第10話「Bランク冒険者試験とサラリーマン」

──冒険者試験当日、冒険者ギルド




「こ、国王様!?」




冒険者ギルドにいる全員が口を揃えて驚いた。




僕が先頭で隣に悪魔リリス、後方に両手を頭の後ろで組み、呑気に口笛を吹いてるのが国王クロノスくん、その隣で立ち姿すら美しいのが国王の執事ソロネさんだ。




この順番で入ったから初めは僕で魔力量が多いからかみんな警戒してたんだけどまさか国王が来るとは思ってないからそりゃ驚くよね。






「いや〜朝一なのに人がこんなにいるんだ〜知らなかった〜」




知らなかったんかい。




「今日はどんな御用でこちらに?」




受付の眼鏡の優しそうなエルフさんがクロノスくんに訊いている。




「えーっとね、この子に冒険者試験受けさせたげて〜」




クロノスくんは僕の横に立ち僕の肩に手を置く。




──ザワザワ




ギルド内がざわつき出した。




「国王様のお子さんか?」




「いや、顔似てねーし国王様より明らかに身長高いからちげーだろ」




「じゃあなんだぁ?国王様結婚しないから養子でも取ったのか?」




そんな声が聞こえてくる。






「分かりました。順番を繰り上げさせていただきますね。」




「お?気が利くね〜。ありがとね〜」




「この方はレイシ様です。初めて試験を受けるので筆記試験も受けさせてください。」




その後はソロネさんが一緒に手続きしてくれた。




一方クロノスくんは他の人たちに「どうぞ」「どうぞ」と世紀末みたいな見た目の男たちに譲られた席に座って






「あのすごい魔力量の方とはどんな関係なんすか?」




「孤児院で拾ったの」




「養子すか?」




「違うよ〜友達〜」




「強いんすか?」




「めちゃくちゃ強いよ〜」




と質問攻めに遭っていた。




リリスは認識不可の魔法を自分にかけているらしく僕ら以外には認識されていないから世紀末の人達がクロノスくんに質問攻めしに行った時に空いた席に座ってギルド内の色んなとこを見てぼーっと過ごしていた。








受付エルフ「合格です」




僕「ありがとうございます」




筆記試験は簡単ですぐに終わってすぐに合格連絡された。そして──






Bランク冒険者実戦試験




僕は職員さんに案内されてギルドの裏の闘技場に出てきた。


コロシアムみたいな作りで周りは観客席がある。


1ギルドでここまでの施設作る必要あるのかと職員さんに聞いたら、ここで武闘大会が開かれることもあるそうだ。しかも世界で1番大きい。そういえばここは世界一大きい国の王都だと忘れていた。




