第11話「Aランク冒険者試験と対面最強おじさん」

Bランク試験翌日午後、冒険者ギルドにて




結局翌日に試験を受けることになった。


なにせBランク試験でBランク最強を倒すのは前代未聞らしく、これはAランク試験も面白いことになるかもしれないとギルドの人と世紀末の人達が騒ぎ出し新聞屋に伝わり王都中に広まった。


それで観客も集めたいとなり今日行うことにしたらしい。


まぁ集金目的もあるのだろう。




もう1泊王宮に泊めてもらった。


というか急に連れ出されたから1文無しなのだ。


クロノスくんはずっと王宮に住んでいいと言ってくれたがさすがにそれは申し訳ないと思いつつ、もうしばらくは居させてもらおうと思う。


早く稼がなければ。


昨日の午後、クロノスくんとソロネさんは夜まで王宮に帰ってこなかった。


この国が治めている辺境の村まで魔王軍の魔族を倒しに行っていたらしい。


僕も同行させてもらおうとしたけど「連れて行きたい気持ちもあるけど明日に備えてて!」と断られた。




ギルド内には多くの人が集まっている。


冒険者に一般の人、取材に来た人。


大半がAランク試験の観客だ。


ここまで1試験で人が集まることは異例らしい。


僕は修行の成果を出すだけだ。


それだけに集中しよう。




──シャランシャラン




冒険者ギルドの入口のドアの上部についた鈴がなる。




「あ、あれは…」




「もしかして今日の試験官って……」




「ファルコンさんだ!!」




「え、ファルコンってAランク最強の!?」




冒険者ギルドが一気に騒がしくなる。




Aランク最強……とんでもない人と戦うことになりそうだ。




「お?君だね?今日の試験を受ける子は」






「いえ、この子は違います。」






親が子を引き寄せ庇うポーズをしてる。


あ、間違えてる。というかあんな小さい子が受けるわけないでしょ!






「おっとっと。ごめんね。」




謝ってる。




そして僕と目が合った。


ドスドスと音が出てるんじゃないかと思うほどずっしりとした歩き方で近寄ってくる。


でかい。


僕の頭のてっぺんがその男のみぞおちぐらいだ。


体格はガッシリとしており、迷彩柄の軍服を来ている。


髪は黒。瞳は茶色。肌は褐色。顔には複数の傷があり、歴戦の猛者という感じだ。


輪郭は四角形に近く顎には髭が生えており、髪型はツーブロック。


マッチョのイケオジだ。




「君が受験者かな?」




「はい。よろしくお願いします。」




「私はヴァニタス帝国北斗七星一番星兼対魔王軍特殊能力部隊隊長のファルコン・デネホンだ。よろしく。」




ヴァニタス帝国…最北端にあり、1番魔王城に近い国。今もこの瞬間魔王軍と戦っている。


その部隊の隊長がわざわざここまで来たのか?


戦場はどうなるんだ?




「ここに来て大丈夫なんですか?」




「ああ、一時的に暇になったんでな。」




と後ろを向いた。僕もその方を見ると…






──ヒュッヒュヒュッヒュヒュー




口笛を吹いてるクロノスくんがいた。


理解した。昨日の件で僕と共に対戦相手にも期待が高まっているから最高の相手を用意したわけだ。


魔王軍と戦ってるとこに急に現れて勝手に魔王軍を一掃してきたんだろう。


その代わりに暇になった軍の隊長を連れて来たわけだ。




「あはは、大丈夫だよ〜。レイシくんなら勝てるよ。たぶん…きっと…」




クロノスくんは目を逸らした。


まじか。やってくれたなこの人。




「まあそれじゃあまた後でな!」




ファルコンさんは闘技場の方へ向かった。






スタ、スタ、スタ




ソロネさんがこちらに歩いて来た。




「あの方、ファルコン・デネホンさんはAランク最強でありSランクを除く1対1の戦闘で負けなし…対面最強と呼ばれています。その最強たる所以は圧倒的な戦闘経験による戦術、また鍛えられた肉体に上乗せされる超高出力による魔力の身体強化です。基礎の暴力と言えるでしょう。ですがこの人──」










