迷宮学園の劣等生、異空間を生み出すスキルで学園ダンジョンを無双する〜ソロで探索したいのに俺のことが大好きな美少女達が離してくれない件〜

ウサギ様

プロローグ

「す、好きですっ!」


 中学校の卒業式。

 卒業証書を手に、数人だけの友達と別れたところで見覚えのない一年生の女生徒に呼び止められて、好意を告げられた。


「その、先輩は、私のこと覚えてないかもですし、覚えていても嫌われてるかもですけど。……助けてもらって、それから、ずっと、遠くから目で追って。……その、言えるの、今日が最後だから……」


 もう一度、後輩の女子生徒はボロボロと涙をこぼしながら俺に言う。


「好き……です。こんな、呼び止めて、泣いて、ごめんなさい」


 地面に少女の涙が落ちていく。

 本当に誰だったかを思い出せないことに急ながら、慌てて彼女に「大丈夫」と伝える。


「先輩の、受験、めちゃくちゃにしちゃって……」


 受験? ああ、高校受験の当日に助けたあの子か。


「平気だ。結局なんとかなったし、そもそも助けることを選んだのは俺だしな。君が気にすることじゃない。気に病ませてごめんな」


 人生で初めてされた異性からの告白。

 嬉しくないはずもなく、大喜びしたいところだけど、そういうわけにもいかないだろう。


「あー、俺さ、金がないから、迷宮探索者の学校に行くんだ。全寮制の。だから、交際とかはな」


 女子生徒の手がグッと俺の制服を握る。


「……好きです」

「いや、その、というか、俺のことよく知らないだろ? 助けたのも、俺にとって受験がどうでもよかったからで……」

「好きです」

「俺、勉強も得意じゃないし、顔もこんなだぞ? 全然モテないし」

「好きです」


 ぐい、ぐい、と、制服を引っ張られて、じっと目を見られながら、少女の唇が動く。


「……好きです」


 そこまで好かれるようなことはした覚えはない。


 人生捨て鉢になってダンジョン探索者の道を選んだばかりで、女子から告白されるとは考えてもいなかった。


 ぐるぐる、ぐるぐると混乱した頭の中、振り絞った答えは。


「……と、友達から」


 などと、酷くみっともないものだった。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 ダンジョンが生まれて、ダンジョン探索者という職業が出てからしばらくして、日本は探索というものにおいて他国に劣っていた。


 というのも、わざわざ命懸けの探索者などというものになる必要がないぐらい安定して豊かな国で、好き好んで探索者になるものはそれほど多くなく、人口の割に志望者が少ないことにある。


 対策として、プロパガンダじみたダンジョン攻略配信に対する補助や、ダンジョン探索者への優遇措置。


 その一環として俗に「迷宮探索学校」というものが全国各地に作られた。

 これは将来探索者になる生徒の育成と、引退した探索者の受け皿として用意されたものである。


 だが、まぁ元々不人気の探索者の専門学校というわけで、例年定員割れ。


 超大遅刻をかまして、実技テストは受けられず、筆記テストの最後の科目に名前だけ記入した俺でも受かるような学校である。


 名前書けば受かる高校と聞いていたが、まさか本当に名前を記入しただけで受かるとは思ってもいなかった。


 まぁ、探索に必要な「スキル」を今の段階で持っているということを評価されてのことだろうが、だとしてもやる意味があるのか謎である。


 そんな探索者学校に通うことになり、全寮制ということもありこれからの生活のために必要なものを買い揃えにデパートへとやってきたのだ。


 ……『友達』と、共に。


「せ、先輩。では、いきましょうか」


 顔を合わせるのはたぶん三度目。

 初めてみる私服姿はオシャレ……というよりも、おめかししてきたという感想を抱くものだった。


 たぶん今日のために買ってきたのだろう服は真新しく着慣れていないのを感じる。


 いつも通りの着心地のいい服を着ていることが申し訳なくなる。


「あー、いいのか? 貴重な春休み、日用品の買い込みなんてつまらないことに使って。あまり友達が付き合うようなことでもないと思うんだけど」

「は、はい。その、友達は友達でも、今、私が片想いをしている友達なので、つまらなくはないです」

「そうか。ありがとう」


 卒業式の日に告白してくれた一年の女子生徒、思ったよりもだいぶグイグイとくる子だった。


 あの後「友達だから」という理由で連絡先を交換し、その日のうちに春休みの予定を聞かれて、入学準備で忙しいと返すと「私も手伝います」と、あれよあれよという間に約束を取り付けられてしまった。