──ブンブンブンブン


観客席からクロノスくんが手を振ってる。


両サイドにリリスとソロネさんも座っている。




「ははは」




僕も控えめに手を振り返した。




「おーい、頑張れよ坊主!!」




「国王様のお墨付きだろぉ?」




世紀末の人たちも何故かいる。




「ご、ごめーーん!遅れたー!」




僕の方とは対になる入口から1人の男が小走りで闘技場に入ってきた。


あの人が僕と戦う試験官の人か。




「お、おいあれって…」




「Bランク最強のタナカさんじゃないか!!」




「おいおい大丈夫か、坊主」




世紀末の人達が驚いている。


Bランク最強……


けど僕はAランクを合格しに来たんだ。


ここで苦戦する訳にはいかない。




「ふぅ、おまたせ」




僕とタナカさんは闘技場の真ん中で向かい合った。


赤髪センターパートの髪型で細目。


身長は僕より高く体型は細いが筋肉がある感じ。


ワイシャツにネクタイ、ベルトを付けた黒い長ズボンを身につけている。


腕には腕時計をつけている。


つまりイケメンのサラリーマンだ。




「タナカと申します。本日はよろしくお願い致します。」




タナカさんが両手で名刺を渡してきた。




「あ、どうも。レイシです。よろしくお願いします。」




名刺を見る。


タナカ タロウ


ん?クロノス王国王都冒険者ギルド職員…


職員さんなのか。


なんで遅れてるんだよ。しかも冒険者ランクBってすごいな。そっち本業でいいじゃん。




「育児休暇取ってたんですけど急に呼び出されちゃって…」




それは申し訳ない。王都なら他にBランクの方呼べるでしょうに。たぶん国王のクロノスくんを楽しませるためか、僕の実力を試すためか。






審判の方が僕らの間に手を伸ばす。




「準備はいいですか?」




もちろんだ。


「はい」




「走ってきたんで準備運動できたんでOKです」




「レディ……」






───サッ






僕とタナカさんはお互い後方に跳んだ。






「ファイト!!」






できればこの一撃で…。


僕は右手を伸ばし左手で右手の肘辺りを握る。


そして魔力を瞬時に集中させ右掌から放つ。






魔力砲!!






──ドゴーーーン




僕より前方の闘技場が魔力に包まれる。






「おいおいまじかよ」




「とんでもねぇーな」




世紀末の人達が驚く声が聞こえた。




「ふふん♪」




国王は自慢気だ。




どうだ……




シュルルルル




なにかが空中に飛んだ。


タナカさんだ!


空中で高速で横回転している。


躱されたか。




ズドーーー




体を捻り遠心力を使い僕に向かってかかと落とししてきた。


僕は両腕を頭の前で交差し防御する。




「くっ」


重い。なんて威力だ。


だがだんだん威力が下がり、


「あ゛あ゛っ」


押し返した。




──シュルル


今度はバク宙を何回転かして僕の前方に着地した。


なんて身体能力だ。




「早く帰りたいのですぐに終わらせましょう。」






「僕もこの後Aランク試験も受けたいんで賛成です」




タナカさんはネクタイをむしり取り投げてシャツのボタンを上から2個ほど開けた。




そしてポケットから眼鏡を取り出し付けた。


そして閉じていると言っても過言ではなかったタナカさんの目が開眼した。




!?




一気にタナカさんの魔力量が増えた、いやそう思えるほどの覇気がある。


ここから本気らしい。


「──能力解放」




この感じ……身体強化系の能力!!




ただの魔力での身長強化でも凄まじかったのに…




僕も魔力最大出力で自身の肉体を強化する。


僕は魔力量に比べて出力はとても低い。


けどそれでもAランク相当の出力はあるらしい。




──来る!!




タナカさんが一瞬で目の前に来た。


けど!あの竜人ほどでは無い!!




───ズダダダダ




僕とタナカさんの体術戦が始まった。


ほぼ互角だ。






「は、はえぇ!!」




「タナカさんに体術で張り合ってんのか!?」




「すげぇな!!あの坊主!!」




世紀末の男達は今日何度目かの驚きを見せる。




「ふふん♪」


クロノスくんは自慢気だ。




くっ!


一瞬でも気を抜いたらモロに喰らう。




「ここまで私に体術で張り合う子が現れるのは何年ぶりでしょうか……楽しいです!!」




タナカさんは昂揚している。




───ドドドドドドド




さらに加速する。


速い!!


もう半分くらい勘で受け流してる!!


