第20話「みんな」

─クロノス王国最強武闘大会2日目


「準々決勝──開始!」

2日目は準々決勝からだ。僕の試合からだ。

そして相手は騎士団の騎士団長の人だ。

たしか名前は──


「グート・パーです。よろしくお願いします。」


「どうもレイシです。よろしくお願いします。」


僕はうちわを両手に作り出した。

騎士の人は腰の剣を抜いて構えた。


──ドンッ!


凄まじい音の踏み込みで一瞬で間合いを詰められた。



──パタッ


まあ、いなすけど。



──パタパタパタパタ


いなしながら舞ってるけどこの人隙がないな。

さすが騎士団長。


「強いですね」


「これでも騎士団長だからね」


いなし続けてるけど僕が押されてる……!!



──キーーン

片方のうちわが弾き飛ばされた。

これは予想外。



─バッ


僕はしゃがみこみ空いた手を地面に付ける

そして──



──颶風世界ウインドフィールド


「いやうちわで扇がんのんかい!!」


会場全体からツッコまれた。



地面から暴風が巻き起こり騎士団長を遙か上空に吹き飛ばし──


──ダンッ


僕は地面を蹴り騎士団長の側まで跳び─


「はは、私の負けだ」


バコーーン


うちわで地面に叩きつけた。


「勝者レイシ!!」


「うおぉぉぉぉぉ!!」


「レイシの兄貴かっこよかったぜ!」


会場が準々決勝らしい盛り上がり方をした。



「準々決勝2回戦目──開始!!」


次は剣聖とムジの取り巻きのレオンだ。炎使い。


「おいお前、手刀で炎に勝てるとでも!!」


レオンが火炎放射する。


──バッ


剣聖が跳びあがり炎を避ける。

そして空中で肘を引き手刀を構えた。


「さっきの試合で僕も感化されましてね。手刀ですが剣技を見せてあげます──流れ星。」


はやっ。気づいた時には剣聖はレオンの後ろに背を合わせるように立っていた。


──キラッ☆彡


剣聖の軌跡に流れ星のエフェクトが見えて──


「ぐはっ」


─バタッ


レオンが倒れた。


「勝者アストライオス!!」


「きゃーーー!!アストライオス様ーー!!」


「かっこかわいいーー!!」


相変わらず女性の黄色い声援が響き渡る。

僕次この人と戦うのか。なんかヤダな。

十中八九「キラッ☆彡」なんだけど。


あ!次はリリスの試合だ。僕は最前席でうちわを構えた。


「リーリース!!リーリース!!」


相手は瞬間移動を使う人だ。身なりはアルミホイルを頭に被ってアルミホイルの服を着た変な男の人だ。ソロネさんみたいにとんでもない距離の瞬間移動じゃなくて目に見える範囲のみの瞬間移動だ。


「準々決勝3回戦目──開始!!」


──カサカサ


「か、か、可愛い女の子ですね。た、たた、戦いづらいなぁー」


このアルミホイルの人強いけど気持ち悪いんだよね。カサカサうるさいし。


「くだらん。爆破魔法発動。」


──ドカーン


容赦ないな。けど─


──シュン


既にリリスの後ろに瞬間移動済みだ。


──ズバンッ


リリスが大きな黒い鎌を収納魔法から取り出し振った。


─あ、


「貴様のようなやつは行動パターンが単純なのだ。それは他の試合で把握済みだ。」


「しょ、勝者リリス!!」


「きゃーー!!」


「リリスちゃん容赦ねぇ……」


「リリスちゃんやり過ぎだよ〜」


クロノスくんが2階席から降りてくる。

そう。リリスはアルミホイルの男を上半身と下半身で真っ二つにしたのだ。

その後アルミホイル男は何事も無かったかのように去った。


「うちわ、弾き飛ばされたのに無事だったのだな」


隣に座ったリリスが言う。


「あれは一旦消して能力で新しく作り出したんだよ」


「そんな器用な──いや、キモ」


「リリスもいる?」


「いらん、それより次の試合を見るぞ」


次の試合はパトロンとボクサーみたいな人だ。いや服は動きやすそうな黒いスポーツウェアみたいなの着てるけど。構え方がそれっぽいんだよね。ボクシングわかんないけど。あとパンチの連打がめちゃくちゃ速い印象。


「準々決勝4回戦目──開始!!」


「てめぇは捌ききれるかぁ?」


パトロンは影の刃でボクサーを攻撃する。


「シュッシュッ」


交わしながら攻撃も入れてる。


「ほう。おもしれぇ。」


─ダンッ


パトロンは足で地面を踏みつけると─



──パリパリパリパリ


氷が地面を伝いボクサーを襲う。


──ダーンッ


ボクサーが地面を殴り氷を割った。


「おいおい影はどうすんだぁ?」


無数の影の刃が片手を着いたボクサーに襲い掛かる。だが──


──ダダダダダダダダ


これだ。片手でとてつもない速度の連打が叩き込まれ影が粉砕し─


─ダンッ


地面を蹴りボクサーがパトロンに向かう。


──ブシュッ


パトロンは影をやられたことで体から血を吹き出しダメージを負い、よろける。そこに─



ダダダダダダダダダダダダダダダダ!!


