能魔大戦

星のおかゆ

「出会いと別れと決意」編

プロローグ

───これは能力と魔法が混在する混沌とした世界の物語である。








え?僕は誰かって?「最高神」とでも呼んでくれたまえ。








───さあ、始めようか。






───英雄歴205年、辺境の村、カタナ村の診療所にて




レイシ、爆誕。


それに伴い診療所及びその周辺の家屋が損壊。


1人の男が瓦礫を勢いよくどかして出てくる。


ボロボロの白衣を着たその医者が叫ぶ。




「生まれたぞぉぉぉ!!神の子が!!!」




その声に、強烈な爆発音を聞き、慌てて外に出て、診療所があった場所を眺めていた村人たちは歓喜する。




「うおぉぉ!!」




「ようやくなのね」




「そうか、やっと…」




数々の声が飛び交う中、1人の女性が瓦礫の中から姿を現す。黒髪長髪で白い肌の全裸の女性の両腕には赤子が抱えられ、




「ちょっと私の心配もしなさいよ!」




と、周囲の者たちに言う。




「あんたは強いから大丈夫だろ!」




「この村で1番強いんじゃないか?」




と周囲は冗談を言う。




「まったくもう!」
















───「これがアンタが生まれたときの話よ」




年老いた白髪の女性が優しい笑顔を浮かべながら言う。




「そのときのお母さん元気だったんだね」




英雄歴210年、レイシ5歳。黒髪黒目。この村では特に珍しくない外見だ。




「態度だけよ。あの子ったら体は弱いくせに男と喧嘩したり、魔物と戦ったりしてたんだから。アタシじゃなくてあの子が育てていたらアンタも気が強かったのかもね。」




「チサコおばさん厳しいもんね……ねぇ、お母さんが死んじゃったのって…」




「あんたが産まれたからとかじゃないわよ。あんたが乳離れするまでしっかり生き抜いたわ。」




「そっか…なんで僕が神の子なの?」




「もう寝る時間よ。その話はまた今度しましょ」




老婆が蝋燭の火を消し、少年は眠りにつく。






───なんで君が神の子なのか教えてあげる!




全体が空色の空間でたくさんの着物と装飾品を身につけた黒髪長髪で黒目の幼女が言う。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーレイシ視点ー




なにここ?夢?変な服着た女の子が喋り掛けてくるし怖いよぉ。チサコおばさんどこにいるの。


助けてぇぇぇぇぇぇ






と、とにかく、ここがどこか聞いて帰り道教えて貰おう。






「あ、あの、こ、こ、ここはどこですか?」




「ここは僕の精神世界だよ。それで君が神の子である理由なんだけどね、」






こわいよぉぉぉ。精神世界?なにそれ。しかも話


し続けるし、どうやったら帰れるのぉ。






「聞いてる?僕が村の人たちと結んだ契約の話をしてるんだけど」




やばい、聞いてなかった。どうしよどうしよ。


………とりあえず聞き返そう




「契約?」




「そうだね、簡単に言うと『大切な約束』だね」




「へ、へぇー」




「君の村の人たち、魔力持ってないよね?」




「魔力?」




「そっか、魔力持ってない人達しかいないから見たことないのか……それじゃあ、僕のことを目に力を入れて見てごらん?」






目に力入れるって何言ってんのこのひとぉぉぉ。


怖いよ、関わっちゃいけない人だよこの人。






「とりあえずやってみな」






言われた通りにやってみよ、、、




「ふっ!ゔぅぅぅ!」




なにも変わらないよぉぉ






「あはは!なにその顔!おもしろー!」






君がやれって言ったんじゃん!お腹抱えて笑うほどなの?ひどい






なんか近寄ってきた!






肩組まれたんだけど……






「いいかい?目に魔力を込めるんだ。普通なら産まれたときから自然とできるんだけどね。なんせ君のとこの村人たちは魔力を持ってないからね。今の君は魔力を持ってるだけ。そんなのもったいないよね。やってごらん?」








なんかちょっと真面目に話してる。








───「魔力を込める」「自然とできる」ってことはできて当然ってことだよね?






