第一章:寂しがりやの英雄譚
第1話:入学式
入学式当日。
学校の中に入ると掲示板が張り出されていて、そこにはクラス分けが書かれていた。
事前にもらっていた電子生徒手帳に書いてある自分の学籍番号と照らし合わせて見ると、どうやら俺はFクラスの20番ということらしい。
AからFの6クラス、一クラス20人の合計120人で、俺はFの20番。
藤堂という苗字で五十音順で最後ということはなさそうだよな。
そうなると……。
「入学試験の成績順か。まぁ、俺は最下位なのは確定だし、Fクラスの20番ならその可能性は高いそうだな」
学校教育であまり露骨な順位付けはしなさそうなイメージだが、探索者学校ということを考えるとそれぐらいあってもおかしくなさそうだ。
やたらと屈強な教師たちの指示に従って体育館に移動し、角のパイプ椅子に座る。
ふう……と、ため息を吐いていると、隣に座っている男子生徒が顔を青くしながらガタガタと震えていることに気がつく。
「や、やっぱり、やっぱり僕には向いてないんだ。Fクラスの19番なんて、ドベもいいところじゃないか」
ああ、やっぱり成績順なのか。
まぁ実力ごとに分けないと教える方も大変だもんな。
俺の近くに座っているFクラスの生徒達はなんとなくみんな暗い雰囲気で、希望溢れる入学式という雰囲気ではない。
入学式が始まるが、やっている内容は探索者がどうのこうのという文言が足されている以外は特別なものは何もない。
この前の卒業式と同じような感じで退屈さを感じる。
まぁ卒業式はその後の告白のインパクトに流されてほとんど記憶がないのだが。
「う、うう……どうしてこんなことに、うう……」
入学式の最中なのにもう泣き出しそうな隣の男子生徒を見て仕方なく小声で声をかける。
「あー、平気か?」
驚いた表情を浮かべる彼に名前を名乗る。
「俺は藤堂トウリ。これからよろしく」
「あ、うん。……と、藤堂くんは、不安じゃないの? その……F級の20位なんて」
結構失礼なことを言うな……まぁ事実だけども。
「俺が言うことじゃないだろうけど、学ぶためにきたんだから今の順位は気にしなくてもいいんじゃないか?」
「う、うう……君は強いね、最下位なのに……」
「コイツ一言多いな」
「と、藤堂くんさえよければ、友達になってくれない? そ、その、僕よりも劣った人間が友達なら自尊心を保てそうだから」
「オドオドしてるのにカスすぎる……。やだよ、絶対友達になりたくねえよ……」
ヒソヒソと話していると少し周りから注目される。
「い、いや、ほら、と、藤堂君にも得だと思うんだ。と、友達いなさそうだし」
「…………。いるよ。友達ぐらい」
「えっ……嘘だぁ」
こ、こいつ、あまりにも俺に対して失礼すぎる。普通に中学生のときにも友達はいたし、最近またひとり増えたし。
「証拠、み、見せてよ。いるなら見せれるでしょ」
「いや、友達がいる証拠って言われてもな。中学のころだから別の高校だし……。文化祭や運動会や卒業式のときの写真ぐらいならあるけど」
そう言いながらスマホを取り出してロックを解除しようとすると、ずっと震えていた男子生徒が今まで以上にわなわなと震え出す。
「な、ななな、じょ、女子の写真が、ロック画面……!? か、かか、彼女持ちなの!?」
「えっ、あー、いや、これは彼女ではなくて……。その、頼まれてロック画面に登録しただけで……」
「だ、騙したのか!? 僕を、弱者のフリをして油断させて……!」
いや、騙すも何も……。と、俺が考えていたら、前の席の男子生徒がくるりと振り返って俺のスマホを覗き込んできて「ウガァ!」と謎のダメージを受ける。
「おい、そこの三人。入学式だぞ……」
という男性教師の静止を無視して、気弱そうな男子生徒が俺を睨みつける。
「ゆ、許せない……! そんな可愛い彼女がいる男が……!」
「い、いや、だから彼女では……」
振り向いた前の席の男子が入学式なのに勢いよく立ち上がる。
