複雑な関係
桜田実里
複雑な関係
私が、小学3年生だったころ。
まだ異性をあまり意識したことがなかった私は、男女関係なくクラスメイトと接していた。
しかし私は引っ込み思案で友達が少ないので“接する”と言ってもみんなと仲がいいわけではなかった。
そんな私が男子の中で一番仲良くしていたのは、Hくんという男の子。
小1のころから背の順でペアになることも多く、相手も私と似たようなタイプであまりしゃべるような性格ではなくて会話のテンポも合うのでとても話しやすかった。
それは、夏が終わり秋の季節になったころ。
「おはよう」
「あ、おはよう」
私が話しかけると、あいさつを返してくれた。
「今日は、上着来てるんだね。めずらしい~」
Hくんは夏はともかく春も上着を着ていなかったので、てっきり上着を着ないものだと思っていたから。
「うん。そろそろ寒くなってきたし」
「だよね〜。私も今日は寒くて、上着着てきちゃった。今年度着るの初めてだよ」
「オレもそう」
そんなたわいもない会話をするくらい、私たちは気軽に話せる関係で。
学校生活を人並みに楽しんでいたそんな私には、一人、気になる人がいた。
いわゆる1軍グループに所属している、クラスメイトのAくん。背が高くて、スポーツ万能で、ちょっと問題児だけど根はやさしい子だった。
小3になった4月、臨時で希望の掃除場所を決めることがあり、そのとき私が適当に選んだのは、男6に対して女1の、そのとき男子となんてほとんど関わりがなくて、男子=暴力的、怖いと思っていた人見知りの私にとっては地獄の掃除場所だった。
誰も黒板に名前を書いていないからここにしたのに。あとから書いた人たちがいたなんて……。
ほとんど物がなくて、カーペットの敷かれた一室。そもそも7人もいらないので、掃除でごまかすことも出来ない。しかもその6人は1軍男子。
やることがほとんどないので、掃除の時間しゃべっている6人。
サボるのは心苦しいので、とりあえずわたしはど真ん中に置かれたつくえ数個のうちひとつを運ぶことにした。
そして、つくえの端へ手をかけたとき。
「あー、ちょっと待った!」
Aくんが、私のところへ駆け寄ってきたのだ。
そして私からさらりと机を奪い、
「お前、女の子だろ。こういうのは男の俺らにやらせとけばいいんだって。おい、お前らも手伝え」
と言って、机を運び始めたのだ。
男子って怖いだけかと思ってたけど、意外にやさしいんだ……。と、私の中で何かが動いた気がした。
他の男子たちも机を運び、あっという間に終了。
臨時だったので、このメンバーは一日で解散。もう一緒に掃除することはなかった。
それが私がAくんを好きになったきっかけ。
今思えば、掃除をサボってると思われたくなくて言った言葉なのだろうけど、当時の私は見事にこの発言で落ちてしまったのだ。
そして秋になったころ、掃除分担が変わった。
私の今度の掃除場所は、下駄箱。数少ない私の友達と一緒でうれしかった。
その子はIちゃん。みんなと仲が良くて優しくておしゃれで、私にとって友達であり、憧れでもある存在。
気さくな性格のIちゃんは、いつも私を笑顔にしてくれる大好きな友達。
新しい掃除場所へ二人で話しながら向かっていると、すでに下駄箱には他のメンバーがいた。
一人は、たまに話すくらいの友達である女の子。そしてもう二人が、HくんとAくん。
掃除の時の話はまったく覚えていないので、たぶん特になにもなかったんだと思う。
そんなある日。
運動場に向かおうと一緒に廊下を歩いていたIちゃんが、とつぜんこんなことを言い出した。
「……私、好きな人ができたんだ」
「えっ、好きな人?」
私が聞くと、Iちゃんは頬を赤らめて恥ずかしそうにつぶやいた。
「……Aくん……なんだけど」
……え。
思考が停止する。
Iちゃんと、好きな人が、同じ……。
「そ、そっか。私、応援するよ! 頑張って」
私は頭を上下に振って両手を握る。
Iちゃんは、にっこりと笑ってお礼をしてくれたけど。
