第9話「お茶会」

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能魔大戦

ep.10 第9話『お茶会』

掲載日:2024年08月10日 22時21分

更新日:2024年08月20日 09時26分

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ギィィ




〇〇しないと出られない部屋のドアが開く。




──スゥーー




──吸うーー




久しぶりの空気を。




はあぁーー




僕は深呼吸をする。




長かった。本当に長かった。




「おつかれ〜。いやぁ楽しかったね〜。」




国王クロノスは慣れているようだ。この部屋で修行するのを。




「お疲れ様です。ありがとうございました。」


「急に畏まらなくていいよ〜」




僕はクロノスくんに丁寧にお辞儀をした。


僕が修行部屋で国王様国王様は堅苦しいから呼び名を変えるよう言われたのだ。


本人はクロノスと呼ばれたいらしい。


けどさすがにそう呼ぶのは憚られるから取ってつけたようにクロノスくんと呼ぶことにした。








本当に長かった。体幹1年はこの部屋にいた気がする。


だが国王曰く部屋の外の世界は1秒も経過していないらしい。






「本当に時間が経っていないようだな」




リリスは感心しているようだ。


表情の変化がほとんどないけどこの部屋で過ごす中で割と的確に感情を読み取れるようになった。




「お茶にでもしましょうか」




ソロネさんが淡々とそう言う。


けどこれはやっとお茶を入れることができるって感じだな。


ソロネさんも表情の変化が少ないから感情を読み取るのが難しかったけど分かるようになってきた。


表情の変化は少ないけど休憩時間とか手が空いた時はソワソワしたり、下ネタ(正確には勝手に下ネタだと解釈する)には敏感に反応して表情の変化が激しくなったり面白い人だ。






「やったー!久しぶりのぉ!ティーーーターーイム!!」




クロノスくんすごく嬉しそう。




「ふっ、楽しみだな」




リリスも期待している。




「ぜひお願いします」










みんなで王宮のベランダまで歩き、3人で丸い机を囲い座る。




ソロネさんは僕とリリスのカップに紅茶を注ぐ。


すごくいい香りがする。




「僕りんごジュース!!」




お茶じゃないんかい!!


さっき思いきりティーーーターーイム!!って叫んでたじゃん。




「ソロネも飲も!」




「それではお言葉に甘えて」




「ソロネは紅茶だよね」




───ドボドボドボッ




クロノスくんが大雑把にソロネさんのカップに紅茶を注ぐ。


やばい。絶対ソロネさん怒るでしょ。


ソロネさんは全てにおいて丁寧な方だ。


だから他の人の雑な部分が結構気になるのだろう。


修行部屋でもクロノスくんや僕の身だしなみが崩れてるとよく直してくれた。


まして他の人に自分のものが乱されると…


僕は恐る恐るソロネさんの顔を見ると──






「ふふっ、ありがとうございます」




すごく幸せそうな顔で微笑んでいる。


ああ、この人は本当にクロノスくんのことを──






「じゃあ、修行おつかれ〜かんぱーーい!!」




いや、紅茶の席で乾杯しないでしょ!!


