第6話「国王」
防御魔法が解かれる。
僕は地面に両膝をついたままだ。
辺りを見る。
「はは、本当に全部消えた」
力無く笑う。辺りは更地だ。
正直ずっとこのまま死ぬまでこうしていたい。
けど今はこの目の前にいる悪魔のことを聞かないと。
「君はなんなの?」
「私こそ貴様に問いたいとこだが……さっき聞こえていたと思うが私は悪魔『リリス・リインカーネーション』だ」
リインカーネーション。
ベルフラワーと同じ苗字だ。
「ベルフラワー・リインカーネーションって子知ってる?」
「知っている。魔王のことだろう。200年前に倒された」
は?なにを言ってるんだ。この悪魔。
「200年前?僕は10年前に会ったよ。小さい魔族の女の子だった。……同じ名前なだけかな」
「ふむ、同性同名では無いだろうな。なるほどな。もう復活したのか」
どういうことだ。同性ってことは200年前の魔王は女性だったのか。
そして復活?魔王が復活するのか?
あんなに小さい子が魔王なわけ──
────だって、みんな私のこと『姫様』とか『王様』とかばっかり言ってうるさいんだもん。
そういうことか。全く気にしていなかった。
「なにか、気づいたようだな。」
「ああ」
───ベルに会った日のことを悪魔に話した。
「ふむ、お前たち3人は出会う運命だったのかもな」
「3人?」
「ああ、魔法を使う男に出会ったのだろう?」
たしかに、魔法を使う人なんてその人とこの悪魔しか見たことがない。
「あの男の人の事知ってるの?魔法ってなんなの?」
「そうだな………この世界ができた時の話からしようか」
この世界ができた時?
とりあえず聞こう。
僕はこの世界について知らなすぎる。
「ああ、聞かせ──」
────スタッ
少し離れたところで音がした。
その方向を見る。
「いや〜、国王会議に行ったら毎回こんなことになるなぁ」
「そうですね。国王たちか王宮の中に内通者がいるのかもしれません」
2人の人間の姿がある。
1人は低めの身長で童顔、12歳くらいの男の子か?
背中に赤いマントを羽織りマントと背中の間には体と不釣り合いな大剣が携えられている。
もう1人はヒールを履いているがそれにしても身長が執事服を着て髪は腰ぐらいまでの長さまであり胸はほとんど出ていない女性だ。
「なーーんもないじゃん!ソロネ〜、位置間違えたんじゃなーい?」
男の子が女性を煽っている。
「国王様、ここで合っていますよ。なにもなくなっているだけです。」
「まじで?」
「まじでございます。」
待て。男の子に向かって国王って言ってなかったか?
「んー、あ!」
───────!?
突然目の前に男の子の顔が現れた。
僕の顔を覗き込むように見ている。
「君がこれやったの?すごい魔力だね〜。それだけの魔力があれば──」
「それとも君かな〜?」
今度は悪魔の方が見られている。
「貴様、私のことが見えているのか?」
悪魔が驚いた表情で言う。
「どういうことだ?」
「どゆことどゆこと〜?」
僕と男の子が聞く。
悪魔が僕の方を向き、
「さっき貴様と話している時に認識阻害魔法を自分にかけたんだ。だからよっぽどの強者か私が許可したものでないと見えないはずなんだ。」
なるほど。つまり──
「僕はよっぽどの強者なんだね!!」
「こう見えてこの人この国の国王ですから。」
後ろから歩きながら執事服の女性が言う。
「そう!僕はこのクロノス王国の王!クロノスだ!!」
信じられない。この男の子が。
と言いたいところだが、
この子から全く魔力の流れが感じない。
魔法を使える男のときと似た感じがする。
執事の女性が国王の隣につき、
「私は国王の執事、ソロネ・スクテラリア。以後お見知りおきを。」
この人からは聖力を感じる。
しかもとてつもない量だ。
だが魔力はほとんど感じない。
抑えてる感じもしない。
「あなたたちは何者ですか?」
執事が淡々と問う。
「僕はレイシ。」
「私はリリス・リインカーネーションだ。この村を消し去ったのも私だ。」
「ほえ〜君がこの村をねぇ。魔王軍が村を襲ってるって聞いたんだけど……いないねぇ。魔王軍ごと消しちゃったの〜?」