ここは……




──スタッ




僕は後ろに跳んだ。




「逃がしませんよ」




まだ空中なのにタナカさんに懐に入られた。


けど──




「もう充分時間はもらいました」




「なっ!?」




ドッ




僕は木刀をタナカさんの脇腹に打ち付け吹き飛ばした。






──シュルルルル




タナカさんは回転し着地した。




「なるほど。それがあなたの能力ですか。」




タナカさんは脇腹を片手で抑えながら言う。




「はい」




「ここまで距離を取るともう一度攻めるのは難しそうですね」




木刀がある分僕の方が有利だ。




「では全能全魔ムステリオンを使います。」




───ズオォォォーー






タナカさんは手を前に出し魔力を集め始めた。




全能全魔ムステリオン


全ての魔力を注ぎ能力を発動するいわゆる切り札や奥義、必殺技だ。


僕は使えない。


これができる能力者は極わずからしいが、上位にいくとできて当たり前の技らしい。


この技ができるかできないかで生と死が別れるタイミングがたくさんあるらしい。




「Bランクでムステリオンを使えるんだ〜。とんでもないね〜。」




クロノスくんが感心している。






「ええ、かなりの能力者ですね」




ソロネさんも感心してる。




「ふむ。」




あ、これ多分リリスも感心してる。






僕も最初の魔力砲の時のように魔力を集める。


さっきは速射したかったから全然溜めなかったけど今度は全力で溜める。






──ズオォォォォ




お互いに魔力を溜めている。






「お、お、おい。これ大丈夫か?」




「やべぇんじゃねーか?」




世紀末の人達が焦っている。






「助かりたかったら僕の周りに集まって〜」




──ザザッ




一瞬でクロノスくんの周りが雄雄しくなった。






「いきますよ?」




タナカさんが訊く。




コクン、僕は頷いた。




全能全魔ムステリオン──強化圧縮砲パワーキャノン!!」




タナカさんが放出する。




「はあぁぁぁああ!!」




僕もほぼ同時に放つ。






2つのエネルギーが衝突し、






ドカーーーーーーーン






コロシアム内を凄まじい爆風と爆音が襲う。


砂ぼこりが舞う。






観客はみんなクロノスくんの周りにいて無事だ。


あと審判も




爆風と砂ぼこりが収まり視界がはっきりとしだした。






闘技場内には僕が立ち、前方でワイシャツが汚れてボロボロなタナカさんが大の字で倒れている。




「勝者レイシ!!Bランク試験合格!!」




審判が宣言する。




「うおぉぉぉぉ」




「よくやったぞ坊主!!」




「Bランク最強を倒したぞぉぉぉ!!」




世紀末の人達画盛り上がる。




「おめでと〜レイシくん!」




「おめでとうございます」




「ふん。これくらいは当然だ。いずれ魔神と戦うのだからな。けど…まぁ一旦は…その……おめでとう(ボソッ)」




みんなも祝ってくれた。




「対戦ありがとうございました。合格おめでとうございます。レイシさん。ここまで楽しめる戦いは久しぶりです。」




タナカさんが近寄り手を差し出してきた。


僕はその手を握り握手した。




「こちらこそありがとうございました。」




「じゃあ君も疲れただろうし、早く帰りたいよね〜。送ったげる。」




急に僕とタナカさんの近くにクロノスくんが現れた。




「ええ、妻と子供が待ってますので。よろしくお願いします。そしてありがとうございます。」




タナカさんがそう言うとクロノスくんがタナカさんさんの方に触れ──






その場から消えた。




「クロノスくん何したの?」




「ん?タナカくんを家に返したげた。ついでに服も元通りにしといた。」






「え?どゆこと?」




「タナカさんの服の時間と座標を家にいた時まで戻したの。」






「へ、へえーなるほどね。」




やっぱりクロノスくんは規格外だ。




「あ、あのこの後のAランク試験のことですが…」




ギルドの受付のお姉さんが来た。




「闘技場の破損が激しいので明日でもよろしいでしょうか?」






「あ、ああ別に──」




「はーい、修復なおったよ〜」




クロノスくんが両手で地面に触れている。


辺りを見ると僕たちの戦いの衝撃でボロボロになっていた闘技場が元通りになっている。






「え!?あ、ありがとう…ございます」




あーあ、受付のエルフさん、びっくりしすぎて引いちゃってるよ。




「ほら、レイシくん」




ギュッ




僕の手をクロノスくんが両手で握る。




スゥーー




疲労感が無くなった。




「ありがとうクロノスくん」




これで万全の状態でAランク試験に臨める。


本当に感謝だ。




「それでは1時間後にAランク試験を始めますね」












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