第18話「第1回戦」

──クロノス王国最強武闘大会当日闘技場にて




開会式で選手がみんな闘技場に集められた。


2階席と言うべきか…高い位置に作られた国王専用の席でクロノスくんが開会宣言をする。




「やあ諸君!今回もこのクロノス王国最強武闘大会に参加してくれてありがとう。充実な2日間を過ごせることを願っている。」




この武闘会は2日間で行われる。一日目は10回戦目くらいまで行って、2日目は準々決勝から行われる。というかクロノスくんがハキハキ話しててちょっと感動する。




「220年前の『人魔大戦』において僕は魔王を倒し英雄となった。昨今魔王が復活し、各地で魔王軍による被害も見受けられるようになった。近い将来、第二次人魔大戦が起こるだろう!その英雄が君たちの中に現れるかもしれない!自分の実力を試しに来た者、証明しに来た者色んな者がいるだろう!存分にその実力を発揮してくれ!優勝者には莫大な賞金と僕と戦う権利を与える!ここにクロノス王国最強武闘大会の開会を宣言するっ!!」






「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」




この会場にいるほぼ全員が雄叫びをあげる。


その後僕はシードでしばらく試合がないので最前席で観戦することにした。他の選手の戦い方を見て参考にしたり対策を考えたりしようと思う。


1番はリリスの応援だけど。昨日の夜にリリス応援用うちわを作ったのだ。10本ほど。1人2本ずつで僕とアマテラス、クロノスくんとソロネさん、フィルさん。


国王が特定の誰かを応援していいのかって?


いいんです!一部の選手は分からないけどクロノス国民はクロノスくんをとても尊敬しているからね。なんでも許してくれるらしい。どうにも─いやこの話はいいか。




「第1回戦1試合目──開始!!」




1回戦1試合目は……あれ?あの白いコート……ムジだ!




相手は標準的な体格の男。お?なんだ?何かをを飛ばしてる!




「効かねぇよ」




ムジが能力を無効化した。無効化するまでの時差的に風の斬撃を飛ばしてたっぽいな。


そのままビビる男にムジはゆっくり近づいて──




──ガッ




首を掴んで持ち上げた。




「ぐっ、降参だ」




「勝者ムジ・シライシ!」




ムジが勝った。周りの選手……特に能力者は唖然としている……確かにこの日のために能力を鍛えてきた者にとってはムジは心を折る怪物でしかない。彼に勝つには圧倒的な能力センスか肉体的鍛錬が必要だからね。


こんな感じで1試合に要する時間は基本的に短い。能力を用いた戦いは相性で勝負が決まることも多い。さっきのムジの相手の能力もムジくん以外なら通用したし、普通に強い。


ちなみにこの大会……物騒なことにどんな物も持ち込み可能で殺しもOKらしい。死んでも生き返らせるから大丈夫!ってクロノスくんが言ってた。


降参か戦闘不能で勝敗がつくらしい。




その後1回戦の試合をいくらか見て──




「きゃーーーーー!!アストライオス様ーー!!」




観客席にいた多くの女性が一斉に叫びだした。


あれが北斗七星二番星で剣聖アストライオス・スターライト。




「おい、前の方で見ようぜ」




「そうだな、Aランク冒険者…しかも2位の戦いなんてそうそう見れねぇ」




後ろにいた観戦の男2人が話してるのが聞こえた。


Aランク冒険者2位ってファルコンさんとアストライオスさんで……1つの国で1位2位独占してんじゃん。どれだけ強いんだろう。




闘技場を見るといかにも冒険者って服装の屈強な男と夜空柄のコートを来たイケメンがいた。髪は藍色でサラサラ。


前髪は長めだが清潔感を感じる。前髪の間から覗く瞳には宇宙が広がっているような色でまつ毛は長い。女性ファンが大勢いるのも頷けるビジュだ。


そして左腰には白ベースで金の縁の鞘に入った立派な剣を携えている。




「第1回戦12試合目──開始!!」




「チッ、チャラチャラしやがって」




相手のいかつい人が苛立っている。




「嫉妬しないでください。そんなことをするために武闘大会ここに来たわけじゃないでしょう?あと、僕だってモテたくてモテてるわけじゃありませんから。」




あ、これ相手さん絶対キレるでしょ。




「その態度がムカつくんだよォ!!」




──遠隔発動の能力!!強い!


剣聖の上に無数の岩が現れた。


そして岩の落下と共に屈強な男も距離を詰めるため走りだした。




「残念です。これと同系統の能力は北斗七星に既にいます。対策済みです。」




──あれは……手刀!?




屈強な男が殴りかかり、落下した岩がもう当たるというところで──






──ズバンッ!!




