第2話:臨時パーティ結成!
この学校の校内にはダンジョンがある。
というか、初心者向けダンジョンのある場所に校舎が建てられて寮が用意されたのだ。
初心者向けと言ってもダンジョンはダンジョンで非常に危険な場所だ……が、まぁ、行くだけ行ってみよう。
入学式の前に配られた学校案内の地図を見ながらダンジョンの入り口がある建物に向かう。
校舎から、あるいは寮から続くダンジョンまでの道は、まだ新設されたばかりだというのに他の道に比べて随分とくたびれて見えるのは、その道の往来の多さを伺わせる。
それほどまでの魅力がダンジョンにあるのか、それとも別の何かがあるのか。
その建物の周りには上級生らしき人達がそれなりの数がいて、少し騒がしいように思う。
中に入ってみると受付のような場所と机と椅子が置かれたスペース、それに奥へと続く廊下が見える。
机のあるスペースにはまばらに人が座っていて、談笑したりお菓子を食べたり、武器の手入れや地図を広げて相談している姿が見えた。
ダンジョンの受付と準備の場所と言ったところか。
とりあえず受付に行ってみようかと足を進めたところ、机の方から明るい声が聞こえてくる。
「おーい、おーい、そこの君ー、新入生?」
「えっ、ああ、俺ですか?」
そちらの方を向くと、きゃぴっとした笑顔の長い髪をサイドテールに束ねた女子生徒が俺に手招きをしながら席から立ち上がっていた。
「んー、おいでおいでー」
とまるで子供を呼ぶような声に誘われるがままそちらに行くと、ちょっとした駄菓子をつまんで俺の方に向ける。
「ほら、お食べー」
「はぁ、いただきます。何か用ですか? 部活の勧誘とか」
俺が受け取ろうとするとその先輩らしい人物の手が上がって、俺の口にひょいっとお菓子を入れる。
俺がそのままもぐもぐと食べると、彼女はニコリと笑ってテシテシと机を叩いて席に座るように促す。
「……何の用です?」
俺が座らずに再度尋ねると彼女は仕方なさそうに笑いながらパクりとお菓子を食べる。
「いや、新入生がひとりでダンジョンに突っ込もうとしてたから気になってさ。時々いるんだけど、大怪我とかしがちなんだよね。そういう子。二年前とか酷かったよー。ふともものところがぐしゃーって」
「ああ……心配してくれたんですね」
「そうそう。特にちゃんと鍛えてそうなタイプはね。迷宮って、怖いんだよ?」
女子生徒は周りから隠すように制服のスカートをスッとめくり俺に内ももを見せる。白くて綺麗な脚……だけれども、大きく傷の跡が残っていた。
二年前、俺と同じように真っ先に迷宮に向かって怪我をしたという話か。
やってきた新入生を呼び止めやすそうな場所に一人で座っていたところを見るに、俺みたいなやつを止めるためにわざわざここで見張っていたのだろう。
俺が席に着くと、彼女は満足そうに頷く。
「うちももを見た途端に座るなんてスケベ野郎め……」
「違いますからね」
「おっと、自己紹介しようか。私はヒナだよ。ヒナちゃんと呼んでくれたまえよ。エッチな後輩くん」
「……苗字はなんです?」
俺が尋ねると、ヒナと名乗った先輩は「チッチッチ」と指を横に振る。
「君は苗字を名乗ったら苗字で呼ぶタイプだ。なので苗字を名乗らないことで名前を呼ばせるという完璧な作戦さ。大人しくヒナちゃんと呼びたまえ」
「……ヒナ先輩。あー、俺は、藤堂トウリです。今年入学しました。かなり貧乏で、今日の飯を食う金もないので出来たらダンジョンに入りたいんですけど」
「ふむ……でも、迷宮は怖いところだよ?」
ヒナ先輩は繰り返し俺を引き止める言葉を口にする。
強く「行くな」と言わないのは、たぶん他の生徒のダンジョン探索を止める権利がないからだろう。
無視していくことは問題ないが、それなり以上に手間をかけて親切にしてくれているのを思うと雑に対応はしたくない。
「……迷宮が怖いところなのは知ってますよ」
「入ったことないでしょ? 資格ないはずだし」
