分だったが、遠間から一体を銃で仕留めたのはいい判断だったな。
槍を拭ってから魔石を拾い集めていると、またしてもスキル成長時のムズムズとした気配を感じる。
随分と早い……いや、こんなものなのか。
話を聞くに、迷宮に慣れていない状態だと六人で一日中潜って一回経験するぐらいらしいので、その六倍と考えるとおかしくはないのかもしれない。
一度スキルの中で休憩がてら魔石を数えて、少しマシになってからまた迷宮探索に戻る。
地図を見ながら、地図の正確性を確かめるように道のひとつひとつを歩いて潰していき、一度地上に戻る階段を確かめてから、次の地下四階に向かう。
この階から出てくるモンスターの構成にルーツトレントという名前の壁から生えている植物の根っこのようなモンスターが増えるらしい。
土の色によく似ていて少し見えにくく気を抜くと突然襲われるそうだ。
木の根のようなモンスターを相手に槍では効果が薄そうだと考え、オークの持っていた剣に持ち変える。
生憎その根っこトレントに会う前にゴブリンに遭遇し、襲ってきたゴブリンを袈裟に斬り裂く。
……問題なく戦えるが、やはりリーチが狭いのは少し不安だな。
次に現れたゴブリンは切先で牽制するように斬るが、浅く怪我をしたぐらいだと構わず突っ込んでくるため、むしろしっかり斬りにいった方が安全なように感じる。
オークは怪我を避けるような動きを見せていたが……人を襲うモンスターでも行動の選択が変化するかもしれない。
種族ごとに違うのか、それとも案外個体差があるのか……。
今は考察しても仕方ない。無理にドンドンダンジョンを進んでいくのではなく、着実に進んでいけばそのうち経験で分かるようになるだろう。
しばらく四階を歩き回り、そろそろ昼食を取ろうと考えた辺りで、人の叫び声が聞こえてくる。
他の生徒……しかも声からして、何かしらのピンチに……!
と考えて急いで声の方へと向かうと、オークに四人の男女が行き止まりに追い詰められていた。
「……ちっ、面倒だな」
一度倒したことがある相手、しかも今は銃があるが……オークの向こうに四人の生徒がいる。
外せば当たる可能性もある。
万が一を考えれば銃は使えない。技量で相手をする……には、少しオークが戦いで興奮しきっている様子で妙な暴れ方をして事故で怪我をする可能性が高そうだ。
倒せる相手ではあるが、厄介な状況だ。
追い詰められていた四人に助力を頼みたいが、どうやら心が折れたかのように見える。
「……泣き言をいっても仕方ない。やるしかない、か」
距離はあるので槍を取り出すことは可能だが、その間にオークが弱っている四人を襲う可能性がある。
そうなると剣で戦うべきか……いや、剣なら片手で振れなくはない。
銃はちゃんとしたホルスターではなくベルトに引っ掛けて無理矢理固定しているだけなので咄嗟に引き抜くのは難しい。
銃を先に抜いて、片手に剣、片手に銃という形を取る。
初めてとる形だが、割としっくりと手に納まるのを感じる。
悪くない。……いや、それなりに良い。
オークと相対する。
オークはあの四人との戦闘で幾らかの手傷を負っているが、動きを阻害するほどのものではないだろう。
むしろ怪我でアドレナリンやドーパミンでも分泌しているのかこちらへの好戦的な様子が強い。
近づき、オークの振り下ろす剣を剣で受け流す。
そもそもの膂力で劣っているのに加えて片手持ち、真っ向からは無理だが、こちらの体勢が崩れる覚悟ならば逸らすことぐらいは出来る。
崩れた体勢を無理に立て直さず、転がる方向を決めてそちらに倒れ込みながら、視界の端にオークを捉えて拳銃を向ける。
あの四人にはどうやっても当たらない角度。──タイミングは、今。
転げながら撃った弾丸はオークの腕に当たり、剣先が一瞬ブレる。
その瞬間に両手片足を地面に、もう片足を上方に、全力で伸ばして跳ね飛ぶように上に蹴り上げてオークの腹を撃ち抜く。
銃弾に貫かれ、俺の全力で蹴り上げられたオークの身体は大きくよろめいて倒れる……が、俺と同じように倒れる向きだけは体をひねって操作する。
俺を踏み潰そうとするそれを見て、俺とオークの間に手を伸ばし、虚空を掴む。
突如として発生した扉にオークの身体がぶつかり停止する。俺は剣を拾いあげて、その扉の横からオークの首に深く突き刺す。
それでももがくオークから距離を取り、拳銃でトドメを刺す。
「……平気か?」
大きな怪我は……なさそうだ。たぶんあって骨折ぐらいのものだろう。
装備の真新しさを見るに俺と同じ一年かと思っていると、その中の女子生徒は安堵と共に嫌悪を滲ませる表情を俺に向けていた。
「……Fクラスの」
「藤堂だ。……怪我は」
女子生徒は俺の質問に答えずに周りの仲間を睨む。
「っ! 私を守るって言ってたのに何よ! ヘタレて逃げて、挙句こんな底辺のFクラスのやつに助けられて!」
「し、仕方ないだろ!? こんな階層でオークが出るなんて分かるはずが……逃げたのはお前も一緒だろ!」
「っ……酷い、ひどいよ、そんなに大声で責めるなんて」
「は、はあ!? 責めたのはお前の方だろ!?」
……別に助けたお礼を言えとは言わないけど、目の前で揉めるなよ。
自分たちで帰るぐらいは出来そうだしさっさと行くか。
近くに落ちていたオークの魔石を拾い上げると後ろから声がかけられる。
「待った。持っていかないで」
「……何を?」
「それ、私達が怪我させてて弱ってたから倒せたんじゃんか」
「いや……ピンピンしてたろ」
「Fクラスのやつが倒せるわけないじゃん。何言ってんの、泥棒!」
……理不尽な発言だろう。
醜悪なその意見に怒りを感じているが……それと同時に冷静な自分が「お前は金に執着心があるから気をつけるべきだ」と告げてくる。
……6000円。
上手い飯も食えるし、学費や寮費の足しにもなる、他にも色々と必要があるし……そもそも、貯金のない今はなんとしてでも金がほしい。
それにどう考えても俺のものだが……。
……揉めた場合、必要以上に攻撃的になってしまいそうだ。
苛立ちを飲み込んで魔石を投げ渡す。
醜悪な笑みを浮かべた女生徒を見て、深くため息を吐く。
そんな調子だと助けてくれるやつはいなくなるぞ。……と、言ってやらないでいるのは、俺がまだ怒りを飲み込めていないからだろう。
やはり少し、金に対してがめついのかもしれない。……珍しく、苛立った。
背を向けてまた探索を続ける。
気分は悪いが調子はいい。地図に頼らずとも道が分かるようになるぐらいしっかりと探索してから、次の階に進んだ。
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