#3
「おはよ」
「ふぁあ……」
「……眠」
「アンタも眠そうね」
「先に寝た癖に」
「まっ、勝負は私の勝ちだからいいんだけど」
「貸しひとつ」
「コーヒー買ってきて」
「ブラック」
「早くしないと授業始まるよ?」
「ダッシュ、ダッシュ」
「ふふっ」
…………。
…………。
「うわっ……。いろいろ忘れてる」
「教科書見せて」
「席、寄せて」
「…………んっ(くんくん)」
「ふふっ」
「私の好きな匂い」
「私からも同じ匂いするでしょ?」
「ほら嗅いで」
「ちゃんと覚えた?」
「次から自分で買ってね」
「アンタはこの匂いどう?」
「好き?」
「うわっ……」
「それ、ちょっとキショい」
「でも……」
「…………」
「別に……何でも無い」
「はぁ……。私もちょっとキショいこと言うとこだった……」
「……あ?」
「何も言ってない」
「だから、何でも無いから」
「ウザい」
◇
「昼は?」
「持ってきてんのね」
「飲み物」
「ジャスミン茶」
「んー?貸しは精算してるね」
「買ってきてくれない?」
「ふーん」
「今日さ」
「作ってきたお弁当の量……多いんだよね」
「私一人じゃ食べきれないぐらい」
「いいよ。別に」
「食べきれなかった分は持って帰って家で食べるから」
「で?」
「買ってくる?買ってこない?」
ダッ!
「うわっ……速ッ……」
「そんな気に入ったのか」
「まあ……。悪い気はしないかな」
…………。
…………。
「はい。ご苦労様」
「ふふっ」
「必死すぎ」
「んで?どれ食べたい?」
「好きなの選んでいいよ」
「ふーん。ソレね」
「んじゃ、こっちあげる」
「選んだヤツあげるなんて言ってないけど?」
「こっちが自信作だから、こっちが先」
「ほら、口開けて」
「あーん」
パクッ。もぐもぐもぐ……。
「味、どう?」
「そっ」
「次は……ソレね」
「……ん?」
「食べさせてあげないとも言ってないけど?」
「ほら、アーン」
パクッ。もぐもぐもぐ……。
「はい。サービス終了」
「めんどいから後は好きに取って食べて」
「……ん?」
「どれも美味しくて料理上手だ、って?」
「別に、私はレシピ通りに作ってるだけだから」
「オリジナリティとか、あんま無いし」
「それ、美味しくて凄いのは私じゃなくてレシピの方」
「料理ってさ。レシピがちゃんとしてれば美味しく出来上がるから。普通は」
「ただの作業」
「でも普通に作ると口に合わないから、ちょっとだけ弄ってる」
「だから、それは不正解」
「やり直し」
…………。
「知ってる?」
「手料理の感想って、言った方は忘れるけど、言われた方は忘れらんないみたい」
「それで?」
「感想」
「うん」
「へぇー……」
「味付けが好み、ね」
「ふふっ」
「サービス」
「はい、あーん」
◇
「あぁーー……。やっと放課後」
「眠」
「ちょっと寝る」
「そこに居て」
「……………………」
「……………………スヤァ」
…………。
…………。
…………むくっ。
「んんッーー…………」
「スッキリした」
「帰ろ」
「ねえ」
「ーーって、寝てるし」
「ふぅ……」
「…………ダラしない寝顔」
「ふふっ」
「ホント……変なヤツ」
「…………」
「……………………」
「………………………………」
「ストップストップ」
「いやいや……私、何しようとした?」
「それはキショい」
「ダルい」
「シンドい」
「…………はぁ」
「…………」
「アンタはさ……」
「嫌な顔ひとつしない」
「なんだかんだ言っても嫌な素振りも見せない」
「何が楽しいの?」
「私、嫌じゃない?」
「アンタがそんなだとさ」
「私……」
「…………」
「アンタさ……」
「……起きてない?」
ムクッ。
「……いつから起きてた?」
「近くに気配を感じていい匂いがした時?」
「…………」
「……帰るよ」
「早くして」
「……何?」
「一緒に居て嫌じゃない、って?」
「そんなの知るか」
「アンタが嫌だろうが嫌じゃなかろうが」
「言ったでしょ?」
「アンタにはきっちり『責任』とって貰うって」
「私のラインを越えてきたのはアンタだから」
「アンタのせいだから」
「私のせいじゃないから」
「アンタはもう私のパーソナルスペースの内側」
「アンタが自分の意思で選んで越えてきたんだから」
「出さないから」
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