第12話「初任務とお兄ちゃん」

Aランク冒険者試験の翌々日午前、王宮の一室にて




今日は冒険者になって初めて依頼を受けてみようと思う。


と言ってもいきなりAランクの依頼ではなく、Cランク辺りを受けて依頼がどんなものか知ろうと思う。


などと考えながら僕は身支度をしている。






むにゃむにゃ




リリスは珍しくまだ寝ている。


いつもは僕より早く起きてぼーっとしてるんだけど。


昨日はクロノスくんが僕がAランク試験に合格したお祝いで王宮でパーティーをした。


初めてお酒を飲んだ。


王宮のお酒でいいお酒なのもあるんだろうけど…


なんだあれ。気持ちよすぎでしょ。




ソロネさんも飲んでたけど神子だから毒物に耐性があるとかで全然酔ってなかったな。




逆にクロノスくんとリリスはお酒に弱く──






「レイシくぅん、やっぱり僕が見込んららけあるねぇ〜。ファルコンを倒すなんて僕がレイシくんと同じ年齢らっららできらいよぉ〜。もうレイシくんが魔王軍ひとりで倒せるんじゃなぁ〜い?」






とか言いながらすげぇ抱きついてきた。


あの人は呂律以外いつもとそんなに変わらなかったけどすごいボディタッチが多くなってたな。




その間ソロネさんからとてつもなく刺されるような視線を感じてたけど…




「あまりベタベタするとレイシさんが困ってしまいますよ。私─ソロネなら全然大丈夫ですからね〜」




とクロノスくんが酔ってることをいいことに僕から引っぺがして逆にソロネさんがクロノスくんにベタベタしてたな。






リリスは隣の席で飲んでたんだけど─




「おい、レイシ、構え」




「なに?」




なんか「貴様」から「レイシ」に呼び方変わってるし、小さい手で、しかも両手で僕の右手の人差し指と小指を片方の手ずつ握ってブンブン振ってくるし、上目遣いだし……何この状況?






「構え」




「構ってるよ」




「か〜ま〜え」




「だから構ってるよ?」




「体ごとこっちを向けろ」




椅子の向きを変えてリリスの方を向いた。




「ふふん♪」




「え、なに?」




「足を広げろ」




え、こわいこわいなになに?




「はーやーく」




足を開いた。


リリスが椅子から立ち上がり僕が足を広げてできたスペースに座った。




「よし♪」




え、何この状況。


座ってるリリスの頭を見る。


リリスってこんな小さかったんだ。


僕はあれから身長が伸びたけどリリスはアリスが亡くなった時から変わらないもんな。




「ごはん食べる」




「あ、うん」




「んーー!」




とうとうまともに喋らなくなった。


リリスは横向きで料理の方に手を伸ばしてるけど届いてない。


僕は椅子ごと元の向きに戻った。




「ふふん♪」




机の上の果物を取れて美味しそうに食べてる。


















リリスは甘え上戸?って言うのかな。


いつもと真逆って感じだったな。








「おい、なにニヤニヤしている」




リリスはいつの間にか起きてたみたいだ。






「リリスは酔うんだね」






「いつもは毒無効の魔法をかけているが昨日は解いていた。なにせいい酒だったからな」




昨日のことを思い出してるのかリリスは笑顔だ。




「アリスが神子だったから酔わないのかと思ってた」




「アリスに付随していた能力はアリスの魂に付随している。よって私はその能力を使えない。見て分かるだろう。私に聖力はない。」




なるほどね。とりあえず昨日のリリスはもういないことが分かった。




「昨日のこと覚えてるの?」




「だまれ」




こわっ。もうこれ以上昨日のことに触れるのはやめよう。






「だが……その…昨日は……すまなかった。酔うといつもの私ではなくなるのだ。」




リリスが少しだけ顔を赤くして照れてる…!