「一応ありますよ。ダンジョン災害で」
ダンジョン災害と呼ばれるものがある。
突如として地上に生成されるダンジョンの生成に巻き込まれて、意図せずにダンジョン内部に人が入り込んでしまう現象だ。
一時、ダンジョン活性期と呼ばれた時期には年何件かあったそうだが、俺たちが産まれたころには滅多にない珍しい事故だった。
「……そっか。入ったことあって、ここにきてるんだ」
「金がないのと、そのダンジョン災害のときにスキルが手に入ったんで」
「……スキルが手に入るぐらいダンジョンにいたんだ。あー、んー、それでダンジョン探索しようとしてた……となると、私の勘違いか。止める必要はなかったね」
ヒナ先輩は「えへへ」と照れ笑いをしながら頬を掻く。
「……けどさ、やっぱりちょっと心配だし、臨時パーティ組まない?」
「臨時パーティ?」
「うん。この学校では慣習で固定パーティを組んで探索するのが基本なんだけど、別に別の人と組んでもいけないわけじゃなくて、野良で組んだパーティを臨時パーティって呼んでるの」
「あー、じゃあ、はい。面倒かけます」
「いいよいいよ。私が勝手に心配してるだけだから」
ヒナ先輩はそう言いながらバッと地図を広げる。
「よし、えっと、トウリくんは今日のご飯代が欲しいんだよね」
「最低限がそこですね。まぁ出来ればもう少し欲しいですけど」
「……お金貸そっか?」
「大丈夫です」
「うーんと、一番弱いウィスプが落とす魔石が買い取り百円ぐらいだから……。まぁ、五百円ぐらいならなんとかなるかな。スライムは一匹三百円だけど……むー、若干生き物感あるから抵抗ある人が多いんだよね」
「両方倒したことありますよ」
「あっ、そうなんだ。じゃあ今回はその二種類狙いで千円ぐらい目指そうか」
ヒナ先輩はそう言いながら地図に指先を這わせてルートを決めていく。
「スキルについて聞いていい? あっ、私のスキルは【ハイスタンダード】と言って、全体的に能力が強化されるという分かりやすい能力だよ。こう見えてもトウリくんよりも力持ちだと思うよ」
制服をめくって「ふん」と力アピールをするが、全く力こぶが出来ていない細腕だ。
「それなりにスキルも成長していて瞬発的に威力を高めたり、必殺技みたいなのもあるから信頼してもいいよ」
「……使い勝手良さそうですね」
「でしょー、五感も鋭くなるしね。とは言っても、帯に短し襷に長しというか、どっちつかずなところがあるけどね」
そう謙遜するヒナ先輩だが、なんとなく自信のほどが見える。
ワクワクと言った様子でヒナ先輩が俺の方を見て、俺はまぁ仕方ないかとスキルについて話す。
「俺のスキルは【404亜空間ルーム】。まぁ、どこからでも現実には存在しないマンションの一室に入れるスキルです」
「存在しないマンションの一室?」
「あー、まぁ、固有の異空間にワープするみたいな。どこからでも避難所と物資補給出来るみたいな感じです」
俺の説明を聞いたヒナ先輩はブツブツと言ってから俺の方を見る。
「……かなりレアなスキルじゃないかな、それ」
「らしいですね」
「わー、親切のつもりだったけど本気で勧誘したくなっちゃった。ウチのパーティどう? 可愛い子いるよ、私とか」
きゃぴっ、と可愛さアピールをしてるヒナ先輩をスルーして立ち上がる。
「……とりあえず、スキルも見せたいのでさっさと行きますか。俺のスキルがあればどこでも休憩は取れるので」
「んー、まぁ、そうだね。とりあえず実物を見ないことには始まらないかな」
ヒナ先輩も俺に続いて立ち上がり、近くに置いていた鞄と刀を背負いあげる。
「よしよし、じゃあ案内するよ。私一人でも全然大丈夫なところまでしかいかないから安心してね」
「お世話になります」
そういう流れで、この学校に来て初めてのパーティと初めてのダンジョン探索が始まった。
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