産まれた時から持ってたものだけどずっと使い道が分からなかったんだ。それが1つ、やっとわかったんだ。魔力を込める。それだけなのに心から湧き上がってくる。








───ああ、気持ちの問題だったのかもしれない








見える。この女の子の周りを覆う半透明で紫色の霧のようなものが。これが魔力。




「いいね、まぁこれぐらいはすぐできてもらわないと困るけどね」




僕の目の前に立った女の子が嬉しそうな顔を浮かべて言っている。






「ありがとう。なんか、もう、なんか」


涙が出そう。すごく嬉しい。今まで料理とか村の人たちの手伝いもちゃんとできてなかったからかな。






「ちょっと、泣かないでくれよ。これくらい普通のことだよ?」






「普通にできることが嬉しくて」




目を擦りながら言う。今まで「神の子」「神の子」ってたくさん言われてきたけど別に特別なにかできるわけでもなかったから。


目を開けてまた女の子の方を見る。あれ、




「君の魔力、、、」






「そうだよ、僕の魔力は君の魔力より遥かに少ない。……話を戻すね。君の村の人達が僕と結んだ契約の話。」








───約200年前、魔王軍が世界中を侵略し始めた頃。


この土地には既に今の人種の人達がいて僕を祀ってくれてたんだ。森の1番大きい木の根元に石碑を作って、食べ物や花とかを置いてくれてた。


当然この土地にも魔王軍は攻めてきたよ。


そのときに村の人がたくさん集まって「どうかこの村を助けてください」とか「私はいいのでどうか妻と子だけでも」とかいろいろ祈られてね。


僕は誰かを守ったりとか倒したりとかする力は持ってなかったんだけどね。


でも今までの恩返しがしたくて。この人たちの未来を照らしたかったんだ。そのときかな。初めてその人たちの前に姿を現したんだ。そして、こう言った。






───妾に魔力を与えたまへ。さすれば道は開かれん。






そのときの村長は即座に頷いたよ。そして契約を結んだんだ。








───村人の魔力を貰う代わりに高い身体能力を与える。






そして僕の魔力が満たされたとき神の子を授ける。






こうして高い身体能力を得た当時の村人たちは自分たちが打った刀で魔王軍を撃退したとさ。めでたしめでたし。まぁ人間からしたら高い身体能力かもしんないけど神の中では僕は体が弱い方なんだよね〜。










どういうこと?この人がした契約って…いや


「それって本当に契約なの?」




女の子の口角が上がった。


「バレちゃったか〜、そうだよ。契約とは言えないね。」


やっぱり。




「せっかく集めた魔力を最後に使っちゃってるよね。」






「さっき話した通り僕は誰かを守ったり、助けたりするような力は持ってないからね。僕の能力は─」






「持ってるよ、じゃないと今、この村はないから」


話を遮っちゃったけどこれだけは伝えたかった。






「嬉しいこと言ってくれるね」


ほんとに嬉しそうな顔してる! 素直なんだな。




「そろそろ時間だね。君には約200年分の人たちの魔力が宿ってる。200年分の人たちの祈りと願いだ。」






「それでさっき何を話そうと──」


突然視界がぼやけだした。だんだん意識が……


最後にこれだけでも






「君の名前は」






女の子の口角が上がった気がした。






───アマテラス


「もっと自信持って生きな!レイシ、君は神の、いや"私"の子なんだから!」




そっか、この子が……










───目が覚めた。昨日のあれは夢?いや、きっと違う。確かめたい。


この村の半分は森に囲まれてる。けど村長の家の裏にある森の1番奥にすごく大きな木がある。1回だけチサコおばさんと行ったことがある。






チサコおばさんはもうそんな遠くまで行ける体力はないから晩御飯までには帰る約束をして1人で行くことになった。森と言っても道はあるからまっすぐ行くだけなんだけどね。








大きい木の根元と石碑が見えてきた。ここが……


ん?なにか、石碑のななめ前になにかがある。いや、いる。倒れた身を縮めてる。茶色の布を着た紫色の長い髪の








───魔族だ


まずい、まずい、まずい、なんで?こんなところに?ここは土地神様に守られてるんじゃ、いや、あの神様はそんな力ないんだった。それにしてもなんで──










───うぅ、痛いよ


はっとした。女の子だ。肩から肘にかけて怪我して血を流してる。




「大丈夫?」




その声に驚いて女の子はバッと顔をこっちに向けた。


紫色の瞳、やっぱり魔族だ。チサコおばさんに聞いたことがある。魔族は人の姿をした魔物だって。人を騙して殺す残酷な生物って。逃げた方が──






「たすけて、血が止まらないの」




たすけて、この言葉を聞いた時点で僕には逃げるという選択肢は消えた。でもどうしよう、一応救急用の道具は持ってきたけど僕にできるかな。






───もっと自信持って生きな!


