第3話 親友
「拳の修業に努めていたある日、獅子の
スメラギ師は豪胆にして豪放磊落。気風のいい御仁でね。
その隣に目つきの鋭い狼の獣人のあいつがいたんだ。」
今まで見せてきた中でも最高に優しい瞳を見せて、レオンハルトは語り始めた。
「その時、ヤマト師匠の元では、自分を含め四人の人間が修行をしていた。
この四人を見て、あいつは辛辣なことを言ったんだよ。
『どいつもこいつも大したことねぇな。オヤジが言うほどには見えねぇぜ?』
生意気だろう?
当然これを聞いた道場生は皆憤慨し、その場で一番の古株があいつに手合わせを挑んだ。
続いて、俺も、俺もと、気づけば三対一で手合わせを行なう風になっていた。」
レオンハルトはますます目を細め、心底楽しそうに話す。
ミナトもここで言われる『あいつ』が誰なのか解っているがゆえに、レオンハルトと同様の微笑みを漏らし始めた。
「あいつは三人抜き、こっちは一人勝てば良し。不公平極まりない。
そこで師匠は、傍観していた俺を代表として、一対一の試合に仕切り直した。
流石に師匠の命の前では、誰もが不服を申し立てられない。
さらに言えば、この四人の中で最も腕が立つのは俺だったというのもある。
なにせ魔導闘法を会得して、皆伝も間近だと噂されていた程だからな。
そうしたら、あいつは『よりによって、一番のウラナリかよ。』と俺を小馬鹿にしたんでね。こっちも言い返してやったのさ。
『お前程度にはできると思うがね。』と言った具合に。」
レオンハルトの口から、小さな笑いが漏れた。
その時の記憶が余程楽しいものだったのだろうことは、二人の目にも明らかだ。
「スメラギ先生、ヤマト師匠立ち合いの下、俺たちの試合が始まった。
向こうは見下した笑いを崩すことなく、鋭い左拳を放ってきた。
俺はそれを寸前で躱し、後ろ回し蹴りで様子を窺った。
あいつは俺の一撃を躱したところで、表情が引き締まったよ。
同時に、こっちもあいつを見下していたら負けることがはっきり解った。
そこからは全力の応酬さ。
向こうは気功を、こっちは魔導闘法を使うことこそなかったが、使い始めていたら本気で『死合い』になっていた。
そして最後は意地の張り合いだ。
とにかく一瞬でも長く相手より立ち続けてやることしか考えてなかったな。
だが、結果は共倒れ。
どっちも同時に崩れて終わり、勝負なしになった。」
すうっと、ひと息ついてレオンハルトは紅茶を啜った。
つられてミナトも紅茶を啜る。
「傑作なのはここからだ。
倒れて空を仰ぎ見てたあいつに俺が手を貸したら、開口一番『おめぇなら最高のダチになれるな。』と言ってきた。
そこから差し出した手を握って立ち上がり、『悪くねぇだろ?』と人懐っこい笑顔を見せて笑いかけてきたんだ。
それを聞いた直後、お互いぼこぼこに脹れた顔で大笑いしたよ。
この瞬間は、何もかもがどうでもよくなった。
自分の昔の話も、ツェッペンドルンも、遺跡工学の締め付けも。
そして最後にあいつは自己紹介したんだ。
『俺はヒュウガ・アマギだ。よろしくな、ダチ公!』ってね。」
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