第1話「お兄ちゃん」

英雄歴215年レイシ10歳




僕には優しいお兄ちゃんがいる。


黒髪黒目整った顔立ちで高身長で前髪を真ん中で分けている。


と言っても血は繋がっていないけど家が近くて僕と同い年の子は村に少ないからよく遊んでもらっていた。


あと「剣術」も教えて貰っていた。


お兄ちゃんはこの村でも剣術が1番強いらしい。


しかも刀を打つのも年齢に対してすごく上手らしい。


逆に僕は年齢に対して下手らしいけど。




お兄ちゃんはすごく尊敬できる人なんだ。




刀を打てるのはこの村の人ぐらいしかいないらしい。


だからこの村で打った刀を超高額で王都に輸出してるらしく、村の収入の大半が輸出で得たものらしい。


ただ本当に質はよく大体の刀がAランク以上で売られるらしい。




Aランクは上から2番目の評価で1番高い評価のSランク武器は神器とかそういうレベルらしい。


しかもお兄ちゃんはAランク以上の武器を打てるらしい。本当にすごい。




今日も剣術を教えて貰ってるけど、魔力で身体能力を上げてるのにお兄ちゃんの方がまだまだ速いし、




──ヒュッ!




──スカッ




力を込めて打っても躱されるか技で流される!




「ゼェゼェ、お兄ちゃん強すぎるよ」




「今日の剣術練習はここまでだな。いやレイシ、俺がレイシぐらいのときはこんなに動けなかったし力もこんなに強くなかったぞ。さすが──




普通の人ならここで「神の子」と言うだろう。




──レイシだな!よく頑張ってるぞ!」




お兄ちゃんは僕自身をしっかり見てくれているんだ。


これは僕が小さい頃から変わらない。


僕を年相応の子と同じように見てくれる。




「じゃあ俺は師匠と稽古をつけてくる」




最初こそ驚いたが今となっては慣れてしまった。


僕が無尽蔵の魔力を持つようにお兄ちゃんは無尽蔵の体力なのだろう。


うん。そうだ。そういうことにしよう。


と思ったのだ。




師匠というのは森の中で修行してる人で、身長はお兄ちゃんより低くて髪の毛はないけど髭は長くて白い、師匠にふさわしい見た目をしてる人だ。


1度だけ木刀を交えたことがあるけどめちゃくちゃ強かった。




1歩目を踏み出した瞬間に師匠は低い姿勢で僕の懐まで入り込んで




一撃だった。




でもお兄ちゃんはその人よりも強い。


技量では師匠らしいけどそれを上回る身体能力を持っている。


だけど師匠がお兄ちゃんと同じ年齢だったら勝てないらしい。


僕はそうは思わないけど。


だって同じ年齢ならその分、技量も落ちるだろうからね。




僕はよく2人の打ち合いを見学している。


何度も見た攻防で脳に焼き付いてる。


けどなかなか自分の体で再現するのは難しい。


いつかできるようになるといいな。










───3日後、昼




今日はなんだか村が騒がしい。


お兄ちゃんは村長の家に用事があるって言ってたな。


様子を見てこようかな。






「チサコおばさん、ちょっと散歩に行ってきます。」






「はいよ、行ってらっしゃい」




5年前から変わらず元気だ。


僕のお母さんが亡くなった直後におじいちゃんも亡くなって急激に老化が進んで髪も白くなったって聞いてたけど僕を預かってからは老化が緩やかになったらしい。














───しばらく歩いて村長の家が見えてきた。家の周りに村の人達がわらわらと集まっている。


村人たちの間を縫って1番前まで来た。


窓から家の中が見える。


なにかしらの会議をしているのかな。


真ん中に大きな机があり、その左側の椅子に村長が座り、村長の両側に護衛がいる。


護衛の2人は腰に刀と鞘を携えている。


護衛の1人はお兄ちゃんだ。


すごく真剣な顔をしてる。




そして村長の反対側の椅子には──












───魔族だ






正確には椅子に座っている人の両側にいる護衛が魔族だ。


紫色の目と髪色。屈強な肉体で鎧を身につけている。


恐らく椅子に座っている人も魔族だろう。


全身が包帯に包まれていて容貌があまりわからない。


ただ包帯の中から覗く瞳は紫色だ。


体格は護衛よりも細身。


ただとてつもない魔力量だ。


そして今まで見てきた魔力の中で1番濃い色だ。


まさに不気味という言葉が似合うだろう。


3人の魔族は全員腰に剣の鞘を携えている。


その鞘に納まっているのは刀ではない剣だ。


初めて見た。両刃の剣。絵本でしか見たことない剣だ。


これが一般的な片手剣なのだろう。








村長と包帯の男はなにか話しているが包帯の男は身振り手振りを使って説明のようなものをしてるが──






───村長が突然片手で合図のようなものを出した。直後お兄ちゃんが抜刀し包帯の男に斬りかかった。




そして──












───ドゴーーンッ!