「それで、何を買うんですか? というか剣とかってデパートに売ってるんです?」

「探索者用のものは学校の購買に売ってるらしいから、普通に寮暮らし用のものだな。あと、俺のスキル用の物を」


 少女は「スキル用の……」と、驚いた表情を見せる。


「スキルって、アレですよね。雷がバーン!ってなったり、炎でドーン!ってなる。先輩のことが気になって調べたんです。先輩も持ってるんですね」


 ダンジョン配信でも見たのだろう。

 わちゃわちゃと身振りを見せる後輩の少女に頷く。


 一般的にスキルの詳細に関してはあまり開く口外するようなものではないらしいけど、ここまで露骨に好意を示してもらうとあまり秘匿するのも悪い気がする。


「……そんなに派手なスキルじゃない。【404亜空間ルーム】異空間に存在しないマンションの一室を生み出す異能。まぁ、どこからでも入ることが出来る部屋があるみたいな感じだ」

「へえー、すごく便利そうですね」

「どうかな。スキルに直接的な戦闘能力がないのがどう響くか……。あと、当然中の物は自分で購入して入れて置く必要があるけど、金ないからなぁ」


 後輩の子は「大変なんですね」と俺を労わりながら隣を歩く。


 まぁ、大変である。いつでも休憩所と物資の補給が得られるのは有用だろうが、とにかく金がない。

 保存食や予備の武具などの物品を買い込むことで真価を発揮するスキルだが……金がない。


 それに探索者学校のカリキュラムや評価基準的に「希少すぎる」スキルはお役所仕事では評価しにくく、有用だとしても不利になりやすいとかなんとか。


 まぁ「探索者学校なんて行かずにウチのパーティ入れよ」と誘ってくれたおっさんの受け売りだが。


「運送業とかに使えませんか?」

「あー、扉がダンボールサイズぐらいまでしか入れられないからなぁ。将来的にスキルが成長するかもしれないけど、スキル成長させるなら結局ダンジョンだしな」

「……そうですか。じゃあ、まず何を買うんですか?」

「あー、まぁ、普通に生活用品を大量に買い込むのと、保存食だな。金、足りるかな」

「えっと、使ってないクッションとかいりますか?」

「いや、いいよ。友達に恵んでもらうのも申し訳ないし。まぁ、なんとかなると思おう」


 後輩の少女と共にデパートで物を買って歩いていると、ご機嫌そうな彼女を見て首を傾げる。


「楽しいもんじゃないだろ。日用品の買い込みなんて」

「えへへ、好きな人と一緒にいられて楽しくないはずないです」


 ……この子、本当に押しが強い。

 聞いているこっちが赤面しそうになることを平然と口にする。

 いや、頬が赤くなっているので平然と、というわけでもないようだ。


「……先輩。好きです」

「よく、平気でそんな恥ずかしいこと言えるな」

「全然平気じゃないですよ。でも、学校が離れて……先輩が私と会わないつもりなら、休日とか長期休暇でも、もう会えなくなります。だから、今のうちに伝えてるんです」


 彼女は恥ずかしそうに、けれども芯を持ってそう言う。


 俺は、そんなに好かれるような人間ではない。


 確かに受験を捨ててこの子を助けた。

 けれど、それはこの子が大切だからでも、俺が善人だからでもない。


 ただ、俺にとって俺がどうでもいい存在だから、ポイっとゴミのように投げ捨てただけだ。


 ……初めて、この子の顔をじっと見る。


 二歳年下、今年中学二年生になる彼女は、だいぶ幼く見えるけれど、顔はとても可愛らしくニコニコとしていていい子そうだ。


 俺が投げ捨てたゴミを大切に拾い上げて、その胸に抱きしめているのを見るのは忍びなかった。


「……まるで口説いてるみたいだな」


 気恥ずかしさと罪悪感を誤魔化すように揶揄うと、彼女は少し驚いて、少し笑う。

 それから彼女は足を止めて、赤い顔のまま、息を整えるように自分の胸に手を当てて俺を見つめる。


「……そうですよ。私は先輩を。佐倉アルカは藤堂トウリさんを口説いているのです」


 それが探索者学校に入学するほんの少し前の出来事で、俺がダンジョン探索において「死なないこと」を目標とするに至った理由だった。


 こうして、俺は実技試験、筆記試験共に0点の最底辺の生徒として探索者学校に入学した。

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