第4話 知らない天井だドン
「寒いな……って、知らない天井だ」
ぱちっと目が覚めたら、今度は牢屋っぽいところにいた件。
一応お約束の台詞も言っておく。
鉄格子とか初めて見たな。
本物ってこんな感じなのか。ゲームっぽくていいなぁ。スマホがあれば写真取っておくのに。
「へっくしょぉいっ!」
なんだか肌寒いと思ったら、なぜか全裸だわ俺。
確か、奴隷狩りのおっさんに腹をおもっくそ蹴られて……。
「あー、気絶してその間にどこかに運ばれたのか」
うん、せめてパンツくらい残していってほしい。
ずっと着ていた高校のジャージは、絡まれた時点で没収されてたわ。
元の世界の服はこちらでは珍しいのだろうな。
これで服を売って金に変えるムーブができなくなってしまった。
今は何時だろうか。窓がないから朝なのか夜なのかも分からん。
牢屋は三畳くらいの石造りの部屋で所々苔むしている。
出入り口は鉄格子の扉になっており、隅っこにきったないちょっと割れている壺が置いてある。
あれはトイレかな?
親切にありがたいことだ。
牢屋から顔を覗かせて辺りを見回してみると、横一列に同じような牢屋が並んでいるのがうっすら見える。
「うーん、暗くてよく見えんな」
扉が開いている部屋もあれば閉まっている部屋もあるっぽいが、他にも捕まっている人がいるのかしら。
「まぁいいや。そんな事よりゲームアーカイブ」
ぶん、と目の前にパネルが現れる。
『……データ移項中』
ふむ、まだ終わらんか。
流れに身を任せてノリでやったが……アカウント連携もそうだがデータの移項ってなんだろね。
ゲームやりたいという俺の魂の嘆きに反応したのなら、やっぱり俺が遊んだことのあるゲームデータを移項ってことなのか……。
考えたってしょうがないか。
終わったら分かるだろう。
「あー、しっかし、寒いなぁ! もしもーし! 誰かいないのぉ!?」
こちとら裸族ではないのだ、いい加減服を着たい。
手近にあった少し腐った木の棒を拾い上げ、牢屋の鉄格子をコンコンと叩く。
「もしもし!(コンコン) すみませーん!(コン) もしもーし!(ココン) 」
コンコンと大きな音を立てながら呼び掛けてみるが反応がない。
「もしもし!(コンコン) かめよー!(ココン) かめさんよー!(カッカッ)」
なんかちょっと楽しくなってきたな。
こうしてると太鼓のゲームを思い出すなぁ(コンコンカッ)
あれは太鼓だからこう、もっと重い音だった。
うまいことできないかな。
(コンコン、コン、ゴン、ゴン、トン、トトン)
「なんか太鼓の音っぽくなってきたかも」
(トントン、トンカッ、ドン、トドン、ドン、ドン)
「お、それっぽい!」
小粋な音楽を口ずさみながらビートを刻む。
(ドンドン、カッ、ドンドン、カッ)
「……ちょっと、静かにしてよ」
ん、なんか聞こえたか?
