第7話「契約」

目の前の景色は変わり王室のような場所に着く。


足元には赤い絨毯が引かれ部屋の奥には玉座がある。




瞬間移動か。執事の能力だろうな。




「着きました。なので離してください。」




僕と悪魔は触れていた手を離した。




「ええーいいじゃん。おじさんもう少しだけソロネちゅわーんに触ってたいよ〜」




国王が握ってない手で執事の手の甲をスリスリしている。




「いや、まあ国王様は別に構いませんが。」




執事が淡々と言う。






───スッ




国王が両手を素早く離した。




「そう言われると逆に罪悪感が生まれるよね」




国王がキリッとした顔で言う。


まぁ理解はできる。




「それでアリスちゃんの件だけど」




国王が今度は真剣な表情で話を切り出した。




「本来ならアリスちゃんも元に戻るはずだったんだけどね。なにせリリスちゃんに変わってしまったからね。アリスちゃんに戻すのは不可能だったよ」




わからない。




「どういうことですか?」




「契約が発動した。だろう?」




国王が悪魔の方を向き問う。




「ああ」




「契約が発動したらアリスに戻すのは無理なんですか?」




「うん。契約発動前なら良かったんだけどね。発動後だったら僕の能力より契約が優先されちゃうんだ。全世界の時間ごと巻き戻せればいいんだけどね〜。さすがにそんな魔力なくてね。できて数秒なんだよね」




国王が目を逸らし悔しそうな表情をしている。




「いえ、ありがとうございます。あなたがいなければシスターや孤児院のみんな、村人の方たちも助かりませんでしたから。」




僕に絶対的な強さがあれば国王が来るまでもなくみんな無事に済んだんだから。




「まぁリリスちゃんに直接触れてリリスちゃんだけを巻き戻せばあるいは……」




国王がさっきの表情からは考えられない程冷たい表情をして言う。




悪魔は国王を睨みつけている。




「国王様、そんなことはしないでください。僕はアリスに戻って欲しいです。けどそれは…なんか……リリスが可哀想です」




リリスは驚いた顔をしている。




「わ、私は悪魔だぞ?そんなやつ野放しにしておいて大丈夫なのか!?」




「リリス、君は優しい。やり方は強引だけど村を魔族ごと消そうと提案したのは間違いなく僕を気遣ってなんだろう?」






「う、それは久々に復活して気分が昂揚していたからだ!」




「嘘だ。ドラゴンを消し飛ばした時は気分が昂揚していたと思うよ。けどあの時は真剣な表情で聞いてきてたよ。」






「う、うるさい!テンションが高かったの!!」




リリスの口調がおかしくなった。




「あはは!君たち本当に面白いね!」




国王が腹を抱えて笑っている。




「君たちならリリスちゃんも存在できてアリスちゃんも戻れる、そんな奇跡的な方法が見つかるかもしれないね」




国王が期待の籠った表情で言う。




「そのことだが、どうにかなるかもしれん」




そうリリスがいい、右手を上に向け手の中に光るものが現れた。


あれは──




「聖力?」




「ああ、悪魔の私には必要ないからな。私がこの肉体を手に入れた時に分離したのだ。そしてこの聖力の中にアリスの魂も存在している。………天使め。たまには面白いことをしてくれる。」




───!?




魂があるってことはつまり───




「肉体があれば復活できるんだね?」




僕より先に国王が問う。




「ああ、だがアリスは神子である前に人間だ。私と違ってほかの肉体に入っても意識を持てるわけじゃない。」






「じゃあリリスの肉体を容易すればいいんだな?」




こういうことだろう?






「別にいらん」




へ?






「ふっ、いや失礼」




ずっと静かだった執事が吹いた。


国王がニヤニヤしながら執事の方を見る。




「その代わり私と契約しろ。その契約が果たされたらアリスの魂をこの肉体に返す。」






なるほどそういうことか。




「どんな内容でも契約しよう。」




僕は即答する。




「私に協力し魔神を殺す契約だ。」






───!?




魔神を殺す?なぜ?