まったく、本当にクロノスくんは面白い人だ。




カチンッ




クロノスくんが持ちあげたカップにソロネさんがカップを当てた。


ソロネさんがあなたたちもしなさいという視線を向けてきた。


うわっ僕らもやるんだ。面白い人だなーって思って普通にお茶を飲む流れじゃないんだ。




「か、かんぱーい。」




カチンッカチンッ


僕とリリスもカップを当てた。






──ススッ




紅茶を啜る。


美味しい。さすが王宮のお茶。それだけでなく入れたソロネさんも1級だな。




「おいしいです」




「ほう、美味だな」




本当に美味しいのだろう。リリスも少し笑顔になってる。




「ソロネのお茶美味しいでしょ〜!」




あんたはりんごジュースだろ……




「ありがとうございます」




ソロネさんは両手を膝の上で組み、丁寧にお辞儀する。








お茶を飲みながら思い出す。


本当にいい修行だった。




修行部屋では僕らの肉体に流れる時間は止まっているらしく飲まず食わずで過ごせるし、汗もかかない。


けど精神的疲労は存在していて休憩は必要だった。


最初は魔力の放出だったな。


普通は魔力の無駄遣いだからこんな修行しないらしいけど僕くらいの魔力量ならとんでもない威力の技をノーコストで撃てるって言われて練習したな〜。




次は体術と剣術。


体術はまったくやったことなかったから初めはボロボロだったな。


クロノスくん、ソロネさん、リリス。みんなに教えてもらった。


リリスは体術もめちゃくちゃ強かった。


3人とも同じくらいの強さだったな。


ソロネさんとリリスはよく2人で体術のみで戦ってたな。


すごい迫力だったな。


クロノスくんは女の子は殴れないって言って一度も2人と戦わずに僕とだけ組んでくれてたな。


剣術はクロノスくんが主につけてくれたな。


めちゃくちゃかっこよかった。


けど背中につけた大剣じゃなくて僕が作った木剣を使ってたな。


理由を聞いたら、まだその時じゃないっ(キリッ)って変なこと言ってたな。


ソロネさんは主に突きを教えてくれた。


空間からレイピアを取り出して見せてくれたな。


ソロネさんは瞬間移動の能力だけじゃなさそうだった。






魔術。


クロノスくんが教えてくれた。けど魔術を使うには術式が書いてある紙とかに魔力を通すと勝手に発動するからしなくていいって言ってたな。


でもなにもなくても使えるって言って、


空中に魔法陣を出して魔術を使うのを見せてくれた。


正確には魔法陣じゃなくて術式らしい。違いが分からなかった。


リリスが言うには魔法陣は魔法を使う時に勝手に出てくるらしく、クロノスくんは超精密な魔力操作でしかも超高速で術式を作って発動してるらしい。


つまり人力魔法陣。


神業だ。ってリリスがすごくびっくりしてた記憶がある。


結局僕にそこまでの技術は身につかなかった。


でも魔力操作は以前とは比にならないくらい上達した。


僕がやってた魔力探知はただ魔力を拡げるだけで逆探知されるし、自分がここにいるってアピールしてるのに過ぎないって言われたっけ。


そりゃそうだ。今ではクロノスくんの3段階下くらいの魔力操作はできてると言われた。


よく分からないけど……


世界最強(自称)の魔力操作の3段階下ならそこそこすごいのかもしれない。




能力。


最初にできることをクロノスくんに見せた。


もったいないと言われた。


常時能力を発動するように言われた。


意味が分からなかったけどやってみると確かに何も作らなくても能力を発動してる感覚があった。


今までやろうとも思わなかった。というか物を作るだけの能力だと思ってたから能力の常時発動なんて考えたこともなかった。


能力は解釈次第でいくらでも強くなるらしい。


だから何が出来るとか人が言うより自分でできることを探していく方が将来的に強くなれるらしい。


その後もいろいろできるようになった。






「うーん、正直レイシくんはAランクぐらいの強さあるんだと思うんだよね〜。僕が修行つけたわけだし。僕はSランクだからAランクに任命することもできるんだけど〜」




クロノスくんが唸っている。




「僕の立場上、そんなことしたらレイシくんが七光りだーとかずるいぞーとか言われそうなんだよね〜。もちろん僕の国民は喜んで受け入れると思うけど冒険者ギルドは全世界の人が集まるとこだから受け入れきれない人もいる、というかそっちの人の方が多くなるんだよね〜」