……気のせいか。それより太鼓だ太鼓。
俺は達人になるのだ。
太鼓の。
(ドンドン、カッ、ドンドン、カッ)
「……ねぇ、今何時だと思ってるのよ。やめなさいよ」
俺は音ゲーと言われるジャンルは苦手なのであまりプレイしたことはないが、誰かがプレイしてるのを見るのは好きだった。
(ドンドン、カッ、カッ、ドドドン、カッ)
「はぁ……もういい加減にしてよ、なんなのよ」
しかし、実際にやってみると中々楽しいなこれ。
(ドンドドン、カッカッ、ドドンドド)
そういえば友達の小野寺くんはあのゲームが上手だったなぁ。
(カッカッ、ドドドン、カカッ、ドッ、カッ)
「ちょっとあんた、聞いてんの?」
目を閉じたまま最高難易度の曲をノーミスでクリアしてたっけ。
(ドンドン、カッ、ドンド、カッ)
「……ちょっと! あんたよあんた! ねぇ!」
達人と言われた小野寺くんのバチ捌きを思い出す。
(ドドンカッ、ドドン、カカッ、カッ、ドン)
「ドンドンうるさいって言ってるのよ、いい加減にしてよ! なんなのよっ!」
食わず嫌いしないでもっとプレイしておけば良かったかな。
(ドンカッ、ドンドン、ドドドン)
「きーっ! その途中で挟まるカッて音がムカつくのよっ! 鉄格子叩いてなにやってんのよ!」
拙い自分のバチ捌きを見てそう思う。
(ドンドンカッ、ドンドンカッ)
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!! うるっっっさいわねっっ!! 止めろってんでしょっ! ぶち殺すわよっ!!」
「ん? 誰だドン?」(カッカッ)
「誰だ!? じゃないわよ! ドンドンカッカッなんなの!? うるさいのよ!」
突然どこかの部屋から暴言を吐かれた(ドドン)。
初対面でいきなり頭おかしいとかなんなんだろう、頭おかしいんじゃないだろうか(カッカッ)。
「だ、か、ら! やめなさいよそれ!」
「え?」(ドドン)
「だからそのドンドン叩くのを止めろって言ってんのよっ! うるさいのよ! 言葉通じてないの!? 馬鹿なの!? なんなのあんた!」
馬鹿とはなんだ馬鹿とは。
馬鹿って言った方が馬鹿なんだぞ。
まぁもうキリも良いし止めとこうか。
いくらやっても小野寺くんには遠く及ばなかったしな。
「ふぅ、達人は偉大だドン」(ドドンカッ)
「ホントになんなの!? 嫌がらせ!? 嫌がらせなの!? ……ん、ていうかどこよここ! 牢屋!? 意味分かんないんだけど! ちょっと昼寝して起きたら何でこんなところにいるのよ! うわ、寒いし汚いしマジ最悪なんですけど! なによこれ! あんたがやったの!? さっさと出しなさいよ! 私を誰だと思ってんのよ!」
うるせぇ。
急になんなのこの人。
近所迷惑とか考えないタイプか?
てっきりさっきのおっさんの誰かが来ると思ったのにな。
「……はぁ、うるさいなぁ」
「!? あんた今うるさいって言った!? えぇ? あれだけうるさくしてた人が言うセリフ?! 頭おかしいんじゃないの!?」
「……はぁ」
「はぁ?! なんで溜め息ついてんのよ! つきたいのはこっちなんだけど! あんたまじでなんなの? もういいわ、こんなとこ自力で出てってやるわよ!」
騒がしいな。
こういう手合いには関わらないのが吉だな。
大体人の話聞かない奴にろくな奴はいないんだ。
「見てなさいよ! この大魔導師と言われた私にかかればこんな牢屋なんて何の意味もないんだからねっ!」
あ、アーカイブって念じただけでパネル出るな。
これはいい。
うーん、まだデータ移項中か。
あともう少しかかりそうだ。
あれだけ大騒ぎしたのにおっさん達来ないな。
近くにいないのかな。
せめてパンツだけでも返してほしいのだが。
お腹も冷えてきてそろそろお腹痛くなってきたぞ。
――――ィィン。
あの壺でうんこするのきついんだけど。
するのはいいけどした後困るよね。
壺の一部が欠けてるから外に漏れそうだし匂いとかもなぁ。
―――キィィィィン。
あぁ、でも背に腹は代えられないか。
けつから漏れて部屋に巻き散らかすか、壺にして壺から漏れるかだったら後者だしな。
キィィィィィィィィィィィン!
よし、うんこタイムだ。
なんかキィィンてうるさいな、お隣さんか?
近所迷惑考えろよな、まったく。
さて、壺にするって初体験だ、宿では一応トイレっぽいのあったしな。
キィィィィィィィィィンンン!!
「よっと。ふぅ…………お、でる――「喰らいなさい! エクスプロージョンっ!!」
カッ!
強烈な閃光が一瞬にして視界を真っ白に埋め尽くし、
どおおおぉぉぉぉぉぉおおおんんんっっ!!
続いて轟音とともに激しい衝撃が辺り一面を吹き飛ばした。
ぶりゅり。
うんこも出た。
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