闘技場に入った。


既に真ん中辺りにファルコンさんは立っている。


遠目で分かる。凄まじい威圧感。






──ブワッ




僕は歩きながら周りの人に恐れられないように抑えていた魔力を解放する。




「え、さらに増えるのかよ」




「こんな魔力見た事ない」




「おいおいこれは楽しみだぜ」




観客の期待はどんどん高まっている。


視線が心地良くすら感じる。




「ふふん♪」




クロノスくんは自慢気だ。




僕も真ん中あたりに着いた。




審判も近くに寄ってきた。




僕とファルコンさんの間に手を伸ばし、




「準備はいいですか?」




「ああ」




「はい」








「レディ…」






──ダッ


──スタッ






僕とファルコンさんは後ろに跳び距離をとる。










「ファイト!!」






僕はもちろん…








ドゴーーーーー




魔力砲で先制する。








「ふはは、魔物じゃないんだから。」




確かにこんな単調な攻撃魔物みたいだろう。


ファルコンさんは笑いながら両手を平行にして防御している。油断している。






「はあぁぁぁああ!!」




僕はさらに魔力砲の威力を上げた。






──ズザザザ




ファルコンさんが後ろに押される。




「はあぁぁぁああ!!」




さらに威力を上げる。




「まじか」




ファルコンさんは驚いた表情をした。




そして─








ドゴーーーーーン






闘技場の壁にぶつかった。




「うおぉぉぉぉ!!」




「ファルコンさんを吹き飛ばしたぞおぉ!!」




観客が盛り上がる。




ズドーーーー






僕は魔力砲を放ち続ける。


あわよくばこのまま抑えつけて勝つ。


少しでも消耗させる。


僕はどれだけ魔力を使っても疲れないからこのまま優位に立たせてもらう。






「く、はは」




壁に打ち付けられながらファルコンさんは笑っている。




──ダッ、ダッ




ファルコンさんは足を地面につけ、






ダッダッダッ




魔力砲の中を走ってきたまじか。




僕はすぐさま魔力砲をやめ振りかぶった。




そしてファルコンさんも振りかぶって






拳がぶつかった。




──グオーーーーーン




それだけで闘技場が爆音と衝撃に包まれる。






───ググググ






僕とファルコンさんが拳を押しあっている。


けど僕の方が押されて──






──ドカーーーーン






今度は僕が壁にぶつかった。


さすがに単純なパワーじゃ負けるか。






「はっはっはっ、すごく面白いなレイシくん」




闘技場の真ん中でファルコンさんが笑っている。




「今ので分かった。君はAランクにふさわしい。合格だ。」






「うおぉぉぉぉ!!」




「え、早くない?」




「史上最年少のAランクの誕生だあぁぁ!!」




観客が舞い上がる。




「ふふん♪」




クロノスくんは自慢気だ。




「では試験の方を──」




審判が終了の合図を出そうとしたが




「ああ、試験は合格でいい。だが──」




「もっと戦っているところを見たいだろう??」




ファルコンさんが大声で観客に問いかける。




「うおぉぉぉぉ!!」




「見たーーい!!」






観客が答える。






「審判」




ファルコンさんが審判に目を向ける。






「レイシさんもよろしいですか?」






「はい。もちろん。」




僕は瓦礫の中から出て闘技場の真ん中に歩いて戻る。






「ではどちらかが降参するか戦闘になるまでの対戦を行います!!」






「準備はいいですか?」




「ああ!」




「はい」






「レディ……」




──スタッ






そしてまた後ろに跳ぶ。










「ファイト!!」








──ドゴーーーーー




やはり先制は魔力砲!!




