魔王討伐したはずなのに ~平和になった世界に勇者は要らないようです〜

十晴

第1話 クソったれな世界

 俺の名はショウ、普通の高校生……だった。そんな俺が異世界に飛ばされたのは約2年も前のことだ。

 俺はトラックにひかれ気が付いたらこの世界に来ていた。

 固有スキルがすべてが決めるというこの世界でどんな魔物を一撃で葬るというチートスキルを授かった俺は頼まれるままに魔王討伐の旅に出た。

 10年に1度の天才魔法使いミア、史上最年少で大賢者の称号を手にした僧侶エリスとともに旅すること1年半、俺達はついに魔王を討伐することができたのだ。できたのだが……。


「なんだよこの仕打ちは!」

 俺は飲み干したビールジョッキを机にたたきつける。すると目の前に座っていたミアがため息をつく。

「ちょっとショウ、昼間っから飲みすぎよ?」

「これが飲まずにいられるかってんだよ! 世界を平和にしたのは俺だってのになんでこんなぼろ屋敷で安酒飲んでなきゃいけないんだよ!」

「気持ちはわかるけど……」

「平和になった世界じゃ私達の固有スキルはお役御免ですもんね~」

 エリスが紅茶を飲みながら答える。

 そう。魔王を討伐したあの日、世界中の魔物が消滅したのだ。最初こそちやほやされたがそれは1年と続かずに世界は破壊された街の復興へと動いた。

 先にも言ったがこの世界は固有スキルですべてが決まる。そこら中に魔物がうろついてたあの頃はチートスキルでも魔物がいなくなったこの世界ではスキル無と等しかった俺達は無事冷遇され今に至るというわけだ。

「その平和を作ったのは俺達だぜ!? それなのにその恩赦がこのぼろ屋敷とはした金だけってどういうことだよ!」

「ふざけた話よねホント。この屋敷だって街からうんと離れたところにあるし、体のいい追放よまったく」

 そう答えるミアの固有スキルは魔物の居場所、能力、弱点などを瞬時にサーチし見破るというものだった。当時は戦闘、探索、交渉などでめちゃくちゃ重宝したチートスキルだったが今となっては固有スキル無だ。

「とはいっても今の私たちに発言権なんてないに等しいわけですし~」

 そう言うエリスは魔物による攻撃の一切を無効化するというチートスキル持ちだったが今となっては以下略。

「あ~! あの頃は楽しかったな! 最っ高の異世界生活だと思ったのに!」

「うだうだ言ってても仕方ないでしょ? もうどうしようもないんだからどう生活するのか考えなきゃ」

「ですね~。お金は貰いましたけどこれだけじゃ1年ももたないでしょうし、何か働き口を見つけなければ~」

「でもどうすんだよ、ギルドは解体されちまったし大抵の仕事はそれに合った固有スキル必要だろ? 固有スキル無の俺らがつける仕事なんてたかが知れてるだろ。それだけで生きてくのは厳しいって」

 固有スキルは誰でも持っているためこの世界の住人は皆自分のスキルに合った仕事に就く。魔物討伐を生業としていた人もほとんどが身体強化や攻撃・回復魔法といった物で魔物特化というものはおらず、何かしらの職には就いていた。よって俺たちがつける仕事などせいぜい薬草採取や店番程度だ。

「そうよね……。あ~あ、こんなになるなら魔王なんて倒さなきゃよかったわ」

「ミア、そんなこといっちゃいけませんよ、気持ちはわかりますけど~」

「おい、エリスがそれ言っちゃダメだろ。まあ俺もそう思うけど」

 少し沈黙が流れると、気まずくなったのかミアが口を開く。

「とにかく! できるだけ節約しなきゃ、ある程度は自給自足で何とかしなきゃ飢え死にしちゃう」

「「そうだな」ですね~」

 二人で手元の飲み物を飲み干す。

「まずそれよ! もう貧乏だってのに二人とも昔と同じくらいお酒と紅茶をいっつも飲んでるじゃない!」

「でもこれ相当安い酒だぜ? これくらいいいじゃんか」

「私のもどこの銘柄かわからないものですし~。これくらいなら〜」

「単価が安くても一杯飲んでたら一緒なのよ! とにかくこれは没収!」

 そう言ってミアは酒瓶とティーポットを奪い取る。

「あっ! 返せ!」

「返して下さい~、それがないと私……」

「ダメ! どっちみち飲みすぎだしこれはしばらく隠しとくから……」

 さっき飲み干したせいでもうジョッキの中にも無い。右手が震えてきた。

「……返せよ! あと一杯だけだから!」

「私もそこに入ってる分だけ! 返せ!」 

 エリスと2人がガリで襲い掛かる。

「ちょっ! やめなさいよ、てかエリスキャラ変わってるし! なっ、放せ! やめろこのジャンキーどもが!」

 

 何度も攻防を繰り返し、ついに奪い返した。

「オラァ! ようやく飲めますわ!」

「シャア!ジョッキに入れてる時間がもったいねえ! 直じゃ!」

 震える手を抑えながら二人で一気に飲み干す。

「ハア~! キマりますわ~!」

「マジこの瞬間だけは全部忘れられるぜ!」

 飲み干した俺らをしり目に疲れ切ったミアが涙目になりながら呟く。

「……もうやだこのパーティー!」

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魔王討伐したはずなのに ~平和になった世界に勇者は要らないようです〜 十晴 @NEKOYATak

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