第17話 その後の待合室
キィー、ガチャ。とジェイルさんが待合室を出た。
フゥ…と息が出る。
やはり彼は周りの人とは少し違っていた。
ほとんどの人は昇格となると「ぜひ!」といった面持ちでランク昇格を受ける。
そのほとんどの人達…初心者はランク昇格した先で報酬が上がる事だけを見てしまい、その中に潜む危険は見えなくなってしまう。
だが彼はランク昇格に少し首を傾げ、挙句の果てには辞退まで言い放った。
彼は自身の強さがどれ程かを知っているからこそ、そのランクで強くなり安心出来るようになってからランクは昇格しに来るのだろう。
個人的にはそれがありがたかった。
初心者は昇格の話をすると"自分は強くなった"と勘違いして快くランク昇格を受け入れてしまう。
例え────必要最低限のランク昇格条件"だけ"がクリアしたとしても…
初心者程早く認められ昇格し、富や名声を我が物にし、国民からの賞賛を浴びたがる。
確かにそれは間違ってない。
そういう夢を見て冒険者になる人も少なくないからだ。
だがいざモンスターを目の前にして殺せなかったり逆に殺されてしまったり、後遺症の残る怪我をして冒険者の道を途中で断念したり、思っていた冒険者の姿と違って落胆し冒険者を辞める人もいる。
それが一般的な冒険者が見る普通であり現実だ。
色々と考えていると入口のドアが開く。
受付をしている1人、黒いショートヘアの女性、ニーナが多くの書類を抱えて入ってきた。
「アーリアさん、そこでジェイルさんとすれ違ったんですけどもしかして昇格しました?」
「いえ、彼は辞退しましたよ」
「やっぱ…ってはい!?辞退!?」
どうやらニーナからしたら予想外だったようだ。
「まぁ確かに彼、野心的な感じは見られないしモンスターを見付けてはひたすら倒すような人っぽくはありませんよね。どちらかと言うと無意味な殺生とか刃傷沙汰は極力控えるような感じですよね」
「ニーナさんもそう思いますか」
ええ、まぁ…とソファーに座る。
「一応今回の昇格の件は保留としておいて欲しいとの事です。彼自身、最近ではゴブリンを倒す練習もして依頼をこなせるようにしているようなんですよね」
「へー、練習ですか。確かに依頼でなければ例え倒すのに失敗しても評価は下がりませんからね…」
まさか薬草採取の傍らでそんな事を…と呟いている。
と、私はニーナが持っている書類が気になった。
「所でニーナさん、その書類は?」
「あ、そうでした。この事でアーリアさんとギルドマスターに報告する事があったんです」
ニーナの真剣な眼差しとその言葉を聞いて一気に気が引き締まる。
「シルバーランクのウォルフさん一行によるとやはりモンスターの出現が多くなっているとの事です」
ニーナが私に資料を渡す。
その資料には冒険者達から聞いた調査依頼の全容が書かれていた。
「なるほど、以前よりゴブリン、コボルトといった弱モンスターに加え、最近ではシルバーウルフ、ホーンベアといった中クラスのモンスターも異常発生している…と…」
普通ならこのアイルミロクでこれ程の異常発生は見受けられない。
仮にあるとしたらラテゼ魔工皇国辺りだろうか。
そしてこれは恐らく…
「アーリアさん…」
「恐らくニーナさんと私の考えついた結果は同じでしょう」
恐らくこれは新たなダンジョンの発生だ。
だが…
「ダンジョンの入口は見付かってるの?」
「それなんですが、依頼は出しているのですが少し時間は掛かるみたいです」
さすがにそうですよね…とため息が出る。
「調査依頼は危険が多い為、最低でもシルバーランクに依頼してましたが一刻も早くダンジョンの入口を見付け、駆除するつもりなので暫くしたら全ランクに依頼書の発行をお願いします」
ニーナは、分かりました。と立ち上がり、待合室を出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。