「2度目はきかんよ」






ファルコンさんは横に避けこちらに向かってくる。


僕は魔力砲を撃ちながら作った刀を構える。


今度は木刀ではなく真剣だ。




そして斬りかかる。






「なっ!?」




ファルコンさんは一瞬驚いたが腿に備え付けてあるサバイバルナイフを逆手に取り対抗する。








──ギギギギギ






刀とナイフがぶつかり金属音が鳴り響く。


今度は僕が押している。


まだいける。






「ふっ!!」






───キンッ




ナイフの刃を斬った。そのまま腕に力を込め腰を捻り斬りかかる。


この人の身体強化なら真っ二つということにはならないだろう。




───ガガガガガ






なにかで刀が止められている。


これは糸!!


いつの間に…






ファルコンさんは前のめりになり両手をクロスさせ金属製の糸で刀を巻き付け止めている。




「この刀は能力で作ったんですよ」






「なっ!?」






刀を消し体勢が崩れたところで脇腹に拳を打ち込む。だが──




──グッ




片手で拳が受け止められ防がれた。


なんて反射神経。




だがもう片方の掌をファルコンさんの顔の前に出し








ドゴーーーー






魔力砲を放つ。






スタッ




既にファルコンさんは後方に跳び回避していた。


避けられたか。だがあの距離で放てばさすがにダメージが入るんだな。


僕はすぐさま刀を作り握る。






ファルコンさんは片手を後ろに回し──




な!?ピスト──




パンッパンッ






キンキン




銃弾を切り落とした。


距離をとっても戦える手段を持っている。


厄介だ。


僕は肘を引き刀の先端がファルコンさんに向くよう構える。




「この距離で刀はきつ──」






ドスドスッ




「うっ」




「レイシさん……さすがです」




ソロネさんに教えてもらった突き技。その応用。


刀の先端に魔力を圧縮し飛ばす。






「まったく、脳筋なのか器用なのか」




ファルコンさんは余裕そうな表情をする。




「こちらのセリフですよ」




純粋な身体強化での強烈なパンチに金属の糸を使った拘束、さらにはピストルまで。


単純なパワーからすごく器用なことまで…ほんとにとてつもない人だ。


だけどソロネさんの言ってた通り、






「無能力者なんですね」






「おっと、さすがに気づかれちゃったか……」






「能力部隊隊長が無能力なんて…」






「失望したかな?」






「いえ、本当に凄いです」




ファルコンさんは驚いた表情を浮かべる。




「無能力者相手でも、全力でいきます」






「ああ、そうしてくれ。そっちの方が公平フェアだ!」






お互い構える。








──ダッ






ファルコンさんはすごい速度でこちらに向かってくる。




──スゥー……ハァー




深呼吸する。






───本気でいこう。修行で身につけたことの1つでこの技がある。大丈夫。




クロノスくんの方に横目をやる。頷いた。


ソロネさんがコロシアムの観客席に透明な防御の壁を生成した。






──ドクン………ドクン……




全てがスローに感じる。






──ハァー




僕は冷えた息を吐く。


ゆっくりな時間の中。僕は地面に掌を置いた。そして──














───シャリーーーーーーン






僕の前方が全て凍り、巨大な氷壁が出来上がる。


ファルコンさんは氷壁に閉じ込められ動かない。




これが新技「氷凍世界アイスフィールド」。




「勝負あり!!勝者レイシ!!」




クロノスくんの隣に避難させられた審判が叫ぶ。






「うおぉぉぉぉ!!」




「あのファルコンさんに勝ったぞぉぉぉ!!」




「Aランク最強の人より強いってこと!?」




「すげえぇルーキーが誕生したぞ!!」




観客が今日一盛り上がる。




「ふふん♪」




クロノスくんは自慢気だ。






──バキーーン




氷壁の中からファルコさんが出てくる。






「さ、さみーーー」




と言ってるが無傷だ。




「出ようと思ったらいつでも出れましたよね?」




この人明らかにわざと負けてくれた。




