第15話 殺すという事
森を出て空けた場所、草原に出た。
するとすぐに俺はまた座り込む。
「ハァ~…」
まだ変な汗が止まらない。
手を見ると微かに震えていた。
そしてその手にも最初に剣を突き刺したゴブリンの身体を貫く感覚が残っているように思えた。
やはりだ…
やはり俺は…
生き物を殺す事に慣れてない。
いやむしろその感覚の方が正しいのだ。
元の世界…日本でも日常的に生きた生物を殺すという事はしていない。
そもそもそんな事をする性格でも無い。
経験が~とか、慣れれば~とか言う人もいるかもしれないがだったらその人達もやってみろって言いたくなる。
それほど殺す事に躊躇や嫌悪感を感じていた。
「…一旦帰ろう…」
俺は重い足取りで街へと帰って行った。
◆◇◆◇◆◇
「あぁ~…」
ギルドで報酬を受け取り、宿に戻ってきた俺はすぐにベッドに倒れ込んだ。
「こんなんで高ランクとか無理だろ…」
今回の件でよく分かった。
まずは生き物を斬る事、殺す事に慣れないと…
いや、慣れたくは無いがこの世界で生きていくには街の安全を脅かすモンスターの命を奪わないといけない。
それが冒険者にとっての収入の一部となるからだ。
恐らく俺自身もいずれは高ランクになって嫌でもモンスターと闘わなければいけなくなり、それが依頼だとしたら殺せなかったという理由でモンスターを逃がすと失敗という事に繋がる。
そうなればギルドから信頼を受け、高ランクになった意味が無くなる。
ならば今回考えた"薬草を取りながら弱モンスターを狩る練習"というのは上のランクに上がる為に割といい気がする。
「お金の方もしばらくは大丈夫だし、やってみるか」
俺は立ち上がり、食事をしに行った。
◆◇◆◇◆◇
翌日、俺は昨日とは違う所に来ていた。
「さて、探してみるか」
とは言ったものの…
「これ、迷ったら一発アウトっぽくね?」
正直俺自身の方向感覚は皆無と言っていいだろう。
日本の電車でも行先と真反対に行く電車に乗ったくらいだし…
「やっぱり前に食事してた奴らの所にでも行ってみるかな。で、そこまでの道のりで出会ったら狩猟する練習をするって事で」
うろ覚えの道を思い出しながら歩を進める。
暫くすると何やら声が聞こえた。
歩く足のスピードを緩め、音を立てないようにゆっくりとその現場を草むらの中から伺う。
そこには2体のゴブリンが何か喧嘩のようなものをしていた。
(何してんだろ?…ん?)
ゴブリン達の足元にあったのは沢山の木の実と2尾の魚。
喧嘩をしてる感じを見るとこれらを持って帰って保存するか、今ここで食べるかを言い合っているように見えた。
(まぁ、実際はどうか知らないけども…けど…)
これは練習のチャンスだ。
ゆっくりとロングソードを引き抜こうとした。
だがそれを途中で止める。
(…試しにこれ使ってみようかな)
剣を収め、もう1本の剣を眺める。
【竜魔水晶剣】
そう、ここで実戦投入もしてみるか?と思い、その刀身が透明な剣を引き抜く。
(改めてよく見ても綺麗だよなぁ…)
俺は竜魔水晶剣の刀身をじっくりと見る。
刀身は繋ぎ目というものが1本もなければ透明な刀身をすり抜ける景色にもブレが無い。
それはつまり長年剣を作ってきた人が均一にしっかりと竜魔水晶を溶解した後に丁寧かつ、高度な技術で叩き伸ばしたからこそ透き通った刀身から通して見える景色に歪みが無い。
そして綺麗さを保ちつつ武器としての性能を守ってるからこそ、しっかりとした切れ味を誇っているのだろう。
ならばこれがどれ程使えるかを知りたくなるのが人の性という訳だ。
竜魔水晶剣をしっかりと握る。
今回は奇襲は無し。
あれは単に勢いで後ろから突いたから倒せたのだ。
ならば今回は実践らしく真正面から向き合う。
という事で戦闘開始だ。
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