第4話 再会
「ほぼ同じぐらいに、もう一つ、別の出会いがあった。」
今度は表情を硬くしてレオンハルトが語り始める。
「以前、リーマン先生の元で一緒にいたエレナだ。
彼女は約束を守り、学術院の入門生として入学してきた。
だがその時の彼女は、随分と印象が変わっていた。」
ミナトはそのレオンハルトの言葉に、何か妙なひっかかりを感じていた。
レオンハルトが感じた印象の変化とはどのようなものだったのか。
それが気にかかったのだ。
「今から考えれば、エレナは人を見下すようになっていた感がある。
あの当時の俺はその辺がまるで解らない小僧だったからな。
俺もここにきて、ようやく言語化できる所まで成長したわけだ。」
「エレナ君の変化の要因は何だったのかね?」
ギルベルトが自嘲気味に話すレオンハルトに質問する。
それに対して、レオンハルトはかぶりを振った。
「それは流石に解らないな。
彼女が自分の生まれを知ったのも、相当早い段階だったというのは、この間に彼女自身から聞いたばかりだ。
恐らく……恐らくだが、リーマン先生の逝去が原因だったと思われる。」
「逝去……ユリウスはそんなに早く逝っていたのか……。」
ギルベルトが呆然、といった声でつぶやいた。
レオンハルトは瞳を閉じて、ギルベルトに語る。
「知っての通り、リーマン先生はリューガー公家と深い関りがある。
リューガー公の死、即ちツェッペンドルンの一件の直後に、俺の元へ先生の逝去の報が飛び込んできたんだ。
ひょっとしたら、リーマン先生はリューガー公の死によって健康を害し、そのまま命を落とすことになったのかもしれない。
その時俺は動けなかった……いや、動くことが許されなかった。
あの『事故』についての事情聴取で完全に拘束されていたからな。
エレナはそこについても、棘のある言い方をしていた気がする……。」
「仕方ないよ……あれだけの事件だったんだから……。
エレナはその辺りをわかってくれなかったの?」
ミナトが悲しい表情をしてレオンハルトを慰める。
その言葉を受けて、レオンハルトはまた静かに答えた。
「先にも言った通り、あの当時の俺は人の心の機微を悟るのが不得手だった。
だから、エレナの言葉に『棘があった』というのについても、今だから気付いたという程度の話なんだ。
大体あの時は、エレナからの手紙でリーマン先生の逝去を聞いて、ただただ落胆していただけで、便り一つよこさなかったのだからな。
エレナからすれば、こういった所も気に入らなかったのかもしれん。」
「成程。君に対するエレナ君の考えは少しだけ解った。
後は彼女がなぜ歪んだか、だな。」
ギルベルトがレオンハルトに問いかける。
その言葉を受け、レオンハルトが天井を仰ぎつつ語り始めた。
「これもまた推測なんだが……。
彼女は年頃になり、そういった知識が相応に入り始めたのが大きかったのではないかと思う。
幼い頃は、生みの親と育ての親が違うということを漠然と認識していたに過ぎなかった。
だが、成長するにしたがって、生みの親の穢れた行為の結果が自分なのだとも思い始めたのではないか。
同時に、その血筋がかなりのものであることも知り、恨みと誇りのコンプレックスが生じて歪みが顕在化したのではないかと、俺は推測する。」
「自らの誇りを血筋に求めたか……。
君とは正反対だな。」
「そうかもしれん……。
俺は俺自身の力を高めることで誇りを手に入れた。
彼女は、自分の外によりかかる誇りを探した。
その内の一つがリーマン先生だったが、そのリーマン先生が亡くなられたことで、エレナの最後の箍が外れたのではないか……そんな風に考えた。」
ギルベルトの瞳が、また暗くなった。
自らの親友の逝去、それによる姪の暴走に至る火種。
それらを受け止めて、彼は沈黙している……。
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