「ああ」
「村人が全員殺されてしまっていて、それで残ったのが僕らで……」
悪魔の言葉を補足する。
「なるほどね!君たちがいてくれて良かった〜!他の村に魔王軍が行かないようにしてくれたわけだ!」
全然良くない。僕は何ひとつ守れなかったんだから。
「魔王軍は何人来ていましたか?」
執事が訊く。全然数えてなかったな。それどころじゃなかった。
「1000人程だな、クリュスタロッスドラゴンもいた。」
悪魔が答える。そんなにいたのか。
「えぇー!!あの竜復活してたんだ!」
「それ倒したんだ〜すごーーい!僕ら勇者パーティーでも封印するのがやっとだったのに〜」
は?この子が勇者パーティー?それだったら200歳を超えてることになる。だがこの子の見た目はどう見ても子供だ。
「君何歳なの?」
「うーん、235歳くらいかな〜」
「え?でも君の見た目──」
───コホン
執事はわざとらしい咳をした後、目線を配り国王に何かを促している。
「おお、ごめんよ。話は後にして、まずは働かないとね。」
と言い、しゃがみ込み、両腕を地面に着けた。
────チッチッチッチッ
さっきまで村があった範囲の地面が発光し、秒針のような音が辺りに鳴り響く。
何が起こるんだ。すると視界に崩壊したはずの村が映り村人が高速で移動しているのが見える。
そうか。
───時間が巻き戻っているんだ。
数秒後、まるで何も無かったかのように村は元に戻りみんなが普通の生活をしている。
とてつもない能力だ。正直理解が追いつかないし聞きたいことがもっと増えた。
───アリスは?
アリスはどうなったんだろう。隣を見た。
白髪で背中から翼を生やし黒いドレスを身につけている悪魔がいる。
その悪魔は目を見開いて驚いた表情をしている。
目が合った。そして悪そうな笑顔をする。
「これならもしかしたら私の目的は早く達成できるかもしれん。おいレイシ、あの国王とやらと良い関係を築こうではないか。」
とても楽しそうな表情だ。いや、そんなことはどうでもいい。
───ダッ
僕は孤児院に向かって走り出した。
「僕も村人に見つかって対応するのは面倒だから着いていこう」
と後方で聞こえた。
───もしかしたら、もしかしたらだけど!
アリスがいる可能性があるかもしれない。
ギィィ
孤児院の入口のドアを開ける。
アリスがいるか確認する。
──ダダッ
らしくもなく孤児院の中を走る。
庭の方にいるのかも。
「ん?レイシさん、そんなに急いでどうしたのかしら?」
シスターとすれ違う。恐らく魔族に襲われた記憶はないのだろう。
僕は足を止めずに、庭の方に走った。
──ガラガラガラ
庭に出る戸を開けた。
誰もいない。
「どうしたの?らしくないわよ。大丈夫?」
追いかけて来たシスターが心配する。
「あの、アリスはどこにいるんですか?」
正直こわい。
アリスの存在自体が忘れられていたらと考えると。
いや考えたくもない。
「アリスちゃんならあそこに」
シスターは振り返りながら言う。
僕は期待を胸をそちらの方向を見た。
悪魔がいた。
あんなのアリスじゃない。
「いやシスターあれは──」
「レイシくん、一旦落ち着きな〜」
悪魔の後ろから声が聞こえる。
──ひょこっ
国王が悪魔の後ろから半身を出し笑ってこちらを見ている。
「え!?国王様!?」
シスターがすごく驚いている。珍しい。
───ザワザワ
辺りが騒がしくなる。
「うーん。場所を変えようか。」
「ほら、レイシくんもリリスちゃんもソロネに触れて」
いつから居たんだろう。
国王の隣に国王に右手を握られた執事がいる。
リリスは執事の右肩に触れた。
とりあえず従おう。
僕も執事に近寄り左肩に触れた。
「あ、レイシくんとえーっと、アリスちゃんは僕が預かるから親が見つかったってことにしといて〜」
国王がシスターに告げた。
「は、はい!」
シスターが緊張した声で言う。
────スタッ
さっきまで見えていた景色とは異なる、王室のような景色が目の前に映る。
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