第2話「孤児院」

───目が覚めた。


見たことない天井だ。ここはどこだ。


なにかは分からないけどお花のいい匂いがする。




僕は上体を起こした。














「あら、目が覚めたのね」




修道服を着た金髪青眼の胸の大きな女性が話しかけてくる。








「あなたは?」






「ここのシスターよ。それよりも大丈夫?」


シスターが僕の方に近寄りおでこに手をあててきた。






「あなたすごくうなされていて……すごく心配だったの」


優しい人だ。


シスターは僕が寝ているベッドの隣にある丸椅子に座った。


膝を閉じてその上に両手を置いている。


こんな女性見たことない。


僕の村の女性は足開いて座るような人たちばっかだったから。




そうだ…村!








「あ、あの!ここはどこですか?僕の村は─」








「落ち着いて。ここはあなたの村の隣にあるカイン村。隣と言っても数十km離れているけどね。あなたの村は……正直どうなったのか分からないわ。あの日髭の長い人が訪ねてきて『この子は神の子だ。大切に育ててくれ。ワシの村は魔族に襲われた。ワシは村に戻り戦う。』とだけ言って君を預けて、来た道をものすごい速さで戻っていったの。」






そうか。頭の整理が追いつかない。


村の状況を確認したいけど道も分からないし、この足じゃ…


僕は毛布を捲り、自分の足を確認すると──












───治ってる




どれくらい気を失ってたんだ…






「僕はどれくらい寝てたんですか?」






「丸々3日よ。」




「でも3日じゃこの足は……」




「それは神子みこ様が治して下さったのよ。」




「みこ?」




「あら、あなたも神子様かと思ってたのだけど呼び方が違うのかしら。神子様は聖神せいじん様の子って言われていて魔力とは違う、聖力せいりょくを使って人々を救う存在なのよ。」




??


知らない言葉がいっぱいでてきてわかんない。






「ごめんなさい。ひとつずつ説明するわね。」








───聖神せいじん


私たちが信仰する神様のことよ。この世界に人間が現れてから多くの人を救ってきたと言われているの。








───神子みこ


聖神様の子供と呼ばれる不思議な力を持った人のこと。希少な存在。別名「天使」と称されることもあるわ。








───聖力せいりょく


普通、能力を使う時は魔力を使うの。けど神子様はこの「魔力とは反対の力」を使って能力を使うのよ。










なるほど、わからん。まあそのうちわかってくるだろう。






「僕は何をすればいいんですか?」






「そうね、ここはカイン村の教会兼孤児院よ。だから、あなたがいいのなら15歳の成人になるまでここで暮らしてもらうわ。」




どの道行くあてがないんだ。選択肢はひとつだろう。




















───今日からよろしくお願いします。


座っている孤児院の子供たちの前に立ち挨拶をした。うぅ、緊張する。








パチパチパチ


みんなが拍手をしている。


不思議な顔で見る子、怪しそうに見る子、微笑みかけてくれる子、たくさんの子がいる。






















ここに来て結構な日数を過ごした。






この孤児院は朝と夕方に聖神様に祈りを捧げて、


午前は一般教養を習い、午後は庭で運動したり遊んだりする。ご飯は朝昼晩の3食で大きな食堂でみんなで食べる。


パンや肉に野菜、デザートまでついてる時もある。


部屋は1人1部屋、ベッドも照明も付いてる。


カタナ村にいる時より贅沢だ。


孤児院と聞いて質素なものだと思っていた。


少し前にシスターに聞いたことがある。






───どうしてこんなに贅沢できるの?




