第16話「なんだかんだ言ってお兄ちゃんは弟のことが心配なんだよ」
───冒険者ギルド内にて
僕たちはギルドの丸机の周りの椅子に座っている。
僕は机に突っ伏して─
「依頼がなーーい」
「ふん、私も最近戦えてなくて欲求不満だ」
「今日は休みでいいんじゃない??」
依頼がない。この前のドラゴンがダンジョンに出現したことで王都周辺のダンジョンが調査されることになり一時的に封鎖されたのだ。
その影響で一気に依頼を受ける冒険者が増えて依頼が無くなったのだ。
「休みか…確かにここ最近休んでなかったね」
「ふん。休みなど必要ない……と言いたいところだがアマテラスが言うなら休みでいいだろう。」
リリス、アマテラスのことを気に入ってるようだ。
アマテラスは言動が幼いから甘やかしたくなる気持ち、すごく理解わかる。
「僕ね!スイーツの食べ歩きしたい!!」
「いいんじゃない?」
「ふむ。ならば夜はバーに行こう。」
リリスが自分から行きたい場所を言うのは珍しい。
「そうだね。バーも行こう。じゃあこのまま──」
──シャランシャラン
ギルドの入口の扉が開く。
今は依頼がないのに人が来るなんて──
なっ!?
嫌な連中が来た。
「お、いたいた。」
白いコートの男を先頭に後ろには3人の男がいる。
「民間異能治安維持特殊部隊……」
「お?長い名前覚えてくれてたのか…いや、俺らが自己紹介してなかったのか」
「依頼ならないですよ。なので帰ってください。」
「おいおい、俺らはお前たちに会いに来たんだよ。」
「なぜ?」
「その……この前の件でな…この前は─」
───すみませんでした!!
え?4人の男が頭を下げて謝っている。
「いや、全然気にしてないですよ」
ボコボコにしてスッキリしたし。
「その…この前はお前らの会う前に色々あって気が立ってたんだ……いや言い訳だな…悪かった」
「ああ、でもホントなんだ!リーダーは兄貴に酷いこと言われた後で……」
赤髪の男が補足する。
「いや、お前その話はいいって──」
兄貴……この白い男には兄がいるのか。
僕はお兄ちゃんが頭に過る。
「話を聞かせてもらっていいですか?あ、いやその前に自己紹介をしましょうか。僕はレイシ。こっちの黒い服の子がリリス。着物の子がアマテラスです。」
「ああ、俺らは一方的だが知ってるよ。俺の名はムジ・シライシ。この赤いのがレオン・バーン。水色のがヒエル・ライ。オレンジのがダイ・ストンだ。あとタメ口でいい。」
「うん。よろしくね。」
「ああよろしく頼む。それで兄貴のことだが……いや、まず知って欲しいことがある。俺と兄貴は異世界から来た転生者だ。」
ムジが真剣な表情で言う。
「異世界から来た転生者?どうやって来たの?」
確かに黒髪黒目は珍しいと思った。
「明確には分からないが…あっちの世界で家族と乗り物に乗っててそれで事故ったと思ったらこっちの世界にいたんだ。それで魔力も能力も持ってて……」
取り巻きが頷きながら聞いてる。
なるほど。「あっちの世界」では魔力も能力もないのか。どっちの世界かわからんが。
「ふむ。これもまた運命というやつか。」
リリスがよく分からないことを言う。
「貴様の兄の能力はなんだ。」
「元々は俺と同じ能力だったんだ。だけど覚醒して…」
能力の覚醒…クロノスくんが話してたような…たしか能力を極めて突き詰めていく中で新たな解釈ができたり、能力者が極度のピンチに追い込まれ死の淵に立たされたりした時に覚醒するらしい。
「ほう。どんな能力だ。」
「もうあれは能力の域を出てる。兄貴の力は『全てを虚無に帰す能力者』だよ。あの力で兄貴はヴァニタス帝国の国王にまで上り詰めたんだ。」
ヴァニタス帝国はファルコンさんがいる国の──
「ふむ。その能力クロノスに聞いたことがあるぞ。あらゆる事象を無かったことにできる能力だな。」
「ああ。それで俺は兄貴と無理やり離されて─」
「それでムジのお兄ちゃんはこの前なんて言ってきたの?」
「リーダー、言いづらいなら俺らから言うぜ?」
「そ、そうだよ、レオンに任せてもいいと思う。」
「うむ」
取り巻きが心配している。好かれてるんだなムジは。
「いや、俺が言う。心配してくれてありがとな。あの日兄貴にダンジョンにドラゴンが現れてそれを討伐しに行くことを伝えたんだ。そしたら『お前みたいな弱者は竜すら殺すことなどできん。どうせ仲間を守ることもできず目の前で一人一人殺されていくのを眺めているだけなんだ。何も出来ない雑魚なんだよお前は。治安維持?そんな価値のない命を助けて何になる?意味が無いんだよ。お前の人生と一緒で。冒険者なんて辞めて辺境の村でせこせこ子供でも作っていればいい』って。それで腹が立ってお前たちに当たってしまった。」
ん?言い方こそ酷いけどそれって──
「君のこと心配してくれてたんだよ。君のお兄さんは。」
「へ?なんで今の話聞いてそうなる。」
「君とドラゴンが戦うのを阻止しようとして。君が生きてて欲しいから治安維持とか冒険者とか辞めさせてどこかの村で幸せになってほしいってことじゃない?」
「いやでも──」