そもそも魔神はこの世界にいるのか?


殺す方法があるのか?




国王は楽しそうな表情をしている。


執事は無表情だ。




「なにも無理難題を押し付けている訳ではない。まぁ、まずは魔王を殺すところからだがな。国王とやら、貴様は魔王が復活していることくらい知っているだろう?」






「うん。」




国王が頷く。




「魔王って復活するんだな。」




「ああ、これまで何度も殺され復活している。リインカーネーションは輪廻を繰り返す一族だ。」




そうだ。リインカーネーション。リリスもベルフラワーと同じ苗字のリインカーネーションだ。




「リインカーネーションは魔神の系譜だ。輪廻する時に生じる魔力を魔神に送ることで魔神は現世に誕生しようとしている。」






「じゃあリリスも?」




「私は一度も輪廻したことがない。死んだことがないからな。私は2000年前魔神に殺されかけたが天使が協力してくれて現世に逃がしてくれたんだ。だが現世で誕生するには多量の魔力が必要だった。その魔力を補給する役割がアリスにあった。だが、本来は老衰するまで魔力を貯める予定だったが思いの外早く死んでしまったおかげで私は全快できず復活したのだ。」






なるほど。魔神に殺されかけたことを恨んで復讐するために殺そうとしているのか?


そして、アリスの魔力の違和感。リリスへ魔力を供給していたのか。


契約の発動条件、つまりリリスの復活条件は「アリスの死亡」ってところか。




「じゃあ復活しないように魔神がいる世界に乗り込むのか?」




「いや、それも可能だが……初めはその予定だったが今はもっと楽な方法になった。貴様の魔力を使って魔神を現世に引きずり出す。」




「それじゃあ逆に魔神の目的の手助けしようとしてるじゃん」






「違う。魔神ヤツは魔力を充分に溜めてから現世に現れようとしている。いわば万全の状態だ。そんなやつを殺すのは骨が折れるどころじゃすまんだろうな。世界から世界へ移動するのにも多量の魔力が必要だ。そこでお前の魔力を使い無理やり万全出でない魔神を召喚し殺すというわけだ。」




「でも戦いになったらこっちの世界がめちゃくちゃになるんじゃない?それだったらこっちからあっちの世界に行く方が良くない?」




国王が聞く。確かにそうだ。




「それはやめといた方がいい。いくら万全の状態でないとはいえあちらは正真正銘魔神の世界だ。全てが魔神の思い通りと言っていいだろう。それではこちらに勝算は無い。」




「なるほどね〜」




「国王様は負けません」




執事が断言する。




「国王が強いというのはわかる。正直私からも底が見えていない。だがリスクが高すぎる。そして私はまだ国王この男の強さを信じきれていない。」




執事がリリスを強い視線で刺している。




「では国王様。この悪魔に国王様の強さを見せつけてやるのはどうでしょうか?」






「いやいや、僕女の子に攻撃できないよ」




「私も今日は大量の魔力を使ったから戦いたくないぞ」




良かった。ここでふたりが戦ったらとんでもない事になってたに違いない。




「それで貴様は契約を結ぶのか?」




そうだった。まだ結んでないんだった。


そもそも迷いなんてないし、やるしかない。




「当たり前だ。俺が魔神を殺す。」




悪魔はニヤリと笑う。




「契約成立だ。」




「だが、魔神を殺すのは私だ。お前は協力者に過ぎん。」




「はいはい」




「正直国王とも契約を結んで起きたかったのだが出せる条件がなくてな」




リリスは残念がっている。




「え〜悪魔と契約はさすがの国王もひびっちゃーう」




国王は普段はおちゃらけているのだろうな。




「けど、助けが欲しい時はいつでも言ってよ。……この国内にいる時限定だけどね……」




前半かっこよかったのに後半めっちゃ気まずそうにしててダサい!




まぁ国間のトラブル防止だろうな。






「あ、さっそく手伝って欲しいことがあるんですけど」




僕は図々しく国王に訊ねる。




「なんだい?なんでも言ってごらん?」










「冒険者になりたいんですけど」




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