「いやいやレイシくんこそ観客のこと気にして威力下げたでしょ?なんならもっとすごい技あるんでしょ?」




「あはは、バレてましたか」




ソロネさんの防御は範囲を広げた代わりに耐久力が低くなってるからあれ以上の威力は観客に危険が生じそうで怖かったからね。


それでもファルコンさんにダメージが与えられたかは分からないけど。






「負けは負け。勝ちは勝ちだ。君は誇っていい。君ならSランクにも手が届くかもしれない」




「精進します」




「ありがとう。楽しかったよ。やっぱり若さっていいなぁ!!」




「こちらこそありがとうございました」




──グッ




お互いに強く握って握手した。




「いや〜2人ともおつかれ〜おじさんいいモノ見れたよ〜」




クロノスくんたちが観客席から降りて来た。




「おうおうクロノスさんよぉ、今回の件うちの国王にどう報告すればいいんだ。あぁん?」




ファルコンさんが冗談交じりにクロノスくんに圧をかけてる。




「まあヴァニタスも変なやつだけど大丈夫でしょ〜。プライドは高いけど常識はあるし」






「まあそうだな。あんたよりかは常識があるな!まったく、急に現れたと思ったら魔王軍消し飛ばすし、俺のことは誘拐するし……だが!すごく楽しかった!!ありがとな!」




いい人なんだな。というか交渉もせずにこの人攫ってきたんだ。クロノスくんこわっ。






「あはは〜。楽しければOKだよ〜。無能力でここまでできるなんてほんとにすごいね〜。能力があったら絶対Sランクだったよ〜」




「いや、俺は無能力で良かったと思ってるぜ。あんな癖強連中のSランクなんかこちらから断らせてもらうぜ。むしろ強い体に産んでくれてありがとうって母親に感謝してるぜ!」




という冗談をクロノスくんに言ってるファルコンさんの目はどこか遠くを見てる気がした。




「じゃ、そろそろ帰る?」






「ああ、帰してくれ。」




そしてクロノスくんはファルコンさんに触れて元の場所に帰した。




「レイシさん、ソロネは感動しました。私が教えた突き技をあのように応用するなんて…」




わぁお。ソロネさんがここまで表情が変わるなんて。






「ふむ。なかなか面白かったぞ。今なら五大元素竜くらい余裕だろうな」




リリスが素直に褒めてくれた。




「ありがとうリリス。」




「んじゃあ僕らは仕事にいくね〜。改めておめでとうレイシくん。これでアリスちゃん復活に近づいたね!」




「うん。ありがとう!クロノスくんたちも仕事頑張って」






その後冒険者ギルドで手続きを済ませ新聞記者とか諸々の取材に答えた。




同日夕方






なんか観客とかいろんな人から急で渡すものないからとたくさんのお金を貰ったからリリスと晩御飯を食べに行くことにした。




クロノスくんとソロネさんも誘いたかったけど仕事が忙しいのか連絡が取れなかった。




夜になるまで歩き王都の端にある崖の上のレストランまで行った。




「ここのレストランにしよう」




「私はどこでもいい」






レストランに入った。


カップルが多いみたいだ。




「やっぱりやめとく?」




「言ったろう。私はどこでもいいと。」




「じゃあここで」






「予約されてますか?」




受付の人が尋ねてくる。




「いえ、空いてませんか?」




「空いてますよ。2階の展望席でよろしいですか?」




「ぜひ」




僕らは席に着いて料理が来るのを待った。




王都の家々に灯りがつき綺麗な景色が広がっている。




「王都ってこんな綺麗なんだね」




リリスに話しかける。




「文明が発達することで逆に綺麗な景色を見ることもできるんだな」




「そっか、2000年前の景色も綺麗だったの?」






「……星空は好きだった。」






街並みの上の星空に目をやった。




「本当だ。すごく綺麗だね。」




「ああ。2000年前と変わらない。綺麗だ。」




アリスと同じ顔なのにこんなにも大人っぽい表情で…






「綺麗だね」




その後料理がきた。そして料理を食べながら




「すっごい豪華だね。けど量が少ないね。僕はいっぱい食べれる方が好きかも」






「それは私も同感だ。」








僕らは少しお腹を空かせたまま王宮に戻った。




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