「君のお兄さんヴァニタス帝国でしょ?魔王軍と最前線で戦ってる国じゃん。君を遠ざけたのも君が自分と同じ危険な目に遭わないように、君を守ろうとしてくれてたからじゃない?」
「ああ、そういう事か、ああ」
ムジは全てを理解して声を上げて泣き出した。
ほかの3人が優しくなだめていた。
しばらく経って──
「俺、兄貴に謝罪と感謝をしようと思う。あの後強く言い返してしちまって。1人じゃまだ勇気が出ないからここで連絡しようと思う。」
その後ムジは通信ができる指輪型の魔道具で通話し始めた。
ムジが謝って、自分を心配してくれてたことを伝えて感謝を伝えていた。その間お兄さんの声が聞こえて─
「は?ち、ちげぇし!そんなこと思ってないし?」
面白いなと眺めていたら
隣でリリスが「んー!!」と顔を赤くして両手で頬を押さえて恥ずかしそうにしてた。
これが共感性羞恥か。
リリスもこのお兄さんと似てるとこあるもんなぁ。
そして通話が終わり──
「なんかお前らに謝りに来たつもりがまた世話になっちまったな。」
「リーダーをありがとうな。俺らからも礼を言わせてくれ。」
「ああ。」
「うむ。」
ムジも取り巻きも満足そうな表情だ。
「全然大丈夫だよ。お兄さんとのすれ違いが解決して良かったよ」
「ありがとうな。俺らはそろそろおいとまするよ。お互い強くなってまた会おうぜ。今度はタイマンでも勝てるぐらい強くなっとくぜ!」
「うん!またね!!」
お互い手を振り合い、彼らはギルドを後にした。
あれ?アマテラスは?いつからいない?
「うぅーこれも美味しい!!」
「うふふ。良かったわ」
あ。受付の巨乳のエルフのお姉さんの膝に座り頭を撫でられながらお菓子を食べてる……羨ましい!!
僕はそちらに向かい──
「すみませんうちの子が…」
「うふふ、全然いいのよ。この子可愛いわねぇ。」
「ほら、アマテラス行くぞ〜」
「えーやだ!もうちょっとここにいる!!」
「スイーツの食べ歩きに行くぞ〜」
「あ!行く!!」
──バッ
お姉さんの膝から勢いよく降りた。
「私もいいですか?」
「え、受付のお姉さんもですか?」
「今日は暇だからねぇ。他の方に任せても問題ないと思うわ。」
「ええ!全然大丈夫ですよ!たまには休んでください!!」
奥の方で職員さんたちが声を張って言ってる。
「それじゃあお言葉に甘えて。ありがとうね。あ、それとレイシさん?私の名前はフィルです!覚えてもらえないと悲しいですよ?」
「うぅ、ごめんなさい。」
それから4人でスイーツ食べ歩きを満喫した。
「このソフトクリーム美味しい!!お姉さんもあげる!」
「あらあら、ありがとうねぇ。」
アマテラスがフィルにソフトクリームの間接キスをしている。それを眺めていると──
「ん」
リリスの食べかけのソフトクリームが目の前に出される。
「え?」
「ん!」
ああ。そういうことか。
──あむ
一口貰った。
「おいしいね」
「き、貴様のもよこせ」
僕らは味一緒なんだけどなぁ。
「はい」
──はむ
「どう?」
「一緒だな」
「そりゃね」
「けど」
「ん?」
「こっちの方がおいしい」
リリスがいつもと違う可愛らしい笑顔を向けてくる。
なんかドキドキするんですけどおぉ!?
そんな感じでスイーツの食べ歩きをした後、僕らはバーに行った。
「アマテラスちゃん飲めるの!?」
フィルさんが驚いてる。そりゃ見た目で言ったらアマテラスは幼女だもんね。
「僕は大人だからね!これくらい飲めるよ!!」
「そんなところも可愛いわぁ」
フィルさんアマテラスにゾッコンだ。
そして僕らは飲んだ。
「ふぃりゅ〜」
アマテラスが隣の席のフィルの腕に頬ずりしてる。
「は!?アマテラスちゃんっっ!!」
─ガバッ
フィルさんがアマテラスにがっしり抱きついてる。
ここバーだよ?
「んー!」
「まじか」
「わらひりゃ、らめ?」
リリスが頬を赤らめて上目遣いで両手を広げて──
こんなの我慢できないーーーー!!
ガバッ!!
「えへへ」
やばい可愛すぎる。しかも体はアリスなんだよな。
あーもうやばい。このままこんな日が続くのはまずい。早く魔神を倒さないと!!
「あのーお客様──」
バーの店主は困っていた。
その後宿に2人を運ぶのをフィルさんに手伝ってもらった。
フィルさんがアマテラスを、僕がリリスをおぶって運び、ベッドに寝かした。
「わざわざここまでしていただきありがとうございます。」
「いえ、こちらこそご一緒させていただきありがとうございます。楽しい時間を過ごせました。」
「アマテラスが迷惑かけませんでしたか?」
「全然。すごく素直で可愛らしい子ですね。とても良いパーティーだと思います。これからも頑張ってくださいね。」
「はい。2人ともすごくいい子で頼りになっていつも助けてもらってます。」
「2人とも幸せそうな寝顔ね」
「そうですね」
その後フィルさんを送って帰った。
───こんな日常が続けばいいなと心の中で思った。
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