できる!すぐに包帯を取り出して女の子の腕に巻いた。






「下手くそだね。」




女の子が包帯の巻かれた腕を見て笑いながら言う。




「ごめん。」




これしか言えないよぉぉ。






「でもちょっと痛みなくなったよ。ありがとう。」


嬉しそうな顔だ。






「君は魔族なの?」






「魔族だよ、魔族嫌い?」






「初めて会ったから…わかんない」






「そっか、私は人間のこと好きだよ。魔族と人間仲良くなってほしいな。」






「僕も…みんな仲良くなってほしいって、思う…どうしてここにいるの?」






「逃げてきたの。その途中で魔物に襲われて怪我しちゃった。」






「なんで逃げたの?」






「だって、みんな私のこと『姫様』とか『王様』とかばっかり言ってうるさいんだもん。」


ほっぺを膨らませ、口を尖らせながら言う。


僕と一緒なんだ。ん?余裕がなくて気づかなかったけどこの子




「すごい量の魔力だね」






「そう?魔族は人間より魔力が多いんだよー。え、ちょっと待って!怪我して魔力探知切ってたけど君の魔力の量の方が多いじゃん!」




すごいびっくりしてる。いや、それよりも魔力探知ってなんだ。文字通り魔力を探知するんだろうけど、




「魔力探知?なにそれ?どうやるの?」






「あれ、魔力探知って人間の中でも基礎的な魔力操作だからみんな知ってるって聞いてたんだけど……えっとね、魔力をうすーーーく拡げたらね、その魔力に触れた相手の位置が分かるんだよ〜 」






なるほど、とりあえずやってみよう。


魔力をうすーーーく拡げ──






───ばふんっ!




魔力が拡散しちゃった。




「あはは、全然薄くないよ〜。でもこれだけの魔力持ってたら細かい操作難しそ〜」




あ、この子優しい子だ。うちの村男女問わずみんな漢気強いからこういう子は絵本の世界だけだと思ってた。




続けて女の子が




「うーん、普通に魔力を拡げてみるのはどう?」






たしかに、それなら簡単だ。




───スーーーーー




魔力が周囲にどんどん満たされて、






───森全体を包んだ




目の前にいるこの子はもちろん森にいる動物の位置まで分かる。これが魔力探知…




「すごーい!こんな魔力見たことない!すっごいきれい!」




テンション高っ!そのテンションのまま




「えっと、君の名前は!」






「レイシ」






「レイシくんの魔力、紫の中にキラキラしてるのがある!夜空みたい!!」




「ほんとだ」




このキラキラしたものはこの子もアマテラスの魔力にもなかった。




───君の魔力は200年分の人たちの祈りと願いだ。




これが祈りと願いなのかも。




「君の名前は?」






「私はベルフラワー。ベルフラワー・リインカーネーション。」




「いい名前だね。ベルって呼ぶね」




と言った瞬間、




「え、」




ベルフラワーはすごく驚いた顔で固まってしまった。




「大丈夫?」




「だ、大丈夫だよ!……そっか、そういうことなんだ」




本当に大丈夫だろうか。何かを理解したような素振りを見せてるけど




「どうしたの?なにか───」




───ガサッ




と近くの茂みから音がした。僕たちは2人揃ってそっちの方をすぐに向く。驚いたんだ。僕たちは。


「誰かに見つかったかも」とかそういうものでは無い。




───魔力探知に引っかからなかったのだ。




音がした方には全くもって普通の服装、正しく村人という見た目の男がいた。だからこそ異様。


こんな人、村でも見たことない。絵本で見る冒険者のような見た目でもないし、何者なんだこの人。








「あなた、だ、誰ですか?」




ベルが震えた声で聞く。






「驚かせてしまったならごめんね。」




優しい声色だ。表情も。僕とベルの緊張は一気に解ける。




「ただの通りすがりだよ。聖地巡礼をしてるんだ。」




嘘じゃない気がする。現に今石碑の前で膝をつき、手を合わせ祈りを捧げている。僕たちはそれをぼーっと見てた。




男が石碑に手をかざした。




───幸あれ




一瞬男の手を中心に周囲が光に包まれた。ような気がした。






「お兄さんすごく強いでしょ。」




ベルが訊く。確かにそんな気がする。多分だけど魔力探知に引っかからないって相当すごいことだと思う。その上この人から魔力を感じない。いや、感じさせないようにしてる気がする。