「全然大丈夫だよ。リリスもやっぱり女の子だなーって思ったし。なんならいつもあんなか──」




ドゥンッ




「うっ、ごべんなさい」




──腹パンされた。人体から鳴っちゃいけない音がした気がする。




リリスをなだめた後ソロネさんにクロノスくんを叩き起してもらい、依頼を受ける件について話した。






「そっか〜。もう冒険者だもんね〜。パーティーは組まないの?」




「パーティー?」




「冒険者はだいたいの人がパーティーを組んで依頼を受けたり、ダンジョン攻略したりするんだよ〜。特にダンジョン攻略ではパーティー必須だよ〜。いや、まぁAランクにもなると単独で攻略する人もいるけどさ、あーゆー人って1人でなんでも出来る人がするんだよね〜」




「私は基本なんでも出来るぞ」




リリスが自慢気に言う。




「リリスちゃんはなんでも出来るだろうね〜。レイシくんも将来的にはなんでも出来るようになるだろうけど。やっぱり僕としては心配だし死んでほしくないんだよね〜。特に回復役ヒーラーは大事だよ〜。2人とも回復技持ってるの?」




「私は無限再生リジェネを常時発動できるが他人は回復出来ん。」




ええーそんなすごいこと出来たんだ。




「僕は臓器は作れるけど…」




片手に肝臓を作り見せた。




「うわっ!キモ!」




「しまってください」




「ふふっ、良い趣味だな」




クロノスくんとソロネさんドン引きしてる。


もうやめとこ。手から肝臓を消した。




「まあ、今日は簡単な任務を受けるらしいからいいけどいずれは回復技を使えるようになるかヒーラーはいた方がいいかもね〜」




「そうだね」




「ふん。攻撃される前に殺せばいい」






そんな会話をして王宮から出ることにした。




「それじゃあ初任務頑張ってね〜」




「お気を付けて」




クロノスくんは元気よく手を振っていて、ソロネさんは前で両手を組み、お辞儀をしている。






「うん!行ってきます!」




僕も手を振りその場を後にした。








──シャランシャラン




冒険者ギルドに入った。




「おい、あれって」




「レイシだ!」




「え、Aランク最強を倒した!?」




一気にギルド内が騒がしくなった。


そして明らかに冒険者という服装の人達が僕の周りに集まった。




「今日は依頼受けんのか?」




「あん時の技超かっこよかったぜ!」




「1人か?俺らとパーティー組むか!?」




そうだった。


相当な実力が人じゃない限りリリスのことを認識出来ないんだった。




「ちょっと!レイシさんが困っているので少し離れてあげてください。」




受付のエルフのお姉さんが助けてくれた。




「今日はどうされましたか?」




「えっと、依頼を受けたくて」




「依頼ですね。あちらの掲示板に貼ってありますので受ける依頼を持ってきてください。レイシさんはAランク冒険者ですのでどの依頼を受けることも可能ですので受けたい依頼を持ってきてくださいね。」




「分かりました。ありがとうございます。」




そう言って掲示板の前に来た。


うーんいっぱいあるなぁ。


けどできればあそこに近いのがいいなぁ。


掲示板を眺める。








──あった!えーっと、Dランクだけどまいっか。


薬草集め。いいね。小さい頃にやったことあるし、採ったことある薬草だ。








「これでお願いします」




受付に提出した。




「Dランク……初任務ですし1人ですからこれくらいがいいかもしれませんね!受諾しました。頑張ってくださいね!」






「ありがとうございました!」




冒険者ギルドを後にした。








依頼内容はただの薬草集めだ。


けどその薬草はカタナ村の森で採れるものだ。


そう、ようやく僕はカタナ村に行けるのだ。


あれから10年……村は残っているのだろうか?


