第21話「全能全魔と終焉魔法」
「そのよ……レイシは大丈夫だったのか?」
「貴様が心配する必要はない…あいつは強い」
「ほぉ?トーナメントであっちに行っても良かったんだぜ?」
「ふふ」
パトロンとリリスがそんな会話をしてる中──
「僕を殺したこと気にするなよ?」
「あ、もう大丈夫です」
剣聖が話しかけてきた。あといつの間にかタメ語になってる。
「その返事はそれはそれで複雑だね」
──スッ
なんか隣に座ってきたんだけど…
──ストン、ストン
あ、剣聖のファンの女性が彼にバレないように後ろに座ってる。
「……初めて人間の命を奪ったんだ。なんかさ、見るのと自分が実際にするのじゃ全然違くて─」
「レイシくん、それは実際そうだろうけど─僕はヴァニタス帝国の北斗七星ということを言っただろう?常に最前線で魔族と戦ってる。その僕から言わせてもらうと、人間を殺すのも魔族を殺すのも同じだよ」
剣聖は闘技場を見たまま真剣な表情で語っている。
あ、これは殺すのを慣れてるとかそういう気持ちで言ってるんじゃない。
僕は魔族を殺したときさっきみたいな感情は湧かなかった……けど─
──魔族も人間も神も等しく命だ。
幼少の頃出会った優しい男の人の言葉を思い出す。
あの時は分からなかったけど今はその意味と気持ちが理解出来た気がする。
「その表情を見るに、腑に落ちたみたいだね。」
「え?」
僕は両手で自分の頬を触った。
「あ─」
いつの間にか微笑んでたみたいだ。
「ありがとう。アストライオスくん。みんなに励まされて元気をもらったから大丈夫だったんだけど……君に言われて、これからも大丈夫な気がする。」
僕は彼に笑顔を向ける。
「はは、それなら良かったよ。あと呼び捨てでいいしアスターと呼んでくれ。僕らはもう友達だろ?」
彼は握り拳を向けて言う。
「うん。よろしくねアスター。僕もレイシでいいよ。」
僕も彼の拳に自分の拳をぶつけた。
「はぁー尊いわ〜」
「私もアスターと呼びたいけど私たちが呼ぶのは違うわよね〜」
「そうよ。この2人だからいいのよ〜」
なんか後ろからノイズが聞こえた気がする。
準決勝第2回戦──開始!!
パトロンとリリスの試合が始まった。
「これ、アスターも」
2本のうちわを新たに作り出しアスターに渡した。
「ありがとう。それじゃあ僕も─」
「リーリース!!リーリース!!」
僕らは応援を始めた。
「おらよ!」
パトロンが巨大化する石を投げた。
「爆破魔法発動」
──ドドドドーーン!!
全て巨大化しきる前に破壊した。
「貴様、影の能力は使わないのか?」
「あれは便利だけどよぉ、壊されたら隙が出来ちまうからな!」
今度はゴーレム2体を召喚しつつ、足元に水溜まりを出しそこから巨大魚を出現させリリスに向かわせる。
あれ多分巨大化の能力も併用してるんだな。
リリスが地面に片掌を向ける。
「面白いものを見せてやる──
あれは!僕の技だ。氷魔法で再現したのか?
──パリーーーン
ゴーレムも魚も凍る。パトロンは周りに炎を出現させ防いでいる。
「
リリス本当に君はすごい。
──ドカーーン
ゴーレムと魚が粉砕した。
パトロンは空中に跳び退避している。
──バサッ
パトロンの背中からコウモリのような翼が生え滞空している。そして──
「これはどうだ!」
風の斬撃がリリスに降り注ぐ──
──シュン
リリスも空中に転移し鎌を持ち──
「へっ」
「ふふ」
──ギャリギャリギャリギャリギャリ!!
凄まじい空中戦が巻き起こる。
「なんだあれ!?」
「すげぇ!!」
会場が盛り上がる。大半の人が目で追えてすらないだろうけど。
「バフバフバフ!!」
パトロンがさらに速くなる。
「ふふ」
リリスは魔力の身体強化をあげる。
ドドドドドド
さらに戦闘が激しくなる。
「レイシ、あのリリスって子は何者なんだい?魔力強化であんな──」
アスターが訊いてくる。
「ただの優しい女の子だよ」
「それは無理があるだろ」
「僕にとってはそうなんだ。」
「ふーん、そういう感じか。」
「え、どういう感じ?」
「なんでもないさ」
「はは!貯まったぜ!」
パトロンの右手にとてつもないエネルギーが集まってる。ボクサーとの試合の比じゃない!!
