第4話 ツェッペンドルン・1
レオンハルトの表情に緊張の色が浮かぶ。
ミナトもまた重い表情で彼の顔を見つめている。
二、三分もしただろうか。
ようやくレオンハルトが重い口を開いた。
「ミーナ……済まない。そろそろ始めさせてもらう。」
レオンハルトは緊張を超えた不安を見せ、ミナトへ語り始めの許可を願い出た。
ミナトは何も言わず、哀しげな表情のまま静かに首を縦に振る。
それを見たレオンハルトはゆっくりと口を開き始めた。
「俺が十三歳の時だ。
ツェッペンドルン付近にある山、マケイナ山の山腹に遺跡が発見された。
その報はすぐに学術院へと通達され、事前調査の調査隊を即時派遣。
遺跡の中には強力な熱線砲が備え付けられており、それは稼働可能な状態だとの報告があった。」
レオンハルトはカップに手をかけ、唇を湿らせる程度の紅茶を口に運んだ。
「その後、本調査を行うに当たってはローデンバルト先生が中心となって、調査隊の人選を行なった。
遺物の内容が内容だ。万が一にでも失敗は許されない危険な代物だったからな。
その調査隊の中には俺も組み込まれた。
学院生としての成績もあったろうが、魔法の技術も買われたんだろう。
遺物を狙って襲ってくる連中も考えられる。
そういう『いざ』という時に、俺の魔法は間違いなく役立つからな。」
「それはどうかな?」
ギルベルトがやや不満を感じさせる声でレオンハルトに尋ねた。
「ローデンバルト師は実直な方だ。
君の研究者としての将来を見据えて、十分な経験を与えようと配慮してくれただけなのかもしれないだろう?」
「そうかもしれない。
だが、その後の事を考えると、俺の魔法が役に立ったのは間違いないんだ。」
レオンハルトの言葉を聞いたミナトは、右手をそっと左肩に乗せた。
背中に負った大火傷で命を落とすところをレオンハルトが救った、という事実を思い出し、瞳を閉じて心の底からの感謝を噛みしめている。
「いずれにしても、今回の件、ローデンバルト先生が調査隊を率いるだろうと、誰もが確信……いや、疑うことなど微塵もなかったはずだった。
だが、信じられない事に学院長からの命が下り、カウフマン助教授が調査隊の責任者となってしまった。
表向きの名目は、『危険な遺物の探索を学部の最高責任者に任せ、もしもがあったら取り返しがつかない』という、もっともらしいものではあったが、それにしても解せない。
カウフマンの性格は先にも述べた通りだからな。皆が皆、不満や不平を腹の中に抑え込んで出立する形になったんだ。」
レオンハルトが言葉を切ると、少し間をおいてミナトがおずおずと切り出した。
「そこからはあたしも覚えてる。
かなりたくさんの人がやってくるって、ちょっとした騒ぎになってたし。」
「だろうな。
総勢二十三名の研究者が山腹の遺跡を発掘しようとやってくるんだ。
あれだけの小さな村じゃあ、騒ぎにならないはずがない。」
レオンハルトの答えを聞いて、ミナトが目を細めて記憶をたどる。
「炊き出し手伝って、洗濯手伝って……なんだか、とっても楽しかった。
研究者の先生たちにかわるがわるで勉強も見てもらった。
でも……。」
「そう……『事故』が起きた……。」
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