お兄ちゃんはどうなったのか……


行ってみないと分からない。


僕は王都を出たあと魔力で身体強化して走って向かった。








──同日午後




「ここが貴様の村か?」




「うん。僕が5歳まで過ごした場所だよ。」




カタナ村に着いた。


ああ、良かった。


村の光景を見て安心する。


10年前の魔族襲来がなかったかのように復興している。


ちょっと変わってるとこもあるけど、


本当に良かった。僕は涙を抑え、村を歩く。




「見ない顔じゃな。」




背の低いおじいさんが話しかけてくる。






「レイシです。帰ってきました。」




直後おじいさんは目を見開き、驚き、




「レイシが帰ってきたぞぉぉぉぉ!!神の子が帰還したぁぁぁぁ!!」




声が村中に響く。


さっきまで聞こえていた周りの生活音が一瞬消え、






「え?」




「帰ったのか!!」




「ずっと待っとったけど、もうおらんのかと…」




「おかえりーー!!」






驚く者、歓喜する者、涙を流す者 色んな人がいて集まってきた。






「どうしとったね?」




「うちらはみんなバラバラになったけどみんなぜったい戻ってくるって信じて帰ってきたでや」




「背高くなって…」




「男らしくなったじゃねぇか!」




色んな人が話しかけてくれてしばらく問答をした後、




「レイシ、帰ってきたんか……」




「チサコおばさん!!」




遠くから涙を浮かべながらチサコおばさんが歩いてきた。






──ガシッ




抱き合った。僕も涙が流れてきた。良かった。無事で。僕はこの10年間のことを思い出ししばらく声を出して泣いた。




「こんなおおきゅうなって……おかえり。」






「ただいま。」




涙の跡が残った笑顔で言った。


そして一緒にうちに帰った。




うちの中は物は減ってたけどほとんどあの頃のままだ。




「その子は?」




「へ?」




急にどうしたんだろう。まさか──






「見えてるの?」




「なにを言っとんね。そこまで目悪くないわ」




僕はアリスの方を見た。アリスも少し驚いた表情をしている。




その後これまでのことをチサコおばさんに話した。




「あんたが冒険者ね……はは」




「なんで笑うの…」




僕は口を尖らせて言う。


こんな会話も懐かしいな。




「いや、立派になったと思ってのぉ」




「それでその子を戻すために強くならんといけんのじゃな?」




「うん」




「それで戻したあとその子はどうするんじゃ?」




リリスの契約が終わったあとのこと……僕は既に決めている。


決意しているのだ。




「この子……リリスも助けるつもりだよ」




僕は堂々と答える。




「え?」




リリスは驚いた表情でこちらを見る。


チサコおばさんは満足そうな顔で






「それでいい」




「おい」




小声でリリスが言う。




「大丈夫。僕はこれまで守れなかった人の分これからたくさん人を助けていくつもりだから。リリスの件はこれから分かるよ。」




「ん?まあいい」




少し嬉しそうな顔をしてた気がする。






「これ、読みな」




チサコおばさんがタンスの引き出しから取り出し渡してくる。




「手紙?」




「あの後渡されたんじゃ」




見ると──




「レイシへ」「モトナリより」




お兄ちゃんだ!!


良かった!!生きてたんだ!!






中身を読むと






以下手紙の内容






レイシへ




この手紙を読んでいるということは何歳になっているか分からないが生きてカタナ村に帰ってきたんだな。字が汚くてすまない。左手で書くのに慣れていなくてな。


あの日のことを話そうと思う。あの日村長の家で起こったこと、それはあの魔族たちは…魔王軍は─この村の統治権を譲渡しろと要求してきた。しかし村長はそんなこと許すわけもなく攻撃の指示を出し、攻撃を仕掛けた。奇襲された魔族は激怒し戦いが起こった。


つまり一方的に魔族が悪いというわけではない。ということを知っておいて欲しい。だが奴らのせいで村に甚大な被害が起きたのも事実だ。俺は魔族と戦い腕を失ったが何とか致命傷を与えることができ、撤退させることができた。その後疲労と失血で倒れたが師匠が処置をしてくれて今も生きている。


あの後何度か魔王軍が村を襲撃してきたが、俺と師匠で撃退できた。最初に来た全身包帯の魔族はあの日以降現れることはなかった。後に分かったのだが、あの包帯の魔族は魔王軍の「五大魔導兵器グラディウス」と呼ばれる5人の魔王幹部の1人だそうだ。


あの包帯の魔族を倒せば魔王軍にとって大きな損失になるだろう。


俺は魔族を倒す旅に出ようと思う。少しでも俺たちと同じ思いをする人が減るように俺は全力を尽くそうと思う。


レイシ、お前は俺の分まで幸せになってくれ。いつかまた会えることを願っている。




モトナリより






なんだよそれ。お兄ちゃんこそ幸せになるべきだ。


僕が孤児院で人並み以上に楽しく生活している間もお兄ちゃんはずっと、ずっと戦っていたんだろ?


しかも魔族を倒す旅に出るって……


それってずっと命の危険がある戦いの旅ってことだろ?


そんなの止めないと…




僕は手紙をチサコおばさんに返した。




「今日は泊まっていきな。いやここはあんたの家なんだから、ずっと居てもいいんだぞ?」




「ううん。僕はお姫様アリスを助けないといけないから……でも…まあ…今日は泊めてもらうね。」






その後は僕とリリスとチサコおばさんで温かい日常を過ごした。














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