「私もここのシスターになったときに驚いたわ。どうやら国王様が税金を惜しみなく使ってくれてるみたいなの。そもそもここの村が世界で1番大きな国の領地でね。そのうえ、国王様も昔孤児だったみたいよ。だから自分と同じような子達には幸せになってほしいんじゃないかしら」




すごく優しい国王なんだろう。


聖神様より国王に祈りを捧げた方がいいんじゃないか。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


僕は昼の自由時間が嫌いだ。


僕が入った時期もあって馴染むのに時間がかかっている。


僕の後には誰も孤児院に入ってきていない。


治安のいい国なんだろう。


カタナ村の子は僕以外誰もいない。


たぶん僕が神の子だから他の子たちと分けたんだろう。


友達もいるにはいるけどわちゃわちゃ遊ぶほどでは無い。




僕は毎日この時間鍛練を積んでいる。


鍛練と言っても木刀の素振り(剣術の授業もある、みんなは木剣だけど)と筋トレ、能力を使うことぐらいだけど。






















孤児院に入ったばかりの頃、昼の自由時間、庭の隅で座り込んで能力を使っていると、








───なにしてるの?




金髪青眼でサラサラした髪の毛は肩ぐらいまで伸びているすごく整った顔で大きなくりくりとした目の女の子に話しかけられた。








───僕、能力使えるようになったんだけど、しょぼくて……








───見せて!!




───う、うん




───すごーい!同じ石が出てきた!!すごい能力じゃん!






───他の物も作れるの?あ、その木刀は?








───できないけど…やってみる……










───わー変な形!面白いね!!






───………








───その能力さ、いつか人間も作れるようになるのかな?








───急にこわいこと言わないでよ。








───怖くないよ!できるようになったらさ、私に王子様作って!!私かっこいい王子様と結婚したいの!










───頑張ってみる












別の日






───ねぇねぇ!名前なんて言うの!!












───………レイシ












───レイシくんって言うのね!私はアリス!よろしくね!!
























それから毎日色んなものを作る練習をしてる。毎日アリスは自由時間に僕のとこに来てくれるようになった。










別の日






──今日はなにしてるの?腕立て伏せ?私もする!




──ふっ!


ぺたっ!




──全然できないや、えへへ






───僕っ、は!強く、ならないと、だから!




腕立てしながら話すの難しいよ。








別の日








───今日も来たよ!








───アリスって神子だよね?シスターと同じ色の聖力?








───そうだよ!ここの村には私とシスターしか神子がいないらしいの!






───そうなんだ、僕の脚を治してくれたのって……








───私だよ!シスターでも治すのに数日かかるって言ってたけど私はすぐに治せちゃった!!すごいでしょ!!










───すごいね。ありがとう、アリス。








───私これくらいしかできないから、えへへ










別の日




───アリスって魔力も持ってるだね








───神子はみんな持ってるよ!私は他の人より多いから見やすいだけだよ!










───そうなんだ。アリスって魔力抑えてるの?他の人たちと魔力の流れが全然違う気がする






実際、アリスの魔力は変だ。他の人は発散するように外向きに魔力の流れがあるのに対してアリスのまりょは内側に吸い込まれるような流れがある。








───それ色んな人に言われる!けど、私そんな器用なこと出来ないよ!








───たしかに








───あー!ちょっとくらいフォローしてよ!










今日






「今日は何してるの?」




アリスが僕の座っている隣に座ってきた。もう見慣れた光景だ。






「見てて」




魔力を丁寧に練る、能力を発動する。


丁寧に丁寧に!けど力も込めろ!魔力の操作を怠るな!丁寧に!力強く!




「できた」




「すごーーい!!これって本物の刀?初めて見た!」






体に力が入らない、疲れた。魔力を消費したからじゃない。そもそも魔力を消費する感覚を経験したことないけど。これは体力の消耗か。あとすごく集中したからか。うぅ、








ぱたっ




───きゃっ




アリスの膝に倒れてしまった。






「ごめん」




起き上がる力も全然残ってないや。


できた刀が目に入る、すごく綺麗にできた。


初めて木刀じゃない本物の刀を作った。


良かった。上手くいって。






「べ、別に全然いいよ!けど、私みたいな貧相な体よりシスターみたいなゴニョゴニョ……」




アリスの頬は赤みがかっている。眠い。








「って!寝てるー!!………もぉ」




頭を撫でられた気がした。


















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