岩は既に粉々になるまで切断された状態で、屈強な男は無数の手刀による打撃を受け──






──吹き飛んだ。






ドゴーーーーン






なんだあの男。能力を使わず、1歩も動かず手刀だけで全てを粉砕した。




「勝者アストライオス・スターライト!!」






「きゃーーーー!!かっこいい!!」




「アストライオス様ーーー!!」




黄色い声援が闘技場に響き渡る中、それを見ていた選手たちは僕も含め驚愕していた。そしてこの男が優勝するのではないかと思うものもいただろう。それほどまでに圧倒される試合だった。




この人が勝ち続ければ僕は準決勝で対戦することとなる。でもなんか……戦いたくないとか怖いとかそういうのは無くて…正直ワクワクしている。


僕も早く試合がしたいな。




その後もしばらく試合を見た。ムジの取り巻きも参加していて3人とも勝ってた。


あ、そういえばアマテラスと一緒にいないのはなんでかって?


アマテラスはフィルさんのとこにいるんだけどフィルさんがいるのは運営席だから選手の僕がいるのはさすがにまずいと思って1人で最前席で試合を見ることにしたんだ。そんな感じで第三者に何かを教える妄想をしていると─




──来た!!




僕は膝の上に乗せていたものを握り振りながら叫ぶ。




「リーリース!!リーリース!!」




「リーリース!!リーリース!!」




「リーリース!!リーリース!!」




アマテラスにフィルさん、クロノスくん、ソロネさんまで!?


一緒に応援してくれてる。


闘技場にいるリリスがこっちを向いてくれた!


片方のうちわに「こっち向いて♡」ってデコってて良かった!!




「キモ」




え?キモいって言われた。しかもめちゃくちゃ嫌そうな顔してる!!けど!!そこもいい!!




相手は超絶ガタイが良くて鎧を着てる男だ。でもリリスには魔法がある。大丈夫だよ。落ち着いて。






「第1回戦20試合目──開始!!」




「ふんっ!!」




バコーーーン!!




リリスが男を鎧ごと拳で吹き飛ばした……


めちゃくちゃキレてる。




「しょ、勝者リリス!!」




「リーリース!!リーリース!!」




僕以外の声援が飛び交ってるけど─




やべぇ、リリスがこっち睨んでる。




「次は貴様だ」




こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい




──シュンッ




あ、転移魔法で僕の隣に──






──ドゥン!




「うっ、」




みぞおちを思い切り殴られた




──グリグリグリグリ




「ま、ま゛っでリ゛リ゛ス゛。み゛ぞお゛ち゛が貫通ずる゛……」




「貴様、夜にゴソゴソしていると思ったら、こんなくだらん物を作っているとは──しかも自分だけでは飽き足らず、他の者にも配るとはな──」




ようやく拳をおさめてくれた。




「ごめん。もうしない。」




「ふん。分かればいいのだ。」




スッ




リリスが僕の隣の席に座った。




「さっきまでどこにいたの?」




「待機所で他の奴らを見ていた。まあ貴様と違って1回戦に出るものは皆待機せねばならんかったからな。」




「ほえーそうなんだ。」




「まぁ面白そうな奴は特にいなかったな。やはり私はパトロンとやらが少し楽しみだな。」




「剣聖アストライオスって人はどうなの?」




「所詮2位だろう。興味無い。」




「わお辛辣。その理論ならSランク冒険者はクロノスくんが最強だからパトロンも2位以下になると思うけど。」




「……う、うるさい」




「ごめん。」




「そういえばSランクとAランクの違いって聞いた事ある?」




「強さ」




「それもそうだけど……明確な差があるらしくて───」




僕はAランク試験のあとクロノスくんと話したことを思い出した。






──ねぇレイシくん。SランクとAランクの違いって分かる〜?




ファルコンさんでもSランクになれない。ファルコンさんとクロノスくんの違い。対面力ならファルコンさんも負けてない。ファルコンさんの国の国王はSランク……




──権力とか地位かな?




──あはは!そんな闇深くないよ〜。他にもあるけど明確なのは──






「規模だって。1国を滅ぼせるほどの規模があればSランクになれるっぽいよ。」




「ほう。ならば私はSランクになれるな。」




「まあ、そうだと思う。あとSランクになったら2つ名が付けられるらしいよ。」




「迷惑な話だな」




「クロノスくんの2つ名は『時の支配者』だって」




「ふふっ面白いな、あの見た目でか?」




「本人もちょっと引き攣りながら言ってた。」




「パトロンは『殺戮の無辜』だって」




そんな会話をしながら試合を見ていた。




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