「あまり長居するつもりはないんだけど久しぶりに人に会ったからね。少し話そうか。……僕は強くないよ。何ひとつ守れなかった。」




表情はずっと無表情だけど口調からとてつもない後悔と哀愁を感じる。




目が合った。僕の方を見てる。


「君の魔力、すごい量だね。魔神よりもさらに多いね。僕が見てきた中で1番多いよ。そして能力も、とてつもないね。」




魔神?聖地巡礼してきた中にいたのかな。僕は他の神のことはわかんないや。それよりも能力。アマテラスも話そうとしてた。






「あの、能力って──」




「魔神?それってあの、全生物に魔力を与えたって言う。あ、ごめん。遮っちゃった。」




ベルが両手を合わせ片目を瞑り舌を出してる。ごめんね。てへっ。って感じがする。






「ああ、そうだ。まぁ簡単に言うと1番魔力が多い神様のことだよ。」




それを聞いたベルがキラキラした目でこっちを見て




「レイシくんすごい!じゃあこの世で1番魔力多いってことじゃん!」




確かに。そう考えるとなんだか嬉しくなってきた。自分に自信が持てそうかも。とニヤけていると、




「能力のことだろう?自分の能力は自分で知っていく方がいいだろう」




変わらず無表情で話している。




「いや、そもそも『能力』ってなんなんですか?」




「なるほど。そこからか。」






───能力というのはまず持つ者と持たない者がいる。ほとんどの場合、産まれた時点で能力の保持の有無が決まっている。








───能力を持つ者を能力者と呼ぶ。また、持たない者を無能力者と呼ぶこともある。








───能力には明確にできることが決まっていない。極端な話だが炎を出す能力だと思っていたが水も出すことができた。みたいな感じだな。逆に小さな火を一瞬出すことしかできない。ということもある。






「まぁ、能力者の解釈次第だがな。まぁとてつもない解釈をできたところでそれに伴った魔力量と出力、技量がないと実現できないが。逆も然りだ。」




「なるほど。ありがとうございます。」




えぇぇぇぇ、手から炎!?キモっ!そんなこと出来るやついんの?怖い。






「解釈次第…そうなんだ」




ベルが希望に満ちた目で言う。続けて




「あなたは魔族のことどう思ってるの?」






「魔族も人間も神も等しく命だ。」






なんだろう。この気持ちは。喜び?憧れ?尊敬?僕にはまだわからないや。


ベルはさっきとは少し違う輝いた目で見ている。






「君たちはこれからすごく強くなるだろうね。魔族の君は強力な魔眼と能力に目覚めるだろうね、そして人間の君はその大量の魔力を存分に活かせる能力を持ってるよ。」




ほんの少しだけ男が楽しそうに話してた気がする。


ていうか魔眼ってなんだろう。




「そろそろ次の聖地に向かおうと思う。その前に」




男がベルの負傷した腕の横に手をかざした。


ベルはギュッと目を瞑る。


周りが温かい光に包まれた。


するとベルの包帯に滲んでいた血が消えた。




「あれ、痛くない」




ベルは驚いた表情で言った。




「え、治ったの!?やったー!」




すごく嬉しそうだ。僕も嬉しい。




男は既に歩き出していて僕たちに背を向けていた。




「お兄さん!今のって!」




ベルが大きい声で言う。男は背を向けたまま




「魔法だよ」




とだけ言って僕たちの前から消えた。




「まほう?」




ベルの方を向いて聞いた。




「私も知らないよ。初めて聞いた。」




「あ、そういえば魔眼ってなんなの?」






「魔眼はね、能力が宿った目のことだよ。魔族だけに現れる特徴らしいよ。能力と一緒で持たない人もいるけど。魔眼を持ったらね、瞳の中に印みたいなのが刻まれるんだよ」






「そうなんだ、じゃあ能力と魔眼両方持ったら…」




「そう!めちゃくちゃ強いってことなの!」




「じゃあベルはめちゃくちゃ強くなれるんだね」




「あたりまえじゃん!あっ!そろそろ帰るね、じゃないと真っ暗になっちゃう」




「ほんとだ、もう夕方だね」




「レイシくん、もう会えないかもしれないけどいつかまた会ったらたくさん話そうね!」


そう言って手を振りベルは走り出した。




「うん!お互い強くなって会おうね!ベル!」


僕はそう言ってベルを送り出した。魔族は悪い者と聞いていたけどいい人もいるんだな〜。






その後、石碑に祈りを捧げて家に帰った。










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