……自分もAくんが好きなんだってことは、言えなかった。
諦めなきゃいけないのかな、友達の好きな人だし……と悩んでいたころ。
Hくんが、私のことを好きだといううわさを耳にした。
最近した席替えでHくんと隣同士になったけどそんな雰囲気もなかったし、さすがに嘘だろうなあと、そのときはとくに気にも留めていなかった。
数日たった日の掃除の時間。その日はIちゃんが休みで一人で掃除場所に向かっていた。
するととつぜん後ろから誰かに呼び止められた。
私を呼び止めたのは、Aくん。
掃除場所が一緒なのでなんとなく二人で歩いていると、Aくんからこんな話が飛び出した。
「そういえば、H、お前のこと好きなんだってさ」
今まで、気にも留めていなかったうわさ。
だけどここで、私はその話を信じてしまった。
……それは、Hくんと一番仲のいいAくんの話だったから。
その話をしてくるってことは、Aくんは私のこと、好きじゃないんだろうなあ。
その日の掃除終わり。
教室へ向かう階段で前を歩いていたKちゃんが立ち止まり、振り向いて私を見下ろした。
「実里ちゃん、Hのことどう思ってるの?」
またずいぶんと直球な質問。
フレンドリーで誰とでも仲のいいKちゃんだから、HくんのことはAくんから聞いたのだと思う。
「……好きなの?」
私をまっすぐ見てきて、さすがにごまかせるような雰囲気じゃなくて。
……Hくんのことは友達だと思っていて、そういう好きじゃない。
だけどそのまま言うのはなんだか罪悪感があって、必死に考え抜いた結果。
「……同じ人間なんだから、そんなの決められないし、わからないよ」
という日本語とは思えない文言を言い放ち、会話は終了。
私は友達と好きな人が同じで、好きな人の友達は私のことが好きかも。
H→私→A←Iというとんでも地獄四角関係。Aが一番罪な男です。
そして好きな人がいないA以外の恋愛が発展することはなく、小4、小5、小6となりそのまま卒業。
どこまでが本当でどこまでがうそなのか、もう知る由もない。
――――――――――――――――――――――
あとがき
私が小学校3年生の時に体験した、楽しい楽しい地獄の四角関係のお話でした。
多少脚色したところはありますが、ほんとにけっこうそのままです。
この話の中で一番あり得ないセリフは「お前、女の子だろ」だと思うんですけど、まじでそのまま言ってました。小3にしてこんなことを言うなんておそろしい……。
というかこれ、男子のこと意識したことがなかったって言ってるんですけど、ちょっと違いますね。ある特定の男子以外は女子と同じだと思っていた、が正しいです。
んですごいのが、ここで登場しているのが“四角関係”ってだけってことなんです。他にも、Iちゃんのことが好きな転校生の四股男子、実は私とIちゃんが好きだった人はもう一人いて、それはIちゃんの幼なじみだった、とかいろいろあります。
公開したのはいいものの、なんだか黒歴史になる予感……!
ほかにもまだこんな話がたくさんあるんですけど、小3のこの話が一番印象に残っています。他の話は小説のネタにするかまたエッセイとして書きます。
そして、その後の話を少しすると。
Kちゃん含め、というか学年全員と私は中学が違ったので風のうわさ程度の話なのですが、Aくんは彼女と関係をこじらせて問題を起こし、停学処分を食らったらしいです。もともと小学生のころから問題児だったので、なんでAくんのことが好きだったのか今の私にはまったく分かりません。他にもAくん、Kちゃんの高校ぐらいは耳にしたのですが、Hくんに関しては消息不明レベルで話を聞かないし地元でも見かけないので、引っ越したのかな。Iちゃんとは今でも連絡を取っていて、同じ高校に彼氏がいて幸せらしいです。よかった!
複雑な関係 桜田実里 @sakuradaminori0223
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます