第4話「ついで」

───僕が成人した翌日




今日も変わらず祈りを捧げる。


教会の聖堂、真ん中には通路がありその両端に長椅子がたくさん並んでおり、1番奥には女神の像が祀られている。聖神らしい。


この世界で1番信仰されてるのがこの聖教せいきょうらしい。


その次が統一神教とういつしんきょうらしい。


統一神とは仲の悪い聖神と魔神を仲介して世界平和をもたらしたとかどうとかって聞いたことあるな。


ちなみに魔族は魔教まきょうを信仰する者が多いらしい。まぁ魔神は世界中の生き物に魔力を与えたって言う話だな。






祈りが終わったあとは授業だ。けど僕はすでに成人しているので受けなくていい。


だから人体の勉強をしている。うちのお姫様アリスは僕にかっこいい王子様を作ってほしいらしいからな。


正直外見だけなら作れると思う。


それくらいには能力を成長させることができた。


ただそれじゃ動かない人形と同じだ。


動かすには臓器が必要だ。


あとは魂?心?も必要だろうがそれは全く分からないから後回しだ。


とにかく、臓器を作れば医療にも役立つだろうから。


それが可能になれば食い扶持を繋げられるだろうし。


まあ正直もう食い扶持に困らない程の能力は身につけてるのだけど。












昼の自由時間




今日も鍛練を一通り行った。








───「きょ・う・は!なにしてるの!!」




アリスが来た。


正直昨日の件があるから少し小恥ずかしい。


目を合わせられない。






「ウブだね〜」




アリスが煽ってくる。




「う、うるさい」




そう言ってアリスの方を見ると──




赤い。いつもは白いアリスの頬がすごく赤い。




「ふっ、ドラゴンみたい」




「あー!女の子にドラゴンみたいってひどくない?」




アリスが僕の胸をぽこすか殴ってくる。




「ごめんごめん」




とりあえず謝ろう。さすがにドラゴンはひどかったな。






「なんかレイシくんが笑うの珍しいね」




「そうかな」




「声に出して笑うとこ初めて見たかも」




たしかに全然笑ってなかったのかも。冗談を言う時に口角が上がるくらいだったかも。






「ねぇねぇ、レイシくん、今日はなにを──」










───ドゴーーーンッ








とてつもない爆発音が急に鳴り響く。


この孤児院のすぐ隣あたりの家だろう。


孤児院の庭の周りは高い壁で幽閉されていて見えないが。






───ガヤガヤ




外も、この孤児院内も騒がしくなってきた。


すると、外の方から








「魔族だーーー、魔族が出たぞーー」




村人の男が叫ぶ声が聞こえた。




───魔族!!






───ブワッ




僕の人が怖がらないように抑えていた魔力の操作が緩む。




誰だ、まさかカタナ村を襲った包帯の男か?






「みなさん集まってください!逃げますよ!!」




シスターがいつになく大きな声で呼びかける。


それに応えるように孤児院のみんながシスターの方に集まりだした。


するとその時、一瞬周りが暗くなった。


太陽がある方を見るとなにかがこちらに飛び降りて来ている。




「みんな気をつけて!!」




僕も大きい声で呼びかける。








───ドスンッ!!






巨体が孤児院の庭に着地した。


見ると全身鱗で覆われた真っ青なドラゴンがこちらを見ていた。




ドラゴン……!?




村を襲っているのは魔族じゃないのか…?




孤児院の外からはまだなにか争っている音が聞こえる。




おそらく外にいるのが魔族だろう。






じゃあなんで魔族と──






「とてつもない魔力を感じたが、お前だな」




ドラゴンが話かけてきた。知能がある。厄介だ。




狙いは僕か?




孤児院の子達はみんなシスターの方に集まりきったみたいだ。僕と僕の背後にいるアリス以外は。




「アリスもシスターの方に逃げて」




僕は後ろのアリスを庇うように片手を広げ小声で促す




「やだ」




頼むから言うことを聞いてくれ。




「狙いは僕なんだ。お願いだから逃げて」






「でもそしたらレイシくんが…」




「大丈夫だよ、僕は強いから」




正直勝算はない。ただ少しでも彼女には安心して欲しい。




「絶対に行かないよ。私のこと置いていかないって約束してくれたじゃん!だから私もレイシくんのこと置いてかない」




ここに来て約束が枷になる。




「足は引っ張らないから!怪我してもすぐ治すから!」




これは説得できないな。ドラゴンも戦闘態勢に入りだした。




「シスターは先に逃げて!狙いは僕です!村の自衛団が来るまで時間を稼ぎます!!」






「わ、わかったわ!絶対に死んじゃだめよ!」




そう言うとシスターは子供たちを連れて孤児院の外へ逃げ出した。




「せっかく200年ぶりに復活したんだ。楽しませてくれよ。」




ドラゴンがにやけながら言う。


200年前って…!!


絵本の話じゃない。


授業で習った。


約200年前勇者が倒しきれずに封印した青色のドラゴン。


クリュスタロッスドラゴン。


こいつか。


200年前の勇者でさえ倒せなかったドラゴンを僕が……?


バカみたいだ。けど、やるしかない。




僕の目の前に紫色の棒状の霧が出る。


僕はその端を片手で掴む。


そして霧が無くなるとその中には刀が握られている。


鍛練の中でここまでの速さと精度で刀を作れるようになったのだ。


僕が幼い頃自分で打った刀よりも精巧な刀だ。




「ほう、面白そうな能力じゃないか」




ドラゴンは余裕そうだ。




「なんで僕を狙うんだ?魔族と一緒にいるのは?」




時間稼ぎもあるが純粋に気になる。


ドラゴンは同じ竜種とも群れたがらない。


プライドが高い生き物と聞いている。


その上おそらく目の前にいるのは当時の勇者ですら討伐不可能と判断した「五大元素竜」の一角だぞ。




「契約だ。我の『封印を解く代わりに魔王軍と手を組み、英雄王を殺す』とな。」




「それで英雄王がいるこの国に攻めて来たのか。だけど国王がいるのは王都だぞ。」




英雄王はこの国の国王だ。ここは国の中でも最東端だぞ。国王がいるはずがない。




「ついでだ」




───は?




「村が1つなくなろうが関係ないだろう」




こいつ。体の底から怒りが込み上げてくる。




そんな理由で村をめちゃくちゃにしていいと?




それじゃあ僕の村もそんな理由で?




───ふぅー




深呼吸をして心を落ち着かせる。




僕はアリスに背を向けたままもっと後ろに下がるよう手で合図した。




─ササッ




アリスは下がってくれたようだ。


教会の塔と同じくらいの高さがあるこのドラゴンに僕はどこまでやれるのだろうか。


僕は刀を構えた。




ドラゴンは前足を上げ僕のいる場所へ下ろしてくる。






───ドゴーーーンッ




僕は横に躱した。


すごい威力だが躱せる速度だ。


下ろした足に斬りかかる。


鱗があるから硬いと思ったが案外すんなり刃が入る。


これなら首が斬れる!!勝算がある!!




───ザシュッ




ドラゴンの足を斬りつけた。




「グアァァァ!!」




ドラゴンが足をジタバタとさせる。






「グウゥゥゥ」


力強い呻きが周りに響く。 すごく怒っている。




「やってくれたな、人間!!」




そう言うとドラゴンは口元に多くの魔力を集め始めた。




───ブレスか




竜種の最も恐れられる技だ。技と言っても魔力を放出するだけ。単純だが凄まじい威力と聞く。






アリスにさらに下がるよう合図し、僕はアリスから離れるようにブレスを誘導する。








───来るっ!!




僕は即座に両手を前に伸ばし目の前に壁を生成した。


これくらいなら練習なしに作れる。






───ドゴゴゴゴッ!






壁にブレスが当たっている。


もちろん壁はどんどん削られていくが、僕もそれを黙って見ておくほどバカじゃない。


壁が削られたそばから新しく生成する。






────プシュー




孤児院の庭は1面氷に覆われていた。




ブレスが終わって魔力がオーバーヒートしている。








───今ならやれる…!!




そう思い、ドラゴンの首元に飛びかかった刹那、








───「適応進化-形態モード:速」




ドラゴンがなにか発する声が聞こえ──








──カッ!




辺りが眩しい光に覆われた




僕はドラゴンの首を斬るのを諦め、冷たい地面に着地する。




僕はドラゴンの方を向く。






───いない




"ドラゴン"はいない。


先程までドラゴンがいた位置の上空には人型─女性のシルエットがあった。


その人型のなにかは地面に着地した。


人型だが竜の尾が生え全身には鱗があり、顔も竜のままだ。背丈は僕と同じくらいだ。




「これが我が能力『適応進化だ』。これを使うのは勇者と対峙した時と今回で2回だ。……まさか人類の武器がここまで発展しているとはな。これまで武器で我に傷を負わせたのは勇者のときとお前だけだ。」




偉く下が回るようだ。しかしドラゴンが能力を持っているとは。想定外だ。


竜種はその強靭な肉体を使い他者を蹂躙する戦闘様式を持つと習ったんだけど。さすが五大元素竜と言ったところか。


僕は再び刀を構える。相手の隙を伺う。


棒立ちなのに全く隙がない……!!












───消え












─ドカーーーン












───ぐはッ!!




「レイシくん!!」




アリスが叫ぶ。能力を発動する気配もする。




なんだ、何が起きた?


僕の背中に当たっているのは……壁か?


後ろに吹き飛ばされたのか。


先程僕がいた位置には足を蹴り上げた姿の竜人がいた。




──速すぎる。目で追うことすら叶わなかった。










───プシュー




音がする。ドラゴンがブレスを放ったあとのオーバーヒートと同じ音だ。


竜人の方を見る。棒立ち、横目でこちらを見ている。


竜人の肘と、ふくらはぎのところから突起物が生えておりその突起物は空洞になっている。


そこから煙のようなものが出ている。


なるほど。ブレスと同じ原理だ。


突起物に魔力を集め、瞬時に魔力を放出し高速移動か。


最初のブレスを放ち、人型になり高速移動するまでに30秒程か。


だが今の攻撃はブレスの威力程はないだろう。僕が正面から食らって生きてるのがその証明だ。


つまりブレスを放つときよりオーバーヒートしている時間は短いのだろう。


短く見積もって10秒程か?


もう発動可能だろうな。


アリスがさっき発動した能力のおかげで痛みが引いた。というか完治した。




───お前を狙う理由を言ってなかったな。


竜人が口を開く。






「なんせ200年何も喰ってなかったからな。腹が減ってしょうがない。最初に潰滅させる場所で補給しようと思ってな。1番魔力の多い者を喰おうと決めていたんだが……大当たりを引けたらしい。お前の魔力、凄まじいな。お前を喰えば全快できるだろう。」






この竜人は最初から勝利を確信しているんだろうな。本当によく喋る。


僕は刀を左手で逆さに持ち地面に突き刺しそれを支えに立ち上がる。




「魔力の多い者を食べれば魔力が回復するのか?」






「たしかお前ら人間は食事をしても魔力は回復しないのか。体を休めないと回復しないらしいな。我ら竜種は、と言うよりも、この言い方は気に食わんが『魔物は喰らったものの魔力を得られる』からな。魔族も同じだった覚えがあるな。つまりお前ら人間は魔物以下の下等生物だ。ガッハッハッ」




本当によく回る舌だ。切り落としてやりたい。


このまま舐められっぱなしも癪だな。




「その『魔物以下の下等生物に封印された』お前は何なんだ?」






竜人がこっちを強く睨みつけてくる。




「死ね」




───!?


速い。耳元で声が聞こえた直後、








ドカーーーン






今度は横に蹴られたらしい。


さっきとは違う壁にぶつかった。


アリスがそばに来て治癒してくれる。




「離れろ……アリス」




「近くで治癒しないと効果弱まるの。それにこのままじゃ死んじゃうよ!!」




自分の腹部を見ると見たことないくらい血が流れている。


血溜まりどんどん広がってアリスの靴に達しようとしていた。






回復役ヒーラーか。厄介だな。




───まずい。アリスが狙われる。








「アリス!!」






















───────遅かった






遅かったんだ。そもそも無理やりにでも逃がしていれば……


























───ああ、ああああぁぁぁぁ!!!!




僕の目の前には心臓を腕で貫かれ足が地に着かず全身を脱力したアリスと無表情で右腕でアリスを貫き持ち上げている竜人の姿が映っている。








───ズサッ




竜人は右腕をアリスの体から引き抜きアリスは力無く地面に落ちる。






仰向けになっているアリスに僕は腕で体を引き摺りながら近づく。




「アリス!!アリス!!」








───ゴプッ




アリスの口から大量の血が溢れてくる。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る