ボクサーが両手の拳を連打する。


「くっはっはっ」


「な!?」


ボクサーが驚いている。

パトロンにはダメージが入っていないのだ。


蓄積チャージだよ」


凄まじいエネルギーがパトロンの右手に集まっている。


ボクサーは後ろに跳ぼうとするが──


──ドゴーーーーーン


「勝者パトロヌス!!」


「うおぉぉぉぉぉ!!」


「なんだあれ!!かっけぇ!!」


「ボクサー相手に拳で勝ったぞ!!」


会場は絶賛の嵐だ。確かにすごい。能力の保有数もとんでもない。攻守共に可能。隙がない。


「ちょっと〜みんな殺しすぎ〜」


クロノスくんはまた降りてきた。


吹き飛ばされたボクサーを見ると腹に穴が空き貫通して死んでいた。

その後ボクサーは生き返ってパトロンに対ありしてた。


「リリスはパトロンに勝てそ?」


「正直に言う」


「うん」


「余裕だ」


まじか。あれを見て余裕と言えるのはさすがリリスだ。


「きゃーーーー!!」


「アストライオス様ーーー!!」


「がんばってーーーー!!」



「準決勝1試合目──開始!!」


今度は僕と剣聖だ。


「アストライオス・スターライトと申します。よろしくお願いします。」


「レイシです。よろしくお願いします。」


「君の戦闘スタイルはうちわで舞うことかい?」


「違います。あなたこそ指先伸ばして戦うのが好きなんですか?」


バッチバチだ。


「君がファルコン隊長を倒せたとは到底思えない。ただ─隊長は氷で凍らされたって言ってたから氷の能力かと思ったらおもちゃを作ったり風も出してたりしてたから君の能力には興味があるよ。」


「僕もあなたの剣には興味はあります。能力には別に興味ないですけど」


バッチバチだ。会場には緊張が走っている。「早く戦え」なんて野暮なことを言う人はいない。


「しかも君は隊長相手に本気を出してないらしいですね。」


「今回は本気でいきますよ?殺してもいいらしいんで。」


僕は刀を作り握る。そして構える。


「ええ。僕も本気でいきます。」


剣聖も腰の剣をようやく抜いた。そして構える。



──ドオォォォォォォ


お互い魔力がみなぎっている。そりゃそうだ。ようやく本気で戦える相手にありつけたのだから。


それでもまずは僕は片手を剣聖に向け──


──魔力砲


───ドゴオォォォォ


剣聖は横に避けこちらに向かおうとするが──


──氷凍世界アイスフィールド


──パリーーーン


闘技場が凍る。


剣聖は跳んで躱し空中で構えた。


──来る!