「っ……! 藤堂と言ったか……! ダンジョンで死ぬのは毎年400人程度だが、テクノブレイクで死ぬのは1000人近い……! だから、ダメだ。ダンジョンよりもテクノブレイクの方が危険だから……別れた方がいい!!」
「い、いや、今、入学式だから……」
前の席の男子生徒は俺の静止を無視して俺の両肩を掴む。
「俺はクラスの仲間に死んでほしくない。だから……別れた方がいい。そして、良ければ俺に紹介してくれ……!」
「ぜ、全力でカスみたいなことをいいやつ風に……」
「俺はお前にテクノブレイクで死んで欲しくないんだ!!」
前の席の男子生徒は叫ぶ。
「お前ら、外出ろ」
そして何故か俺も含めた三人が体育館から放り出される。
……なんで俺まで。
それからは何事もなく入学式が終わり、ゾロゾロと各自の教室に向かう。
そのさなか、俺たちがなんとなく三人で歩いていると周りからコソコソと「アイツら入学式で騒いでた……」とか「テクノブレイクの」とか「テクノブレイカーズ」などと言われていることに気がつく。
このアホふたりはいいけど俺をそこに入れるなよ……!
このアホふたりはいいけど。
クラスに入って席に着くと、どうやら入学式と同じ並びらしく、先程と同じく俺の前と隣である。
しばらくすると教師らしい気だるげな男性がやってきて、ネクタイを緩めてワイシャツのボタンを外しながら俺たちを見る。
「おー、静かにー。入学おめでとう。このFクラスの主担任の目白だ。と、まぁ、言ったけど夢たっぷりってわけにもいかないか。まぁみんな聞いてはいるだろうし察しているだろうが、この学校では生徒の成績に応じて順位付けされていて、上から順にAクラスBクラスって感じに配置されるようになってる。まぁ、Fクラスはドンケツってことだ」
……入学初日から言う内容か?
周りの生徒たちもここまで露骨に言われるとは思っていなかったのかザワザワと話し声が聞こえる。
担任の男は寛容なのか、それとも面倒くさいのか私語に注意することなく話を続ける。
「けど、まぁ、それは現時点の話だ。というのも、例外はあるけど基本ダンジョン探索前にスキルが生えてくることはないし、スキルの性能によって一瞬で探索者としての価値が変わるからだ」
例外と言う言葉と共に一瞬だけ担任の目が俺を見たような気がする。
「つまり、現時点の評価なんてほぼ関係ないわけだ。というわけで腐らずに頑張れ。ああ、あと、他のクラスの担任は元B級探索者以上だけど、俺だけ人手不足でD級探索者だけど採用された感じなんであんまり俺を頼りにするなよ。質問は他の先生にするように」
ええ……それでいいのかよ、担任が。
「んじゃ、学校案内……めんどいからパンフレット読んどいて。次に敷地内にあるダンジョン……まぁ、他の先生が授業中に説明するか。……んー、解散!」
……えっ、解散?
担任教師が出ていき、クラスメイト達は困惑しながら周りの生徒と話し始めたり、まばらに教室から出て行ったりとする。
「と、藤堂くん、これからどうするの?」
「金がないからダンジョンに潜って金稼ぎする方法を探そうと思う」
「あー、いや、今は難しいんじゃないかな。入学したばかりだし、危ないよ」
「入学前案内見た感じだといけそう。というか、今日の飯を食う金もないから何かしら探してこないと」
立ち上がって教室から出て、人が少なくなったところで一度立ち止まる。
それからスキル【404亜空間ルーム】を発動する。
何もない場所に手を伸ばして、ドアノブを掴むイメージ。
何もなかった場所を掴むとドアノブと扉の輪郭がハッキリとして、かちゃりとその扉が開く。
中の何の変哲もないマンションの一室のような場所に鞄を放り込んで扉を閉じるとその扉が何もなかったように消えていく。
……とりあえず、ダメならダメでいいけど、行くだけ行ってみるか、校内にあるダンジョンに。
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