「そこまでしてもらわなくて大丈夫だよ。クロノスくんにはたくさんお世話になったから。冒険者試験受けてみるよ」




「それじゃあ僕は実戦試験を見学させてもらおーかな〜」




「えっとBランクを受けて合格したらAランクを受けないといけないんだよね。」




「そうそう。Aランク試験を受けるのにはBランク試験に合格することが条件なんだよね〜」




冒険者試験。


Bランクまでは好きなランクの試験を受けられる。


初めての人は実戦試験の他に筆記試験があり筆記試験は冒険者の基礎知識を問うものでどのランクを受けても難易度は同じらしい。


1度筆記試験に合格するとそれ以降の試験で筆記試験はなくなり実戦試験だけとなる。


実践試験は試験を受けるランクと同じ冒険者ランクの人と実戦形式で戦い、合否を言い渡されるらしい。まぁ倒してしまえば確実に合格するだろう。


試験の頻度は王都のような大きい街のギルドではいつでも受けることが可能らしい。


逆に辺境の村にある冒険者ギルドでは年に1回などの頻度であるらしい。


僕は王都で受ける予定だから関係ないけど。




「まぁ受けるにしても明日の朝一にしよ〜。今日はこの城僕んちに泊まってってよ〜。おっきなお風呂もあるしふかふかのベッドもあるよ〜。」




「そうさせてもらうよ。ありがとう。」






お茶を嗜んだあと王宮の使用人に部屋まで案内してもらった。




「ひっっろ!ベッドでかっ!変な絵画もある!!」




らしくないリアクションかもしれないけどそれぐらい煌びやかで孤児院の部屋とは比にならないくらい広く豪華な部屋だ。


こういう時リリスは「ふむ、なかなかだな」とか言うんだ──






───バフッ




───ぱたぱた




え?




リリスがベッドに飛び込み手足をぱたぱたしている。




「ふふん♪」




なんだこの可愛い生き物は。


リリスも過去になにかがなければ普通の女の子なのかもな。


ああ、アリスもおんなじ反応するんだろうな。




リリスと目が合った。




「なにを見ている……ん?貴様なぜ泣いている」






「ううん。なんでもないよ。リリスも女の子みたいなところがあるんだなーって。」




僕は手で涙を拭いながらリリスに微笑む。


そうだ。アリスを元に戻すためにも僕は強くならないと……魔神を殺せるくらい…そのためにまずは明日の冒険者試験に合格しないと。




「ふん。……勝手に言っていればいい」




リリスはほっぺを膨らませてそっぽを向いた。








その後しばらくして使用人に男湯に案内された。


リリスはソロネさんと一緒に女湯の方に行った。




僕は今クロノスくんと一緒にお湯に使っている。




「どう?部屋の方は。不便じゃない?」




「うん。あんなに豪華な部屋初めてだよ。ほんとに何から何までありがとうね。」




「いやいや〜それほどでも〜」




クロノスくんは右手を頭の後ろに当てて照れている。




「改めて。冒険者試験明日の朝一に受けた方がいいよ〜」




「たぶん混むからだよね?」




「そうそう、冒険者ギルドの建物の後ろにある闘技場は1つしかないからね〜。実戦試験は1人ずつになるから時間かかるんだよね。王都は人が多いからね〜」




「あと、レイシくんは筆記試験もあるからその分実戦試験を受けるのが遅くなっちゃうし僕も観戦したいんだよね〜。実は僕意外と忙しいんだよ〜。」




「そりゃ国王ですもんね」




「まぁ書類仕事はほとんどソロネに任せてるけどね〜」




最低だなおい




「僕が保有してる騎士団の人数って他の国の騎士団よりめちゃくちゃ少ないんだよね〜。その分の税金を孤児院とか他のことに回してるんだよね〜」




前言撤回。最高の王だ。




「この国は治安がいい。というより僕たちが治安を良くしたからね〜。この王都にいる騎士団の人は門番ぐらいしかいなくて他の人は離れた村とかに配置してるんだよ〜。戦力が必要になったらすぐに僕に連絡するようにしてるんだよね〜。」




「それで連絡が入ったらソロネと一緒に村に行って戦ってるんだよ〜」




「なるほど。だからカイン村の時も。」




ただあの時もっと早く来てくれていれば、とは少し思ってしまったが僕の力不足が原因だし責められるのは僕の方だろう。


ただ少し気になるのはいくら時間を巻き戻せると言っても一度は村人たちが苦しんでるわけで。


なんというか巻き戻して蘇えさせればOKという考えなのだろうか。


そうなると倫理観が──






「あの時はもう少し早く着きたかったんだけど全世界の国王が集まる会議があったんだよね〜。連絡が来るのは僕の部屋だから知りようがなかったんだよね〜。うん。言い訳だね。ごめんね。」




すごく申し訳なさそうな顔で謝っている。




──ザバッ




僕は勢いよく立ち上がった。




「クロノスくんのせいじゃないよ!僕がもっと強ければ!!僕がみんなを守ることができれば!!僕が!!!」






ああ、なんで目の前にいるこの少年がここまでの責任を感じる必要があるだろうか。強いから?国王だから?