ダンッ

僕は跳んだ。


「流れ星」


──キラッ☆彡


「躱されましたか」


僕は空中で腰に鞘を作り刀を納め魔力を込める。

そした剣を振り無数の斬撃を飛ばす。


──魔力斬



「満月」


満月のエフェクトが出て斬撃を防いだ。

剣術だけじゃなく能力もあるからな。厄介だ。


「流星群」


僕の後方に無数の岩が現れ、高速で向かってくる。そして剣聖は僕の着地地点で待ち剣を引き構える。

突き技か。しかも流星群と挟み撃ち。


「甘いよ」


僕はそう言って手を後ろにやり、


「まさか念動も使えるんですか!?」


そのまま岩を剣聖に向かわせた。


「くっ」


そして僕も突きで魔力を飛ばし追い打ちをかけた。


──ドドドドド


剣聖は岩を破壊したが──


──ドッドッドッドッ


「くはっ」


僕の突き技をモロに喰らった。


「きゃーーー!!」


「アストライオス様ーー!!大丈夫ーー!?」


相変わらず黄色い声援が彼を心配している。

僕は後ろに回転し着地する。


「剣聖さん。僕はまだ本気を出せてませんよ。」


「くふっ、僕だって本気を出してませんよ。──土星!!木星!!」


輪っかのような円盤とその奥に巨大な緑の丸い霧が襲ってくる。そういう感じか。


僕は緑の霧に包まれ視界が悪くなる。

これでいつ来るか分からない円盤に襲われるわけね。

僕は地面に手をつき─


──颶風世界ウインドフィールド


──氷凍世界アイスフィールド


風で霧を消し、円盤を凍らせた。その直後─


「くはっ」


剣聖が目の前に現れ剣を振り下ろして来る。

想定済みだ。


──ドッ


僕は剣聖の腹を殴りひるませる。

剣聖は後ずさりし─


「なかなかやりますね。ふぅ。これは国王戦まで取っとくつもりでしたが──重力」


──ズオォォォォ


僕は剣聖の目の前に現れた赤黒い球体に吸い寄せられる。剣聖は剣先が後ろに向くよう構え魔力を込めている。


───まずいまずいまずいまずいまずいまずい



このままじゃ真っ二つにされる…死にたくない……死にたくない……死にたくない!!


僕は両手を目の前に出し─



───ドゴボドドゴゴドボドバドゴドゴ


「なんだ!?この──」


剣聖が驚嘆する。


目を開く。


「はぁはぁはぁ」


僕は地面を見ている……生きてる…良かった。

自分でも何をしたか分からないけど助かった。

目の前を見る。


──なっ!?


目の前全てがどす黒い。なんだこれ。僕が作ったんだろうけど。硬いどす黒いなにか。ドロドロしたものが固まったような。 その塊の中には刀のようなもの、岩、動物、人の顔、そんな感じのものが入り交じったものが目の前にある。


僕含め会場全体も唖然としている。


「しょ、勝者…レイシ!!」


なんだ?僕は勝ったのか?つまりこの塊の中に──




「きゃーーー!!アストライオス様ーー!!」


「た、助けないと!!」




「はーい。みんな落ち着いて〜。」


クロノスくんが降りてきた。


「レイシくん、これ、解いてくれる〜?」


「あ、は、はい…」


僕はどす黒い塊に触れて消した。


──剣聖の姿がない。いや、奥の壁に血がこべりついてる。



──僕が殺したのか?



──いやだってあっちも殺そうとしてたし、





──殺す必要があったのか?




「大丈夫だからね〜」


───チッチッチッ


壁に剣聖がもたれかかっている。


「は!?僕は!?……生きてる……?」


「生き返らしたんだよ〜」


「そうか。僕は1度死んだのか……」


──タッタッタッ


剣聖が僕の方に歩いて来る。僕が殺した男が…?

僕は目を逸らし右下を見ている。


「完敗だよ。僕の負けだ。」


剣聖は手を差し出している。


僕は弱い力で握った。剣聖は強く握ってきた。


「その……ごめん。」


「僕が間違ってました。ファルコンさんの言う通りあなたは強い。……僕に勝ったんだ。絶対優勝してくださいよ?じゃないと僕があなたを殺しますからね!」


「うん。」


剣聖は去った。僕はその場に立ち尽くしている。

切り替えろ。切り替えろ。これまでの試合でも人が死ぬのを見たんだ。それが1回増えただけだ。それが自分がやってしまっただけだ。これまでだって命を奪うことは散々あったろ!!今回は生き返った。まだマシじゃないか!だから切り替えろ!!切り替えろ!!切り替えろって……!!切り替えろよ……僕の心…。


──パンッ!


「いて」


背中に痛みが走る。クロノスくんが僕の顔を下から覗き込んでくる。


──にこっ


クロノスくんが僕に笑い掛ける。


「大丈夫だよ〜。時間を巻き戻したんだから彼は死んでもないんだ。だから君は殺してない。」


「そうかな。」


「そうだよ〜。あのね、レイシくん。例え君がこの大会以外で人を殺したとしても、全くの無実の人を殺したとしてもね、僕は君におんなじ笑顔を向ける。」


──にこっ


「こんな感じでね。だって僕は君の友達だからね。あとね、僕は昔大切な人を自分の手で殺したことがあるんだ。生き返らせることは許されなかった。でもねそんな時でも僕のパーティーメンバーは笑い掛けてくれたんだ〜。だからほら君も笑いな〜。」


──パンッ


「いて」


今度はアマテラス。


「大丈夫!!ほら元気出して!!レイシかっこよかったよ!!あと、いつも命を掛けて戦ってくれてありがとう!!僕は君が笑ってる顔が好きだよ!!」


──パンッ


「いて」


リリスまで。


「そんなので次の決勝戦えるのか?次戦うのは私だぞ?これからパトロンをぶっ殺すからな!貴様の殺し方より悲惨なものにしてやろう」


「それと……これは特別だぞ?」



───にっ


──ああ、その笑顔は……アリスと同じ─



僕は涙をこらえ─


「みんなありがとう。僕が優勝する。」


──そう言って歩き出し、最前席に座り、うちわを持った。




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