【夜明けの道 後日談】
あの不思議な夜から数ヶ月経過した。
俺はあの後、今の職場を辞めて祖父の元で勉強している。祖父の仕事に付いていき、道具の運搬や切り落とした枝等の清掃をしている。職人気質で見て覚えろ、とあまり積極的には教えてくれないが爺ちゃんが持っている道具や勉強に必要な資料は全部貸してくれた。「この仕事に興味を持ってくれて嬉しいのよ〜。」と婆ちゃんは言っていた。
あの日…目が覚めた後、俺は爺ちゃんに頼み込んだ。
『教えてほしい事があるんだけど…。』
『なんだ、どうした。』
『その…説明すると長くなるんだけど。…とにかく、この楓を育てたいんだ。』
俺は持っていた、楓の若枝を爺ちゃんを見せる。爺ちゃんは俺の顔と楓をまじまじと見た後、黙って席を立ち上がりリビングを出ていってしまった。
『ダメか…』
プロにやって貰うのが一番かと思って来たが、やはりそう上手くはいかないようだ。仕方ない、自分でなんとかしよう。俺は庭に出て爺ちゃんのスコップを借りて土を掘っていく。
『ここなら陽当たりもいいし、きっと良いはずだよな』
『いんや、ダメだ』
じゃりっ…とサンダルを履く音と共に爺ちゃんの声が背中から聞こえた。
『そこだと暑すぎる。楓は暑いのが苦手なんだ。』
ああ、そういえばそんなこと言ってたな。昨夜の会話を思い返していると爺ちゃんは持っていた植木鉢を地面に置いた。
『お前が育てたいと思ったなら、自分でやれ。最初だけ手伝ってやる。』
爺ちゃんに教わりながら植木鉢への差し木を終えた後、爺ちゃんと2人でリビングに戻り俺は「爺ちゃんの仕事を教わりたい。今更で、遅いかもしれないけど…樹木医になりたいんだ」と言うと否定せず受け入れてくれたことに感謝している。
来年には樹木医になる為に必要な知識を学ぶ為に専門の大学に入る予定だ。
「約束だからな。」
窓際の植木鉢に霧吹きで水をやる。
水滴に月明かりが反射し、楓はキラキラと輝いていた。
夜明けの道【その後】 小野屋 豆銘 @urar_seseki
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