#3






「おはよ」



「ふぁあ……」



「……眠」



「アンタも眠そうね」



「先に寝た癖に」



「まっ、勝負は私の勝ちだからいいんだけど」



「貸しひとつ」



「コーヒー買ってきて」



「ブラック」



「早くしないと授業始まるよ?」



「ダッシュ、ダッシュ」



「ふふっ」




…………。



…………。




「うわっ……。いろいろ忘れてる」



「教科書見せて」



「席、寄せて」



「…………んっ(くんくん)」



「ふふっ」



「私の好きな匂い」



「私からも同じ匂いするでしょ?」



「ほら嗅いで」



「ちゃんと覚えた?」



「次から自分で買ってね」



「アンタはこの匂いどう?」



「好き?」



「うわっ……」



「それ、ちょっとキショい」



「でも……」



「…………」



「別に……何でも無い」



「はぁ……。私もちょっとキショいこと言うとこだった……」



「……あ?」



「何も言ってない」



「だから、何でも無いから」



「ウザい」











「昼は?」



「持ってきてんのね」



「飲み物」



「ジャスミン茶」



「んー?貸しは精算してるね」



「買ってきてくれない?」



「ふーん」



「今日さ」



「作ってきたお弁当の量……多いんだよね」



「私一人じゃ食べきれないぐらい」



「いいよ。別に」



「食べきれなかった分は持って帰って家で食べるから」



「で?」



「買ってくる?買ってこない?」




ダッ!




「うわっ……速ッ……」



「そんな気に入ったのか」



「まあ……。悪い気はしないかな」




…………。



…………。




「はい。ご苦労様」



「ふふっ」



「必死すぎ」



「んで?どれ食べたい?」



「好きなの選んでいいよ」



「ふーん。ソレね」



「んじゃ、こっちあげる」



「選んだヤツあげるなんて言ってないけど?」



「こっちが自信作だから、こっちが先」



「ほら、口開けて」



「あーん」




パクッ。もぐもぐもぐ……。




「味、どう?」



「そっ」



「次は……ソレね」



「……ん?」



「食べさせてあげないとも言ってないけど?」



「ほら、アーン」




パクッ。もぐもぐもぐ……。




「はい。サービス終了」



「めんどいから後は好きに取って食べて」



「……ん?」



「どれも美味しくて料理上手だ、って?」



「別に、私はレシピ通りに作ってるだけだから」



「オリジナリティとか、あんま無いし」



「それ、美味しくて凄いのは私じゃなくてレシピの方」



「料理ってさ。レシピがちゃんとしてれば美味しく出来上がるから。普通は」



「ただの作業」



「でも普通に作ると口に合わないから、ちょっとだけ弄ってる」



「だから、それは



「やり直し」




…………。




「知ってる?」



「手料理の感想って、言った方は忘れるけど、言われた方は忘れらんないみたい」



「それで?」



「感想」



「うん」



「へぇー……」



「味付けが好み、ね」



「ふふっ」



「サービス」



「はい、あーん」











「あぁーー……。やっと放課後」



「眠」



「ちょっと寝る」



「そこに居て」



「……………………」



「……………………スヤァ」




…………。



…………。



…………むくっ。




「んんッーー…………」



「スッキリした」



「帰ろ」



「ねえ」



「ーーって、寝てるし」



「ふぅ……」



「…………ダラしない寝顔」



「ふふっ」



「ホント……変なヤツ」



「…………」



「……………………」



「………………………………」



「ストップストップ」



「いやいや……私、何しようとした?」



「それはキショい」



「ダルい」



「シンドい」



「…………はぁ」



「…………」



「アンタはさ……」



「嫌な顔ひとつしない」



「なんだかんだ言っても嫌な素振りも見せない」



「何が楽しいの?」



「私、嫌じゃない?」



「アンタがそんなだとさ」



「私……」



「…………」



「アンタさ……」



「……起きてない?」




ムクッ。




「……いつから起きてた?」



「近くに気配を感じていい匂いがした時?」



「…………」



「……帰るよ」



「早くして」



「……何?」



「一緒に居て嫌じゃない、って?」



「そんなの知るか」



「アンタが嫌だろうが嫌じゃなかろうが」



「言ったでしょ?」



「アンタにはきっちり『責任』とって貰うって」



「私のラインを越えてきたのはアンタだから」



「アンタのせいだから」



「私のせいじゃないから」



「アンタはもう私のパーソナルスペースの内側」



「アンタが自分の意思で選んで越えてきたんだから」



「出さないから」





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