強烈な爆発音と共に村長の家と周りにいた村人、僕も吹き飛ばされた。












──うぅ、痛い。ほかの村人の家に強くぶつかったたらしい。


右腕も血が流れてる。


右脚も力が入りづらい。右半身をぶつけたんだろう。






「きゃあああ」




「逃げろぉぉ」




「魔族が暴れだしたぞぉぉ」




色々な声が飛び交っている。






───そうだった。


この村の人達は魔族を酷く嫌っているんだ。


200年前に侵略された過去を持つ。


そして撃退したという事実も。


だから勝てると判断し戦闘を仕掛けたのか。


今はまだわからないことが多い。


一旦状況を確認しないと。










村の大半の家が損壊し各所で火が着き燃えている。








前方50m先で包帯の男とお兄ちゃんが刀と剣を激しく打ち合っている。


速すぎて目で追うのがやっとだ。




お兄ちゃん……!!助けたい。助けないと…!








気づいたら僕は右腕を押さえながら前方に右脚を引きずりながら歩き始めていた…




お兄ちゃん…お兄ちゃん……!!




お兄ちゃんと包帯の男の打ち合いは互角だ。




魔族の身体能力にお兄ちゃんが並んでるんだ。




やっぱりお兄ちゃんはすごいな。




でもほかの護衛の人たちは?お兄ちゃんと包帯の男の打ち合いばかり見てたから気づかなかったけど、包帯の男の後方15mに魔族の護衛2人が倒れてる。




あの衝撃を近距離で受けたんだ。


倒れて当然な程だ。




そしてお兄ちゃんの後方にも同じように村長の護衛が倒れ……いや跪くようにして動かない。


気絶してるのか。


両腕を何かを守るように円を作るようにしている。その腕の内側には小柄な村長が気絶している。


そうか。


護衛の仕事を全うしたんだ。




僕も自分の役割を……!!






お兄ちゃんが1人で魔族の相手を…




僕は損壊した村人の家に刀が落ちてるのを見つけて急いで拾いに行った。左手で強く刀を握った。


包帯の男の方に右脚を引きずりながら駆け出した。








───今までお兄ちゃんと師匠の打ち合いは散々見てきたんだ。大丈夫。魔族の気をちょっと引くだけでお兄ちゃんなら倒してくれる…!!僕は「神の子」なんだから。








気づいたら包帯の男の背後10mほどの位置で止まっていた。


背後と言っても動き続けてるから背後と言うには難しいかもだけど。






あの打ち合いに巻き込まれたら死んでしまう。タイミングを合わせないと……包帯の男が完全にこちらに背を向けた瞬間に……








───今だ!!




魔力で全力で強化した体で飛びかかろうと1歩目を踏み出した瞬間─














───来るなっ!!




お兄ちゃんが叫んだ。


僕はその声に驚いて尻もちをついてしまった。


包帯の男はこちらに向きもせず真剣に打ち合っている。そして、














───師匠っっ!!




もう1度お兄ちゃんが叫ぶと








──スッ……




突然目の前に白く長い髭を伸ばした老人が現れた。師匠だ。








「逃げるぞ小僧。」




そう言って師匠は片腕で僕を抱えた。そして師匠は走り出した。お兄ちゃんが遠くなっていく。








「待って!!お兄ちゃんが!!」






「やかましいっ!!お前じゃ何も出来んじゃろが」






「じゃあ、師匠が!!」






「ワシはお前を逃がすと約束したんじゃ。あやつと……けどのぅ、ワシもヤツが叫ぶギリギリまで行動出来んかった…!!迷ってしまったんじゃ…ワシも一緒に戦おうかと…」




声が震えている。僕は後ろ向きに抱えられてるから表情は見えない。








遠く離れていく中で打ち合いを眺めている。


だんだんお兄ちゃんの方が有利になっている気がする。












───なんだ、この違和感。




嫌な予感がする。








お兄ちゃんが包帯の男の剣を強く打った。


包帯の男は怯んだ。その瞬間お兄ちゃんは低い姿勢で包帯の男の懐に入り首に刀を振ろうとした刹那──










───え?














───お兄ちゃんの右腕が宙に舞った。












包帯の男の腹から、いや全身から剣が生えている。そして両手を大きく広げ、包帯の隙間から見える口は大きく開き笑っているのが見えた。


お兄ちゃんはギリギリのとこで後ろに飛んだらしい。だけど右腕とそれを握った刀を失っている。










「お兄ちゃんが!!お兄ちゃんが!!」




僕は抱えられた腕の中で暴れた。その中で一瞬遠くにいるお兄ちゃんと目が合った気がする。いつもと同じ笑顔で笑いかけてくれてた気がする。






「えぇーい、うるさいのぅ」




直後首の後ろに衝撃を感じ、僕は気を失った。












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