双子の思春期記念日

不二咲 未来

双子の秘密

 僕には双子の兄がいる。双子と言ってもあくまで二卵性双生児なので、瓜二つの容姿をしているというわけでもないし、性格も特別似通っているわけでもない。それでも、生まれてこの方十七年も一緒に過ごしていると、相手の考えもある程度読めるようになってくる。


 最近兄の様子がおかしい。前までスキンケアや髪型にそこまでこだわりがあるわけでもなかったのに、最近では朝晩と丁寧にスキンケアをしているし、学校に行く前に何度も鏡を見てうなりながら髪の毛をセットしている。とは言っても、自分でスキンケア用品とかヘアアイロンを買い揃えているわけではなくて、僕の私物を勝手に使っているだけ。

 別に僕もそれで怒るほど心の狭い人間じゃないからいいけど、突然そんなことをするようになったら当然気になる。


 思春期の男子高校生が自分の容姿に気を遣うようになるなんて、理由は一つしかない。間違いなく女絡みだろう。彼女ができたのか、或いは気になる女の子ができたのか。どちらにせよ、双子の僕に隠し事をするなんて、断じて許せることではない。

 家族でおやつのケーキを食べたあと、タイミングを見計らって、二階にある兄の部屋に突撃することにした。


「丈瑠。最近ずっとそわそわしてるけど、もしかして好きな子でもできた? ゲームくらいにしか関心がないと思ってたのに、髪の毛とか洋服とかいじっちゃってさ、意外と隅に置けないね」


 突然家族からそんなことを言われて、うまく返す言葉が見つからないのか、椅子に座った兄は文字通り頭を抱えていた。


「あれ、やっぱり図星だった? 恋愛とも女の子とも無縁の人生を歩んでると思っってたけど、もうそんなに成長してるなんて、家族として誇らしいよ!」


 返事が来ないことをいいことに、あれやこれやと言葉をぶつけていると、兄は観念したようにため息を付いた。


「お前のそういデリカシーのないところは相変わらずだな。俺がゲームで爆死したときも、甘い蜜を吸うように煽ってくるし、二等分できるおやつも多めに食べるし。別に今に始まったことじゃないからもういいけどさ」


「デリカシーの無さはお互い様でしょ。どうせ丈瑠も僕がガチャで爆死したら煽ってくるくせに。もしかして、自分だけ恋愛してるからって、ちょっと優越感に浸ってたりする?」


 散々兄のことを煽ったのはいいものの、実際僕も、恋愛といえばで漫画や小説みたいな物語の世界を想像するくらいには恋愛経験がないけども。兄に優位に立たれるのはなんか癪だし、これは徹底的に追求する他ない。

「別に優越感なんてないし、悲しいことに恋愛イベントも発生してないよ。ゆうみたいに友達がそこまで多いわけでもないし、むしろ可愛い女の子を紹介してほしいくらいだよ」

 聞いている限り嘘をついている感じもしないし、女の子を紹介してほしいなんて情けないセリフを吐くのはいつものことだ。

 彼女とか意中の相手はいないとして、何か他に隠し事をしているような気がする。


「その顔、どうせ他に何を隠しているのだろう、とか考えているんだろ。優も鈍感だなあ。優も今日がなんの日かわからないわけじゃないはずだ。さっきも俺の分までケーキを貪っていたわけだし」


 今日は僕たちの誕生日だ。でも別にもう高校生だし、プレゼントでわくわくしたりするようなお年頃でもない。毎年お互いにプレゼント交換はしているけど、所詮学生の買うものだし、良くてゲームソフトが関の山だ。


「確かに僕たちの誕生日だけど、今年も今まで通りの誕生日じゃなかった?」


 毎年恒例のショートケーキも食べたし、親からお揃いのゲームソフトももらったばかりだ。そんなことを考えていると、兄がため息をつきながら、勉強机の引き出しを開けて、手のひらサイズの箱を取り出した。


「ほら、お兄ちゃんからの優へのプレゼント。開けてみろよ」


 手渡された箱を開けてみると、中にはシンプルなデザインのネックレスが入っていた。高級感はない学生のプレゼントらしいネックレスだけど、きょうだいに渡すとしたら若干違和感がある。

 まさかこんなものが渡されるとは思わなくてびっくりしたけど、それ以上に渡した本人が照れくさそうな顔をしていた。


「なんでネックレスなの?渡す相手、間違えてない?」


 少し照れくさそうに兄は口を開いた。


「毎年似たようなプレゼントをあげても面白みがないからな。ちょっと驚かせてやろうと思ったけど、うまく言ったみたいだ。俺だってお前の気持ちも少しは分かっているつもりだよ」


「じゃあ、なんで最近身だしなみとか、ちゃんとしてるのさ。前まで化粧水すらつけているかすら怪しかったのに」


「そりゃあもうすぐ成人の立派な男だからな。身だしなみくらい気にしないといけないだろ?それに、いつも優にからかわれっぱなしだし、ちょっとは驚かせてやろうかなってさ、結果的に勝手に勘違いしてたけど」


兄からそんな言葉が飛んでくるとは思っていなくて、ちょっと驚いた。なんだか恋愛シミュレーションゲームの攻略対象みたいに、揺さぶれているようでもやもやする。


「優もまだまだ俺のことは理解しきれてないみたいだな。こんなことで動揺するなんて、もしかして少しドキッとした?」


「ちょっと驚かせたからって、いい気にならないでよ。お兄ちゃんが変なことを考えているのはわかっていたし!」


 女の子と無縁の兄だと思っていたけど、よく考えたら一人だけ年頃の女の子が身近にいた。

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