違う。間違っている。




きっとこの世界は間違っているんだ。






「ちょ、ちょっと落ち着いてよ〜。お湯まで熱くなっちゃいそうだよ〜。しかもフルチンで叫ばないでよ〜。変質者だよ〜?」




ハッとした。




ザブッ




すぐに座った。




「ごめん。」




「気にしないで〜。僕こう見えても200歳越えのおじいちゃんだよ〜。」




「あ、そうだった。なんでその見た目なのか聞いてなかった。」




大体の検討は修行部屋のシステムを聞いた時からついているけど。




「僕は自分の能力で自分に流れる時間を全盛期で止めてるんだよね」




やっぱり。




「なるほどね。」




「それで修行してめちゃくちゃ強くなったんだよね。やっぱ飲み込みもすごく早い時期だからね〜」




最強だ。やっぱりクロノスくんはすごいな。




「僕もクロノスくんと同じくらい強くなりたいな。」




「いや〜むしろ追い越してほしいな〜。若者は前の世代を超えるものだよ?」






君は規格外過ぎるよ。




「うん。頑張ってみるね。」




正直越えられる気がしない。そのぐらいこの人は格が違う。




「大丈夫だよ〜。能力のポテンシャルは僕よりレイシくんの方が上だよ?世界最強からのお墨付きだよ〜?」






「ははは、頑張るよ」




今度は心の底から頑張ろうと思えた。










ーーーーーーーーーーーーーーーーー


おまけ「女湯にて」




リリスとソロネが身体を洗った直後




リリス視点






隣で体を流している執事の女、ヒールを脱いでも私より背が高いな。


それに




「脱いでも胸の大きさは変わらないんだな」




女は不機嫌そうな顔でこちらを見る。


ニヤリと口角を上げた。




「あなたこそ私はヒールを脱いだというのに小さいですね。胸だって人の事言えるほど大きくないじゃないですか。」




「小さい方が素早いのだ、それっ」




私は湯船に向かって走った




「ふっ、甘いですね」




──チャプン




「なに!?ずるいぞ!!」




こいつ湯船の中に瞬間移動しよった






「こんのっ!」








──ザパーーン






湯船に勢いよく飛び込んでやったわ!






お湯が執事の女にかかる




「やってくれましたね」






──ぱしゃ






こいつ私の顔に水をかけてきよった




「負けんぞ」






──ぱしゃ






しばらく水を掛け合った。






















──しばらく経って


2人は湯船に浸かり隣に並んで座っている










「あなた、初めて会った時悪魔と聞いて警戒しましたが優しいのですね」






「なんだ急に」




「復活してからすぐにどこか遠く離れた場所にレイシさんを置いて行くこともできたのでしょう?なのにあなたは一緒にいることを選んだ上彼にとっての脅威も排除しました。」






「そうだな。その選択肢もあった。しかし、私の中のアリスの魂があの男を守れと訴えて来た気がするのだ。まぁ死ぬまで私の復活のために魔力を集めていた義理があるからな。仕方なくだ。」






「素直じゃないですね。本当は復活するまでも彼のことを見ていたのでしょう?」




「ふん、さあな」






「もっと素直になれば彼ももっと優しく、女の子として扱ってくれると思いますよ?」






「今日試しにベッドの上ではしゃいでみたのだ。そしたら『リリスも女の子みたいなところがある』って……」




ブクブクブクブク




湯に口を沈めて泡を吐く。


なんだ顔が熱いな。湯のせいか?




「ええ!?ベッドの上ではしゃいだ!?リリスも女の子みたいなところがある!?ナニを国王の家でヤったんですか!?」




「ち、違うわ!!何を言ってるんだお前は!!」






この女はこういうところがあるんだった。














この後、誤解を解くのにかなりの時間がかかった。






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