「ふん。絶対防御魔法発動」
あ、ずるい。リリスの周りに球状のバリアが展開される。
「な!?絶対はずるいだろ!!」
パトロンも言ってる。
「だったら俺もその絶対をぶっ壊してやるよ。これはクロノスのやつに使う予定だったがよぉ…いくぜ!!」
パトロンが右手でリリスに殴り掛かる。
──なっ!?
パトロンの右手が防御魔法を透けて─
「ほう。やはり貴様は少し強いな」
──ドゴーーーーーン
会場全体に爆音と爆風が炸裂した。観客席を守るために張っていた防御決壊も関係ないようだ。
砂埃が舞い闘技場の様子が見えない。
──リリスは!?リリスは大丈夫なのか?
「ふむ。防御無視の能力か…私以外だったら吹き飛んでいただろうな。」
リリスの声だ!良かった…
砂埃がおさまり、様子が見えるようになる。
「な゛、な゛に゛を゛じだ!?」
右手を中心に円状に体を抉られた状態のパトロンが片膝をついて言う。
とてつもない生命力だ。さすが吸血鬼。
その間にもどんどん再生している。
「反転魔法で衝撃を反転しただけだ。」
「そうか。だが今のでも俺は死なねぇのが分かったろ?お前は俺を殺せるのか?無理なら降参──」
「余裕だ」
「言ってくれるじゃねぇか……なら俺も全力でいってやるぜ!!」
「ふふ、そうしてくれ。私も楽しくなってきた。」
リリスは未だに遊び感覚だ。本当に底が知れない。
「君のパーティーメンバーの子本当にすごいな」
「うん。みんな強くて優しくて。助けられてばっかりだよ。」
「いい仲間だね。」
「そのにやけ面ごと吹き飛ばしてやるぜ!──
凄まじい魔力だ。
「ほう。ならば私も貴様に敬意を払い相応の魔法を使ってやろう。」
──は!?
王都全体を包むような巨大な魔法陣が出現した。
そして少しずつこの会場に集約するように縮みだした。
「影巻き、巨大化、身体能力上昇、能力強化、爆破付与、確定クリティカル、硬化、電撃、鮫肌、連撃付与、蓄積、放出、ゴーレム召喚、目くらまし、魚介召喚、炎操作、氷操作、水操作、回復──そして!能力エネルギー化!!防御無視!!」
パトロンの右手にとてつもないエネルギーが……さっきよりさらに!!あんなのこの会場が耐えれるのか?
「ふふ」
リリスは笑ってるけど……リリスの魔法陣が闘技場を包むくらいにまで圧縮してる…!!
「おいおいどっちが勝つんだ!?」
「そもそも俺ら死ぬんじゃないか!?」
「こんな戦い今まで見たことねぇ!!」
会場が焦りと期待に包まれる。
「終わりだ!!
「終焉魔法──発動」
──ドゴーーーーーーン
凄まじい威力!!闘技場に遙か上空まで
爆風はこちらまで来てない。光の柱がそれを抑えているのだろう。ということは──
光の柱がおさまり1人の姿が見える。
「なかなか楽しかったぞ」
「勝者リリス!!」
「うおぉぉぉぉぉ!!」
「すげぇぇぞ!!嬢ちゃん!!」
「Sランクに勝ったのか!!」
パトロンの姿は見えない。
リリスがこちらに向かってくる。
「貴様の殺し方より悲惨なものにすると言ったろう?」
リリスが笑い掛けてくる。
「まさか跡形もなく消すなんて……」
「パトロン大丈夫〜?」
闘技場の隅で既にクロノスくんはパトロンを生き返らせていたようだ。
「俺は……負けたのか?」
「そだよ〜見事に負けたよ〜」
「そうか……でも楽しかったぜぇ」
──バタッ
パトロンは満足そうに大の字で寝た。
「次は貴様と決勝戦だ」
「そうだね」
僕らは闘技場に向かった。
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