第5話 ツェッペンドルン・2

 レオンハルトは瞳を閉じてさらに語り続ける。


「あの夜……俺たちは発掘調査一周年記念の酒宴に招かれていた。

 そのため、という訳ではなかったが、少なからず浮かれていた人間がいたのというのは間違いない。

 だがそれでも、研究員の各々がやるべきをやり、その日の作業を全て安全に終了させたはずだった。」


 ギルベルトの瞳が青く光っている。

 何かを聞き届け、全てを記憶しようとしている。


「異変に気付いたのはエネルギー回路閉鎖作業が一通り終わったところだ。

 従来ならばそのまま回路は閉鎖され、何事もなく待機状態へ移行する手はずになっていた。

 しかしその日は待機状態にはならず、エネルギーが次々と流入。

 一気に熱線砲のエネルギーチャンバーは臨界へと向かっていった。

 多くの研究員がエネルギーレベルを引き下げようと、様々な操作を試みた。

 だが何をやっても、流入が止まらない。」


 ミナトはレオンハルトの顔から視線を外し、目を強く閉じた。

 故郷の村が焼かれる瞬間の記憶が、彼女の脳内を駆け巡る。


「そして来るべき時が来た。

 チャンバーに蓄えられたエネルギーは一斉に放出され、施設内は地獄の溶鉱炉と化した。

 放出された熱線で空気はプラズマ化し、『障壁』の魔法で辛うじて守られた俺とカウフマンを除いて、全ての人間が文字通り『蒸発』したんだ……。」


 レオンハルトは、カップに残っていた冷めた紅茶を一気に喉へと流し込んだ。

 そしてポットに手を伸ばすことなく、そのまま言葉を続ける。


「熱線砲の威力はあらゆる兵器も比較にならない、桁違いのものだった。

 俺が全開でかけた『障壁』でも熱量の全ては防ぎきれず、身体のあちこちに火傷ができたほどだ。

 エネルギーの奔流が終わり、目を開いた時は呆然とした。

 頑強な遺跡の構造材の全てが焼けただれ、誰一人として人影すらなくなっていたんだからな。

 だが状況が飲み込めた瞬間、村の事を思い出し、射出された熱線の後を辿って外へと飛び出した。

 そこで俺が見下ろした村の全ては、ただ一面の焼け野原になっていた……。」


「あたしは……。」


 レオンハルトが口を閉じた瞬間を見計らい、ミナトが口を挟んできた。


「あたしは、たまたま地下室にお酒を取りに行っていたから難を逃れたんだ。

 それでも背中に大火傷を負って……そこからはあなたに助けられるまで、まるで記憶がない……。」


「そうだな。

 あの村の中で俺が命を助けられたのはわずか三人。

 君はその中の一人だ。

 だが、君以外の人間については、その後病院で息を引き取ったと聞いている。

 そうなると、俺はただ苦痛を長引かせたに過ぎなかったということに……。」


「そんなことない!」


 沈痛な表情で悔恨を口にするレオンハルト。

 それに向けてミナトが強い口調で否定の言葉を投げかけた。


「そんなことないよ!

 だって、その人たちはベッドの上で親戚に看取られて逝くことができたんだよ?

 みんな、みんな魔法使いが助けてくれたって、喜んで逝っていったんだよ?

 あなたは間違ってない! あなたはみんなを助けてくれたんだ!」


「そう言ってくれると救われる……。」


 レオンハルトはどことなくぐずついたような声を出し、ミナトに答える。

 そこにギルベルトが言葉を発してきた。


「その後の情勢はどうなったのかね?」


「ああ、そうだな。

 その辺も話しておかないと片手落ちだ。」


 レオンハルトはそう言うと、書棚の『資料』と掲げられた棚の前に歩み寄った。

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